映画を観る前に知っておきたいこと

COP CAR/コップ・カー
コーエン兄弟臭漂う不条理スリラー

投稿日:2016年3月13日 更新日:

COP CAR/コップ・カー

ガキども ──
遊びは終わりだ。

コロラド州の架空の地域であるクインラン・カントリーを舞台に繰り広げられる、一台のパトカーを巡る家出少年たちと邪悪な保安官の追跡劇。

ホラー映画界の帝王、イーライ・ロスにその才能を高く買われた注目の若手監督ジョン・ワッツが、「悪さをしたら罰を受ける」そんな当たり前の教訓を独自のユーモアで両断してみせる。

抜群の知名度と個性的な芝居でちょい役でもトップクレジットされる悪役、ケヴィン・ベーコン主演&製作総指揮。

予告

あらすじ

こっそり家を抜け出した二人の少年、トラヴィス(ジェームズ・フリードソン=ジャクソン)とハリソン(ヘイズ・ウェルフォード)は人気のない森で乗り捨てられた一台のパトカーを発見した。車にキーが付いたままだと気づいた彼らは、早速田舎道を猛スピードで暴走していく。

COP CAR/コップ・カー

© Cop Car LLC 2015

その少し前。保安官ミッチ・クレッツァー(ケヴィン・ベーコン)が、パトカーのトランクから引きずり出した死体を地面に掘った穴に放り込む。全てを済ませて引き返したところ、乗ってきたはずのパトカーが跡形もなく消滅していた。車を盗み出し街へ戻ったクレッツァーは、警察無線を探り当て、無謀な盗人たちにすぐにパトカーを返すよう無線で警告する。

COP CAR/コップ・カー

© Cop Car LLC 2015

車中にあった銃や防弾チョッキで遊んでいたトラヴィスとハリソンは、その通信で初めて事の重大さを思い知った。車を返すべきか、このまま逃げるべきか。揉める二人はトランクから聞こえる不審な物音に気づく……

映画を観る前に知っておきたいこと

二人の少年と悪徳警官、そこに彼らを取り巻くごく少人数の登場人物が加えられたシンプルな構成は、ジョン・ワッツの生み出すコロラド州の架空の地域クインラン・カントリーに観る者を閉じ込めていく。

小さな世界で完結させたB級スリラーの中で見せるワッツ監督のシュールな語り口に、どこかコーエン兄弟の雰囲気が漂う1本である。

ジョン・ワッツ

ジョン・ワッツのデビューのきっかけは、映画学校時代に友人のクリス・フォードと共に制作したホラー映画のフェイクトレーラーだった。製作総指揮にあのイーライ・ロスの名前を勝手にクレジットし、それを見た監督本人がおもしろがって製作に携わったことでデビュー作『クラウン』(14)が完成している。

当のロス監督も映画学校の卒業制作で、『レザボア・ドッグス』(92)のパロディホラーを撮っていることもこの奇妙な巡り合わせに関係しているのかもしれない。

ともあれ、ジョン・ワッツはイーライ・ロスがその才能を認めた監督として華々しくデビューを飾ったわけだが、2017年に公開される『スパイダーマン』新シリーズの監督に抜擢されたことが、彼をハリウッド注目の若手監督まで押し上げた。その試金石とも言える作品がこの『COP CAR/コップ・カー』である。

ジョン・ワッツの才知

この物語は少年たちの出来心が招いてしまった悲劇ではあるが、また彼らを追う保安官もこの上なく悪い奴だ。大して悪びれもしない者同士の追跡劇はあまりに荒唐無稽なため、ケヴィン・ベーコンの執拗かつ狡猾な悪徳保安官ぶりもどこか滑稽に映る。

「悪さをしたら罰を受ける」そんな当たり前の教訓すらこの不条理な世界には通用しないのだと言わんばかりに、ワッツ監督のユーモアが映画を支配しているのである。

悲劇の中にも奇妙な可笑しみを忍ばせながら展開するストーリーは誰に感情移入させるわけでもなく、スリラーの中で社会の不条理さを説いてみせる様は、まさにコーエン兄弟のようではないか。

マーベルが敢えて新世代の起用に踏み切ったのも、この映画にジョン・ワッツの才知を見出したからなのだろう。

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