映画を観る前に知っておきたいこと

【明日へ】韓国で初めて女性労働者の過酷な現実を描いた映画

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明日へ

2007年に韓国で実際に起きた、不当解雇への抗議のためパートタイマーたちが大型スーパーを長期間占拠した事件をもとに労働者たちの過酷な現実が描かれる。韓国では、「非正社員」が全労働者の45%を占め、その半数は女性、つまり役4人に1人の女性が雇用不安にさらされているという現状を韓国国内で初めて映画化した本作は、週末興行成績で第2位を記録し、その関心の高さを示す結果となっている。格差社会、ワーキングプア、劣悪な労働環境の中で、たくましく生きる女性の姿が感動を呼ぶ社会派ヒューマンドラマ。

監督を務めたのは、本作が長編2作目となるプ・ジヨン。主人公・ソニ役を演じたヨム・ジョンアは「第51回百想芸術大賞 映画部門」で女性最優秀演技賞を受賞した。また、ソニの息子役としてアイドルグループ「EXO」のD.O.(ディオ)が本名のド・ギョンス名義で出演し、スクリーンデビューを果たしている。

誰の身にも起こり得る現実を通し、すべての人にエールを贈る映画。

  • 製作:2014年,韓国
  • 日本公開:2015年11月6日
  • 上映時間:110分
  • 原題:『Cart』

予告

あらすじ

レジ係のソニ(ヨム・ジョンアは、大手スーパーマーケット「ザ・マート」で家族のために懸命に働いていた。夫は出稼ぎをしており、家計も苦しい状況で2人の子供を育て、家事までこなさなければならなかった。そんな中、ソニは上司の嫌みや悪質なクレームにも我慢し、入社5年でようやく正社員への昇格が決定した。また、ソニ同様に同僚たちもそれぞれ事情を抱えながら働いていた。明日へしかしそんなある日、会社の方針で現場の業務を外部に委託するという理由で、非正規雇用者たちに“解雇通達”が下されるのだった。それはあまりに一方的で、あまりに突然の事だった。数十人の女性従業員たちは準社員の立場から一転、職を失ってしまった。従業員の味方である人事チームのカン代理(キム・ガンウ)も、悔しさを滲ませる。やがて彼女たちは、力を合わせて労働組合を結成。ソニに加え、労組に詳しいシングルマザーのヘミ(ムン・ジョンヒ)、勤続20年のベテラン清掃係スルレ(キム・ヨンエ)の3人が交渉役に選ばれた。しかし企業側が交渉を拒否したため、ついに労働組合はストライキを決行する。明日へスーパーを長期間占拠するも、警官隊の突入によって女性たちは強制的に引きずり出されていく。そんな中、自分の立場を顧みずにカン代理は失神したスルレを助ける。そして、そのことが原因でカン代理も解雇されることになる。また不法占拠の罪で警察に連行された女性たちはマスコミから叩かれることに。明日へ会社の目的が“契約社員は派遣に、正社員は契約社員にして売却する”ことだと知ったカン代理は、自ら労働組合委員長になり徹底的に戦うことを決意する。家族を守るため、また自分たちの誇りを守るため、強大な企業を相手に解雇撤回を求める闘いが始まる。彼女たちは一致団結し、自らの職を取り戻す事が出来るのか……

映画を見る前に知っておきたいこと

韓国の女性の立場

本作は真正面から社会問題に切り込んだ、韓国では珍しい部類に入る作品だと思う。一応、たくましく生きる女性の姿に感動するというエンターテイメント的要素はあるものの、ここまで社会派の作品が週末興行成績で第2位というなかなかのヒットを飛ばしていることが、韓国国内の女性の立場が弱いことを表している。そこに共感する人たちがこぞってこの映画を見に映画館に足を運んだのではないだろうか。

韓国は儒教思想の影響によってアジアで最も厳しい家父長制があった国であり、それが男尊女卑を生んでしまった。女性初のパク・クネ大統領が登場したことでもわかるように、現代になってその傾向は薄れてきているものの、特に経済的な面では女性が軽視される風潮が未だに残っている。

経済協力開発機構のデータでは、韓国の女性の給与は男性より39%少なく、男女間の給与格差は調査対象となった28カ国の中で最も大きかった(2011年調査)。また、女性の大学への進学率は1990年の31.9%から2010年には80.5%と大きく向上しているが、女性の活躍の場が社会に用意されていないのが現状だ。これは韓国にとって経済の発展を妨げる大きなロスと言える。教育を充実させたにもかかわらず、それが実際には生かされていないのは国にとって浪費になってしまっているのだ。

こうした社会問題に一石を投じる意味でも本作は重要な役割を果たしている。イギリスには労働階級者をテーマにした社会派映画が多くあり、それを受け入れる下地も出来ているが、韓国でも本作のような作品が出てきたことを嬉しく思う。これこそ映画が持つ力であり、意味でもあるからだ。本作は社会派でもありながら、ヒューマンドラマでもある。社会問題をエンターテイメントに昇華することによって多くの共感を生み、個人の心にも深く刺さっていく。韓国では、これからこういう作品が多く生まれる気がする。そして多くの人がそれに触れるために映画館に行くようになるのではないだろうか。

-ヒューマンドラマ, 洋画
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