映画を観る前に知っておきたいこと

あん
人は何のために生まれてきたのか

投稿日:2015年4月29日 更新日:

あん

やり残したことは、
ありませんか?

『殯の森』(07)でカンヌ国際映画祭グランプリを受賞してみせた女流監督・河瀨直美が、生きることの意味を問いかけた心揺さぶる人間ドラマ。かつてハンセン病患者だった老女が尊厳を失わず生きようとする姿と彼女を取り巻く人々の人間模様を丁寧に紡ぎ出す。

原作はドリアン助川の同名小説『あん』。初版の発行部数は小規模ながら、その感動は人から人へと伝染するように、いつしかロングセラーに。また、第25回読書感想画中央コンクールで指定図書(中学校・高等学校の部)にも選定された作品でもある。

円熟した演技で観客を魅了する樹木希林を主演に迎え、抜群の演技力で独特の存在感を放つ永瀬正敏、樹木の実孫である内田伽羅、キャリア50年を超えようやく樹木との共演が実現した市原悦子、豪華キャストが映画を彩る。

2015年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門オープニング作品。


予告

あらすじ

刑務所暮しの後、縁あってどら焼き屋「どら春」の雇われ店長として単調な日々をこなす千太郎(永瀬正敏)。ある日、求人募集の貼り紙を見た、老女、徳江(樹木希林)が店にやってきた。彼女をいい加減にあしらい帰らせた千太郎だったが、手渡された手作りのあんを舐めた彼はその味に驚かされた。徳江は50年あんを愛情込めて煮込み続けた女だったのだ。

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© 2015映画「あん」製作委員会/COMME DES CINEMAS/TWENTY TWENTY VISION/ZDF-ARTE

店の常連である中学生ワカナ(内田伽羅)の薦めもあり、千太郎は徳江を雇うことにした。彼女の作った粒あんに、店はみるみるうちに繁盛。しかし、かつて徳江がハンセン病を患っていたという心ない噂によって客足は遠のいてしまい、それを察した徳江も店を去った。

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© 2015映画「あん」製作委員会/COMME DES CINEMAS/TWENTY TWENTY VISION/ZDF-ARTE

徳江を追い込んだ自分に憤る千太郎と徳江と心を通わせていたワカナ、二人は彼女のことを探し始めるが……


映画を見る前に知っておきたいこと

『萌の朱雀』(97)でカンヌ国際映画祭カメラ・ドール(新人監督賞)を史上最年少となる27歳で受賞し、『殯の森』(07)ではグランプリ、そして2009年には同映画祭に貢献した監督に贈られる「金の馬車賞」を女性として、またアジア人として初めて受賞した河瀨直美監督。カンヌでの彼女の評価は『そして父になる』(13)の是枝裕和、『岸辺の旅』(15)の黒沢 清以上である。

これまで人間の生と死を見つめ続けてきた河瀨監督が、本作ではハンセン病という重たいテーマから生きることの意味を問いかける。

ハンセン病

この病は、らい菌という細菌による感染症の一種であり、その起原は古代中国の文書、紀元前6世紀のインドの古典、キリスト教の聖書などにも記されている。日本では、720年の歴史書「日本書紀」に記録が残されている。

ハンセン病が恐ろしいのは、皮膚がただれ、病気が進行すると容姿や手足が変形することであり、どこの国においても患者は忌み嫌われ、差別を受けてきたことだ。そして、感染力が強い病気という誤った認識が根付いてしまったことだ。

日本も明治の頃に政府が患者を療養所に入所させ、一般社会から隔離したことが差別に拍車をかけてしまった歴史がある。しかし、実際のハンセン病は“最も感染力の弱い感染病”と言われるほど感染力は弱い上、現在は正しい治療を受ければ完治する病である。

映画がハンセン病の認識を正すことを目的としているわけではないが、自然と関心を抱く人が増えてくれることを願う。

すべての人に生きることの意味を問う

『あん』は河瀨監督が初めて原作ありきで撮った作品である。そして異例のロングラン上映が、原作同様にその感動が人から人へと伝えられたことを物語っている。

また、バレッタ映画祭(マルタ共和国)で最優秀作品賞&最優秀主演女優賞のW受賞、バリャドリード国際映画祭(スペイン)では最優秀監督賞、45カ国以上での公開など、海外での高い評価がハンセン病というテーマが世界共通のものであり、映画が持つ感動もまたそうなのだと確信させた。

かつてハンセン病は天刑や呪いだと考えられていたが、患者からすれば自ら自由にできない運命はそんなようなものかもしれない。差別や偏見と対峙する徳江は決して尊厳を失わない。変わらないからこそ物語の季節が美しく移り変わるように、変化するのは彼女を取り巻く人間の方だ。そして、それは映画を鑑賞した人たちである。

飾り気がないゆえ深く、生きることの意味を考えさせ、優しいタッチは柔らかな余韻として、観る者に“今”を強烈に問いかける。

-ヒューマンドラマ
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執筆者:


  1. 桑田雅子 より:

    素晴らしい映画でした。友人から勧められて見ました。涙が止まりませんでした。
    言葉少なく、ゆっくり訥々と語る樹木希林さんの言葉が、とても心に響きました。
    私たちはこの世を見たり聞いたりするために生まれてきた。何かになれなくても、生きる意味はあるんじゃないでしょうか…。
    とても重たく、心揺さぶられました。
    映像も音楽も美しく、この社会で顧みられない差別される人たちの悲しみが伝わってくる映画でした。

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