映画を観る前に知っておきたいこと

【クリード チャンプを継ぐ男】スポ根映画の金字塔「ロッキー」の新たな伝説

投稿日:2015年12月3日 更新日:

クリード チャンプを継ぐ男

1970年代のアメリカを活気付けたスポ根映画の金字塔『ロッキー』の新しい伝説が始まった。ロッキーの盟友であり、ライバルでもあったアポロ・クリードの息子アドニス・ジョンソンがロッキーをセコンドに熱いドラマを繰り広げる。

監督・脚本を務めるのは、『フルートベール駅で』でサンダンス国際映画祭のグランプリ・観客賞をダブル受賞した注目の新鋭ライアン・クーグラー。同じく『フルートベール駅で』での好演が評価されたマイケル・B・ジョーダン。

ハリウッドの安易な続編とは全く違う、新しい後継的なやり方でロッキーを復活させた制作エピソードにも注目だ。

  • 製作:2015年,アメリカ
  • 日本公開:2015年12月23日
  • 上映時間:137分
  • 原題:『Creed』

予告

あらすじ

アドニスは、父のことについてよく知らないままに育った。父であるアポロ・クリードは、彼が生まれる前に死んでしまい、受け継いだのはボクシングの才能だけだった。

フィラデルフィア―。

亡き父がロッキー・バルボアと伝説的な死闘を繰り広げた地だ。この地に降り立ったアドニスは、父の盟友でもあるロッキーを尋ねトレーナになってほしいと頼み込む。

ロッキーは愛する妻に先立たれ、ボクシングからは身を引いて孤独に暮らしていた。しかし、アドニスの中にアポロの面影を感じ、純粋なボクシングへの情熱に中てられてトレーナーになることを引き受けるのだった。クリード チャンプを継ぐ男ロッキーはアドニスに自分の持てる全てを托そうとした。父の血とロッキーの精神に支えられ、アドニスはどんな強敵を前にしても一歩も引かず、勇敢に戦う。

親の七光りと嘲りを受けようとも、リングに何度叩き付けられようとも、決して諦めることはなかった。

そうして力をつけたアドニスは、いよいよ世界王者への挑戦権を手にする。しかしタイトルマッチの直前、ロッキーの体に異変が起こる……

ロッキーは、死に至る病に冒されていた。

「長生きするより女房と一緒に居たい」そう言って嘆くロッキーにアドニスは言う。

「二人で一緒に戦おう」

この言葉に勇気付けられたロッキーは再び闘志を燃やし、アドニスと共にリングに向かうのだった。クリード チャンプを継ぐ男

映画を見る前に知っておきたいこと

100%スポ根映画の金字塔

ロッキー伝説のアカデミー賞スポ根映画『ロッキー』もシリーズを重ねるごとにその評価は下がり、4、5作目は毎年アカデミー前夜に選ばれる最低映画賞「ゴールデンラズベリー賞」にノミネートされ、その名声は地に落ちたかに見えた。

そして6作目となる『ロッキー・ザ・ファイナル』は前作から16年が経っており、当初は正規の続編と思われていなかったが、後に批評家たちも絶賛する秀作だった。見事な復活を遂げた『ロッキー』シリーズがさらに10年余りの時を経て新たな境地を見せるのが本作だ。

ともあれまずは『ロッキー』を知らない人のために、シリーズがなぜ伝説なのかということについて語ろうかと思う。

“スポ根モノ”と呼ばれる映画は今でも度々発表されるが、そのほとんどが伝記やドキュメンタリーである。スポ根100%の映画は『ロッキー』が金字塔であり、唯一無二の存在なのだ。

それが故に『ロッキー』はやはりアメリカ映画界において特別な存在で、歴史に霞まない名作として名を刻んでいる。分かりやすくいうとアメリカ版「巨人の星」。

ボクシングはアメリカでは日本でいうプロ野球よりもメジャーな人気スポーツだし、映画は日本でいう漫画・アニメぐらいアメリカにとって重要な文化の一端である。

さらに、当時のアメリカは「グレートUターン」と呼ばれる経済的に大きな失墜に国を挙げて立ち向かう時代を迎えていた。『ロッキー』の代名詞である“熱いドラマ”が、アメリカで暮らす人たちにどれほどの勇気を与えたことか。

心の栄養ドリンク

クリード チャンプを継ぐ男『ロッキー』の何が面白いかを知りたければ、名言集を読めば一発で分かる。

人生ほど重いパンチはない。だが大切なのは、どんなに強く打ちのめされてもこらえて前に進み続けることだ。そうすれば勝てる。自分の価値を信じるならパンチを恐れるな。他人を指さして、自分の弱さをそいつのせいにするな。
引用:Neverまとめ「ロッキー名言集」

本当にそのままこういう映画である。

これを見て「よし!俺も頑張るぞ!!!」と多くの人が背中を押されたのだ。スポ根映画にはそういう栄養ドリンク的な効果がある。

だからスポーツなんか全然しないし興味もないような女の人が「実は『ロッキー』の大ファンで、人生観の大部分を学びました!」という人も少なくない。

いや、むしろ気分を盛り上げてくれるという意味では女の人の方が比較的素直なので、良い影響を受けやすいかもしれない。とにもかくにもファンは何度も『ロッキー』を見て元気をもらい立ち上がる、そういう映画なのだ。

一年を締めくくる年末に公開される、帰ってきたスポ根の金字塔。今年を振り返り来年に力を貯める意味でも、この年末に『クリード チャンプを継ぐ男』見に行くというのは面白い選択肢だと思う。

本作がもつ熱量の体感は、新しい気持ちで新年を迎えるきっかけになることは間違いないだろう。

ロッキーを見ていなくても楽しめるか?

さて気になるのは「見てない問題」だ。次々と続編が発表されるアメリカ映画界において、この問題はそろそろ普遍的になりつつある。

いや、さすがに今回は見ていた方が楽しめるだろうと思いきや、既に公開された海外の評価では『ロッキー』を全編知らない人すらも見事に攫っていったと見える。

今回の主人公はアドニス・ジョンソン。ロッキーの親友であり最大のライバルであったアポロ・クリードの息子である。

言ってみれば彼も『ロッキー』を知らない観客たちと同じ、親父とロッキーのことを何も知らない男だ。そして映画では彼の視点からロッキーとアポロの壮絶な関係を見ることができる。

もちろん予習していくとなお楽しめることは言うまでもないが、あえて過去の作品を見なくても伝わるようになっている。

ライアン・クーグラーという男

クリード チャンプを継ぐ男ところで、この映画を語るのであれば監督であるライアン・クーグラーと生みの親であるシルベスター・スタローンの制作エピソードは外せないだろう。

『ロッキー』が主演であるシルベスター・スタローン本人の脚本の、本人による監督の作品であることは言うまでもない。

顔面麻痺による演技の限界やその風貌から映画界からは全く相手にされず、ポルノ映画に出たり用心棒をしながらその日暮らし極貧生活のスタローンが当時持っていたのは、『ロッキー』の脚本だけだった。

映画は大成功を収め、今や世界的なスターとなったスタローン。

『ロッキー・ザ・ファイナル(06)』で自ら作り上げたシリーズに幕を下ろし、「さようならロッキー……」と哀悼にも似た気持ちを覚えたのはファンだけではない。むしろスタローン本人の方が、一層強く感じていたに違いないのだ。

そんなスタローンの前に「続き考えてみました」と現れたのがライアン・クーグラーという男である。

今ですら『フルートベール駅で(13)』でサンダンス映画祭のグランプリと観客賞をダブル受賞という快挙により映画界の若き一角として名を持つ男だが、スタローンに脚本を持っていったのはそれ以前の出来事だった。

長編映画を一本も撮ったことない分際が、あのスタローンに“アポロに息子がいる”というアイデアを持って「ロッキーを撮りたい」と申し出たというのだ。なんという図太さ。そしてなんという不屈さ。

そしてそんな男の「アポロに息子がいる」というアイデアを共同作業で脚本化し、映画化したスタローンはさすがだ。もちろん、ライアン・クーグラーという男の才能にスタローンが舌を巻いた形であったのは間違いないが。

そしてこのやり方は、ハリウッドがこれまで躍起になって模索してきたリメイク、スピンオフ、リブートのどのやり方とも違う手法であるように思う。

○○の息子が……というところまでは良く聞く話だが、ある作品を作り上げたの監督と手を取り合って全く新しい作品を作るやり方には、映画の中の後継者うんぬんよりもむしろロマンを感じてしまう。

「安易な続編で経済性しか見ていない」と各方面から批判が集まるハリウッドの映画界で次々と作られる続編・リメイク作品の中で、『クリード チャンプを継ぐ男』が一際特別に見えるのはこういう所に理由があるのだと思う。

ともあれ、“安易な続編”ではない新しいロッキー伝説が始まるのだ。そしてある方面からは“1作目を超える出来”との呼び声も高いとくれば、ファンとしてこれほど興奮することはないだろう。

-ヒューマンドラマ, 洋画
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執筆者:


  1. 通りすがり より:

    シリーズ6作目「ロッキー・ザ・ファイナル」はラズベリー賞にノミネートなどされていませんよ。
    逆に世間や評論家の評判は概ね良いはずです。
    シリーズの「ファン」と言っている割には、適当なこと書いてますね。
    読んでて怒りが込み上げてきました。

  2. 今川 幸緒 より:

    >通りすがり

    ご指摘ありがとうございます。
    5作目『ロッキー5/最後のドラマ』と6作目『ロッキー・ザ・ファイナル』の表記を間違えておりました。

    おっしゃられている通り、『ロッキー・ザ・ファイナル』は確かにファンや批評家からも好評な作品です。

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