映画を観る前に知っておきたいこと

【美術館を手玉にとった男】実際にあった前代未聞の贋作事件

投稿日:2015年10月24日 更新日:

美術館を手玉にとった男

2011年にアメリカの多くの美術館に展示されている絵画が贋作であることが発覚した。贋作画家の名前はマーク・ランディス。彼は全米20州に渡り46の美術館を30年間騙し続けてきた。しかしこの事件、普通なら詐欺事件であるはずが、マーク・ランディスは作品をすべて寄贈し、金銭を一切受け取っていないため罪には問われなかった。ならば彼はなぜこのような奇妙な行動をとったのか?アメリカで話題を呼んだ謎の贋作事件に迫るドキュメンタリー。

監督を務めたのは、ドキュメンタリー映画で多くの受賞歴を持つサム・カルマン。また共同監督として、美術界を深く知るドキュメンタリー作家・ジェニファー・グラウスマンも製作に関わっている。


  • 製作:2014年,アメリカ
  • 日本公開:2015年11月21日
  • 上映時間:89分
  • 原題:『Art and Craft』

予告

あらすじ

2011年に全米中の多くの美術館に展示されている絵画が贋作であることが発覚した。贋作画家の名前はマーク・ランディス。彼はこれまでに100を越える贋作を製作し、全米20州に渡り46の美術館を30年間騙し続けてきた。ニューヨークタイムズやフィナンシャルタイムズ、テレビなどのメディアを騒がせ、FBIもランディスを追っていた。しかし、ランディスが罪に問われることはなかった。彼は自身が製作したピカソ、ドーミエ、ヴァトー、イコン、ディズニーなどの贋作をすべて美術館に寄贈し、金銭を要求することはなかったからだ。では、なぜランディスはこの奇妙な贋作事件を起こしたのか?美術館を手玉にとった男ランディスの贋作を最初に見破ったのは、美術館職員のマシュー・レイニンガーだった。レイニンガーはランディスの贋作をやめさせようとしたが、ランディスはそれを聞こうとはしなかった。それは、ランディス自身がこの一連の行為を慈善活動だと考えていたからだ。時には神父の格好をして自身の製作した贋作を美術館に寄贈してきた。美術館を手玉にとった男しかし、レイニンガーの元同僚、アーロン・コーワンが思いついたあるアイデアによって、ランディスの運命は新たな局面を迎えることに……


映画を見る前に知っておきたいこと

最も有名な贋作フェルメールの「エマオの食事」

『美術館を手玉にとった男』で描かれた贋作事件は、これまでにあった贋作事件とはまったくの別ものだ。普通、贋作を作る目的は金儲けだが、ランディスのそれには良心がある。なので映画は、そこに関わった人たちやランディスの社会に対する歪みや苦悩をユーモラスに描くことができた。これにより、扱うテーマとは裏腹に、なんとも言えないチャーミングでおもしろい映画になっている。ランディスの奇妙な行動が奇妙な映画を生んでしまった。

そこで、世界で多くある贋作の中でも最も有名なものを紹介したい。1936年にハン・ファン・メーヘレンというオランダの贋作画家によるフェルメールの贋作「エマオの食事」だ。これはフェルメールが描いたことのない宗教画だったが、メーヘレンはあえてそこに挑んだ。徹底的にフェルメールの作風を研究することで、当時の専門家を見事に騙し、ロッテルダムのボイマンス美術館に54万ギルダーで買い取らせた。日本円にして約3500万円ぐらいだろうか。生涯で贋作により稼いだ金額は70億円とも言われている。

メーヘレンは金銭目的とは別に、自分を認めようとしないオランダ美術界に対する復讐という動機もあった。画家として大成できなかったメーヘレンは皮肉にも天才贋作者と呼ばれていた。また彼が辿った運命も皮肉なものであった。1945年にフェルメールの贋作「キリストと悔恨の女」などをナチス・ドイツの高官に売却したことで罪に問われ、長期の懲役が科せられた。しかし、結局はドイツの敗戦により無罪となり、メーヘレンは売国奴から一転してナチス・ドイツを騙した英雄となった。その他の贋作についても禁固1年という詐欺罪の中では最も軽いものとなったが、その後すぐ心臓発作で亡くなっている。なんとも波瀾万丈な晩年である。

こうした贋作は人騒がせで、とても誉められた事ではないが、ランディスもメーヘレンも嫌いにはなれない。贋作画家はある意味誰よりも芸術に対して研究熱心で、ちょっとした違いから贋作の道に行ってしまったという感じがする。メーヘレンはおそらく誰よりもフェルメールを愛していたのではないだろうか。ランディスは贋作を描きながらも、オリジナルの絵画など存在しないと言う。もともと何かしら影響を受けて描かれたものだと。彼ら贋作画家の技術自体は凄まじいレベルにあるのは確かなのだから、社会に対する歪んだ考えがなければ一流の芸術家であったかもしれない。お金に対する執着心や、名声を欲する気持ちなど、それらを抜きにして、有名な画家たちの作品としてではなく、自分の名義で作品を発表すれば違った評価があったはずだ。

そういえば最近、日本のオリンピックエンブレムでも似たような問題が起こっていたが、この映画に触れて盗作と贋作はまったく違うと気付かされた。オリンピックの方には哀愁も何も感じない。

メーヘレンの贋作  フェルメール「エマオの食事」美術館を手玉にとった男

本物のフェルメール「地理学者」美術館を手玉にとった男

-ドキュメンタリー, 洋画

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