映画を観る前に知っておきたいこと

【アメリカン・スナイパー】アメリカ戦争映画史上最大のヒット作

アメリカン・スナイパー

米国史上最多160人を射殺した、ひとりの優しい父親ー

アメリカ海軍特殊部隊ネイビーシールズで“伝説”と呼ばれた狙撃手クリス・カイルの半生を綴ったベストセラー自伝「ネイビーシールズ最強の狙撃手」を原作に、彼の戦争体験と帰還兵としてPTSDに苦しむ姿を映し出す。

2015年アカデミー賞の6部門(作品賞、主演男優賞、脚色賞、録音賞、編集賞、音響編集賞)にノミネートされ、クリント・イーストウッド監督のキャリアの中で最もヒットした作品となった。同時にアメリカで公開された戦争映画史上最高の興行収入を記録している。


予告

あらすじ

アメリカ同時多発テロを契機にイラク戦争が勃発。アメリカ海軍特殊部隊ネイビーシールズに所属するクリス・カイルは2003年から2009年に除隊するまで4度のイラク遠征を経験した。アメリカン・スナイパー

© HollywoodREPORTER

イラク戦争で狙撃手としてアルカイダ系武装勢力の戦闘員160人を射殺したカイルは、敵からは“悪魔”と呼ばれ、味方からは“伝説”と評される存在となった。
アメリカン・スナイパー

© YouTube

少年にライフルの照準を合わせるカイル。味方を助けるためなら少年兵であろうが容赦なく引き金を引いた。それでも遠い祖国に残してきた妻子に対して良き夫であり良き父親であろうとするカイルは、その矛盾に苦んだ。
アメリカン・スナイパー

© ArcherAvenue

帰国する度に家族との溝は深まり、戦争で守れなかった仲間達や過酷な戦地の記憶はカイルの心を次第に蝕んでいった。社会にも馴染めず、虚無感や罪の意識に捕われたカイルは医師の勧めで同じ傷痍軍人(戦争で傷を負った軍人)と交流していく。次第に人間の心を取り戻すカイルだったが……


映画を観る前に知っておきたいこと

PTSDとは?

劇中で描かれるPTSDとは心的外傷後ストレス障害、いわゆるトラウマのことである。帰還兵は戦場で体験した過酷な状況が引き金となってPTSDを発症する。それは仲間の死であったり、自身の命を脅かすような体験だ。

PTSDを発症すると、日常生活で著しい苦痛を伴い、生活機能に障害をもたらすことがある。これにより帰還兵の多くは社会復帰すらできなくなる。酷い場合は自殺する者もいる。

史実のカイルは帰還兵が抱えるPTSDの問題について社会が無関心でいることを非常に嘆いており、海軍除隊後は同じ悩みを抱える帰還兵を支援する慈善事業に尽力した。

制作者の手を離れた名作

大ヒットしたことで作品の内容を巡っての論争は加熱した。その焦点となったのは「この映画は好戦的なのか反戦的なのか」だ。

保守派は愛国的な映画だと評価し、リベラル派はクリス・カイルを殺人者だと言った。

主演とプロデューサーを兼任したブラッドリー・クーパーは、この映画はイラク戦争を知ってもらう為の映画ではないと語る。また、監督のこれは戦争の追体験であり、PTSDに苦しんだ一人の帰還兵の人間ドラマというのが制作者の意図である。

ちょうど日本で『アメリカン・スナイパー』が公開されている頃、ISISによる日本人2人の殺害が連日トップニュースだった。緊張する中東情勢や止まないテロの脅威は、映画の見方を変えてしまった。

クリス・カイルを英雄視することで映画が興行的な成功を手にするという矛盾は、制作者の意図を置き去りにしてしまったのではないだろうか。

「『アメリカン・スナイパー』は職業軍人や、海軍の将校、何らかの事情で戦地に赴いた人々を描いている。戦場では様々なことが起こるという見方以外に、政治的な価値観は反映されていない。」

クリント・イーストウッド

© wikipedia

「スナイパーは背後から人を撃つ臆病者だと教わった。ヒーローではない。」

映画監督 マイケル・ムーア

© wikipedia

※後にムーアは叔父が第2次世界大戦で日本軍の狙撃手に射殺されていることや、本作に反戦のメッセージがあるなど作品そのものについては評価していると発言

狙撃手としてのクリス・カイル

敵からは“ラマーディーの悪魔”と恐れられ、味方からは“伝説”と評された男クリス・カイル。彼が射殺したアルカイダ系武装勢力の戦闘員は160人に及ぶ。非公式ではあるが、255人という説もある。

この記録は米国史上最多とされているが、アメリカには自伝の中でカイル自身が尊敬していると記すカルロス・ハスコックという狙撃手がいた。ベトナム戦争で彼が射殺したベトナム兵は300人以上だとも言われる。ジャングルでのゲリラ戦故、真偽の程は定かではない。

また、世界最強のスナイパーはフィンランド軍の狙撃手シモ・ヘイヘと言われている。542人を殺害している。

戦場が違うので、こんな記録で狙撃の腕を推し量るのは馬鹿げている。そんなことに興味があるならオリンピックでも見ていればいい。

ここで言いたいのは、そんな記録は本人たちにとって決して名誉ではないということだ。

カイルが“伝説”と呼ばれたのは、「誰一人として残していかない」というシールズのモットーを自ら行動で示していたからだ。そんなカイルは若い兵士にとって憧れだった。記録ではなく、あくまで戦場での彼の存在が“伝説”だったのだ。

「私は射撃が好きだし、狩猟を愛している。しかし、殺しを楽しんだ事はどんな相手だろうと一度も無い。それは私の仕事だった。もし私が敵を仕留めなければ、彼らは私の後ろにいる。我々が海兵隊の格好をさせていた沢山の子供たちを殺していただろう。私に選択の余地は無かった。」

アメリカ海兵隊狙撃手 カルロス・ハスコック

実話かどうか

映画が実話かどうかを言及すると、どうしてもネタバレに繋がってしまう。ただ、この手の映画は事実を知ってから観るのも悪くないので、ここから先は個人の裁量に任せるとしよう。映画を見終わった後にもう一度帰ってきてくれれば、僕としてはそれが一番幸せだ。

click! ※ネタバレ

コメント2件

  • けま より:

    見て損のない映画です。
    すごかった。とにかくすごかったです。

    戦争の臨場感や緊張感とか、よく笑ってたクリスが少しずつPTSDに蝕まれていく様子とか。
    この映画はクリス・カイルの物語で、戦争の映画じゃないと思います。
    最期の方は実際の映像も流れて、感極まって泣きました。

    クリスの周りの兵士たちには本当に色んな人がいます。
    クリスを助けたり激励してくれる仲間もいれば、クリスの隣でゲームしてるやつ。
    敵に位置がばれるため、自らの身可愛さにクリスを止めようとする人も。
    みんなが「祖国のため、仲間のため」っていう気持ちでいるわけじゃない。
    本当に人間を生々しく描いています。

    ラストシーンで、クリスはPTSD患者の一人の銃弾に倒れます。
    戦争で心を病んだクリス、クリスを撃った加害者、二人ともが戦争の被害者でした。
    ずっと人を撃ってきたクリスの最期が、自分が助けようとした人に撃たれてしまうなんて。
    克服後、娘や息子とも楽しそうに遊んでて、タヤとも幸せそうだったのに。
    クリスはこれからやっと穏やかに過ごせそうだったのに。
    そんな気持ちが溢れて来て涙が止まりませんでした。

    本当に面白い映画でした。
    もう終わってしまっているかもしれませんが、ぜひ劇場で見てほしいです。

  • 今川 幸緒 より:

    けまさんがおっしゃるように本当にこの映画は人間ドラマですね。一人一人が戦争の被害者であって・・・
    でも裏を返せば戦争をやっているのもまた人間の生々しさなんですよね。そういうジレンマについても考えらされます。

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