映画を観る前に知っておきたいこと

ダゲレオタイプの女
世界に誇る日本人監督・黒沢清がフランス映画に挑む!

dagereotype

愛が幻影を見せ、愛が悲劇を呼ぶ。

2015年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で『岸辺の旅』が監督賞を受賞し、ヨーロッパを中心に世界中で高い評価を得ている黒沢清監督。日本でも今年公開された『クリーピー 偽りの隣人』は、西島秀俊×香川照之のコンビもさることながら大きな話題となった。

その黒沢監督がオールフランスロケ、外国人キャスト、全編フランス語のオリジナルストーリーで挑んだ初めての海外進出作品。ホラーでいてヒューマンドラマ、ジャンルも、生死も、国境も超えた、まぎれもない黒沢印の新たな傑作が誕生した。

主人公のひとりとも思えるほどにこだわり抜いたロケーション、不穏さを漂わせる空気さえ映し込んだような画面に観客は吸い込まれる。


予告

あらすじ

パリ郊外にある再開発中の街の一角、古い路地に佇む屋敷。ジャンは、そこに住む気難しそうな中年の写真家ステファンの助手として働きはじめた。

「これこそが本来の写真だ!」

等身大の銀板には、ドレスを着て空虚な表情を浮かべるステファンの娘マリーが写し出されている。

ダゲレオタイプの女

© FILM-IN-EVOLUTION

ステファンは娘をモデルに、ダゲレオタイプという170年前の撮影方法を再現していたのだ。露光時間の長い撮影のため、動かぬように、手、腰、頭……と拘束器具で固定されていくマリー。

「今日の露光時間は70分だ!」

ステファンの声が響く。

ダゲレオタイプの撮影は生きているものの息遣いさえも銀板に閉じ込めるかのようだった。この屋敷ではかつてステファンの妻ドゥーニーズもダゲレオタイプのモデルをしていた。ドゥーニーズはすでにこの世にはいない。しかし彼女の姿は銀板に閉じ込められ、永遠を得たのだ。

ダゲレオタイプの女

© FILM-IN-EVOLUTION

ダゲレオタイプに魅入られた父の狂気を受け止めながらも、自分自身の人生を手に入れたいと願うマリー。そんな彼女に惹かれるジャン。

ダゲレオタイプの撮影を通して、曖昧になっていく生と死の境界線。3人のいびつな関係は、やがてある出来事をきっかけに思いもよらぬ方向へと動き出す……


映画を観る前に知っておきたいこと

日本ではまだ黒沢監督の前作『クリーピー 偽りの隣人』の余韻が残る中で、早くも最新作が届きました。西島秀俊×香川照之のコンビなど話題性があった前作とは打って変わり、本作は完全にフランス映画となっています。

映画の見所以前に、世界に誇る日本人監督・黒沢清を知ることが楽しむための一番の近道だと思います。

世界に誇る日本人監督・黒沢清とは?

黒沢清

© festival-entrevues.com

黒沢清監督を知る上で外せないのが『CURE』(97)この作品以降、世界の映画祭に多く招待されるようになった黒沢監督の出世作である。

ある連続猟奇殺人事件を追う刑事(役所広司)と事件に関わる謎の男を描いたサイコ・スリラーで、緊迫感溢れるストーリーテリングは黒沢監督の作風を象徴するような映画だ。

その後は『回路』(00)でカンヌ国際映画祭批評家連盟賞、『トウキョウソナタ』(08)ではカンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞に、そして『岸辺の旅』(15)でもカンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞に輝いている。

今、カンヌ国際映画祭においてここまで評価される日本人監督は、他に『そして父になる』(13)是枝裕和監督と『殯の森』(07)の河瀬直美監督ぐらいだろうか。ただ黒沢監督が得意とするのはホラー、サスペンス、ミステリーといったジャンルだけに、より異彩を放っているように映る。世界で評価されていると言ってもいわゆるジャパニーズ・ホラーではないのであしからず。

カンヌの中でも「ある視点」部門での評価が目立つ。この「ある視点」部門は、あらゆる種類のヴィジョンやスタイルをもつ、“独自で特異な”作品が多い。言い換えれば、少しマニアックな作品が多いわけだが、そこからも黒沢監督の独特の世界観がうかがえる。ホラー、サスペンス、ミステリーといったジャンルを得意とする一方で、その境界線は限りなく曖昧なのも黒沢監督作品の特徴だ。彼の映画は、時に難解と評されることもある。

「ある視点」部門で日本人初となる監督賞を受賞した『岸辺の旅』はミステリアスなヒューマンドラマでありながら、先立ってしまった夫と再会するという不思議な物語はどこかファンタジーの要素もあった。それでいて、主演の深津絵里と浅野忠信先の演技は、映画に揺るぎないリアリティをもたらしていた。

そうした評価も後押ししてか、この映画はフランスの劇場UGCシネシテ レ・アールで初日の動員数が上位3位に入るほどヒットしている。

岸辺の旅』のフランスでの成功が本作のオールフランスロケ、外国人キャスト、全編フランス語での製作につながっている。

岸辺の旅』に比べると、同じラブストーリーではあるが、本作の方が圧倒的に黒沢監督らしさを感じる作品である。もはや完全にフランス映画となっているが、フランスの黒沢ファン以上に日本人にも注目してもらいたい映画だ。


ダゲレオタイプとは?

ダゲレオタイプ

© camp-fire.jp

ダゲレオタイプとは1839年、フランスで生まれた世界最古の写真撮影方法であり、ルイ・ジャック・マンデ・ダゲールがその生みの親である。上はダゲールが始めて室内で撮ったダゲレオタイプの写真だ。

長時間の露光を必要とするため、人物を撮影する場合は長時間に渡り身体を拘束される。ネガを作らず、直接銀板に焼き付けるため、撮影した写真は世界にひとつしか残らない。日本語では銀板写真とも呼ばれる。

「写真を撮るとは命を削り取ること」と思われるほど、モデルになる者は命がけで被写体になっていた。その撮影は被写体と撮影者の愛情交感であり、束縛でもある。

しかしそれは映画の中の時代における考え方であって、発明当時はその驚異的な表現力から画家たちに転職を考えさせたとまで言われた。

潜像をフィルムではなく銀板に直接現像するためより鮮明だとされるダゲレオタイプ。その技法を現代に生かして撮影された写真は確かに鮮明で美しく見える。

ダゲレオタイプの女

© camp-fire.jp

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