映画を観る前に知っておきたいこと

ダラス・バイヤーズクラブ
生きるために戦った男の感動の実話

投稿日:2016年12月28日 更新日:

ダラス・バイヤーズクラブ

「くたばれ!」と社会は言った。
「くたばるか!」と男はたった一人で闘いを挑んだ。

わたしに会うまでの1600キロ』(14)『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』(15)の監督ジャン=マルク・ヴァレが2014年アカデミー賞でマシュー・マコノヒーに主演男優賞をもたらした、名匠と名優二人にとっての代表作。

1985年、世間にはエイズに対する誤解と偏見が残る時代。しかもアメリカで最も保守的とされるテキサス州で、HIV陽性により余命30日と宣告された男がいた。これは、未承認の新薬を巡って政府と製薬会社を相手に戦いを挑んだ実在の人物ロン・ウッドルーフの7年間を切り取った感動の実話である。


予告

あらすじ

酒と女の日々を送るカウボーイ、ロン・ウッドルーフ(マシュー・マコノヒー)は、ロデオの賭けに負けると金も払わず逃げ出した。その日暮らしのトレーラーハウスに戻った瞬間に、彼は膝から崩れ落ちる。

ダラス・バイヤーズクラブ

© 2013 Dallas Buyers Club, LLC.

病院のベッドで目を覚ましたロンは、医師からHIVの陽性反応と余命30日の宣告を受ける。エイズは同性愛者しかかからない病気、そんな根拠のない噂が蔓延していた時代の出来事だった。

生きたい欲求にかられたロンは、自分を診察した女性医師イブ(ジェニファー・ガーナー)にAZTという未承認の薬を処方してくれるように頼むが断られてしまう。そこで彼はメキシコへ渡り、毒性の強いAZTではなく、アメリカでは未承認だが効果が見込める新薬を国内に持ち込み、患者たちにさばき始めるのだった。

ダラス・バイヤーズクラブ

© 2013 Dallas Buyers Club, LLC.

その行動には慈善の心などなかった。ゲイ・コミュニティーに嫌悪感を抱くロンが販売ルートを広げるのは難しい。そこで彼は、美しいトランスジェンダーのレイヨン(ジャレッド・レト)を仲間に引き入れ、世界中から仕入れた薬をさばくためのあるシステムを考え出した。

それが“ダラス・バイヤーズクラブ”だった……


映画を観る前に知っておきたいこと

実話に基づくこの映画が真に迫るのは、実在の人物ロン・ウッドルーフをリアルに活写したからに他ならない。

圧倒的な役作りでロンを演じきったマシュー・マコノヒー、アンチーヒーローとしてのロンを浮かび上がらせる存在に徹したジャレッド・レト、そして彼らの演技を引き出し、アカデミー賞へと導いたジャン=マルク・ヴァレの演出。どれかひとつでも欠けていれば、この傑作が生まれることはなかっただろう。

FDA(連邦食品医薬品局)の壁

アメリカにおける新薬の承認は政府直属の機関であるFDA(連邦食品医薬品局)が担っている。FDAは医薬品や食品の安全を確保するための重要な存在であり、国民の健康を守ることをその責務としている。

しかし実際に新薬の承認を得るとなると、人体への安全性を立証し一つの新薬を市場に送りだすために、平均して12年の歳月と3億5,900万ドルの費用がかかるとされている。

ロン・ウッドルーフのように余命わずかな人間にとっては、まさに絶望的な壁となるのがFDAだ。80年代のエイズに対する偏見と誤った認識は、患者たちをさらに孤立化させていった。そのため、当時“ダラス・バイヤーズクラブ”と同じような団体は主要なものだけで9つも存在していた。

会員制にすることで、新薬は売買ではなく、配布するという名目で会員たちに渡されていたわけだが、団体と政府によるこうしたせめぎ合いも、患者側からすれば苦肉の策だったのだ。

そして後ろ盾のない彼らは、あくまで自己責任で新薬を使うことを余儀なくされる。そんな中、ロンは最もリスクを怖れないバイヤーとして知られていたという。

もともと死ぬはずだった彼らにとって、リスクという言葉がどれほどの抑止力になっただろうか。

まさしく、ジャン=マルク・ヴァレが今も描き続ける“幸せを掴もうともがく人”の姿が、そこに在る。

マシュー・マコノヒーの演技

エイズ患者であるロン・ウッドルーフを演じるため、マシュー・マコノヒーが21kgの減量の末に挑んだ役作りは当時大きな話題を呼んだ。しかし、それは実在の人物を演じるうえでのスタートラインでしかない。

彼は決して、映画を自分のものにしようとはしなかった。死を間近に見つめる人間の感情をロマンチシズムに浸ることなく、ただ場面ごとにすくい上げていく。まるでロン・ウッドルーフがそこにいるかのような感覚を植えつけるには十分な芝居だ。

ヴァレ監督は常に、人生の中にある“美しさ”を捉えようとしている。それは人生における苦悩や不幸ではなく、そこから逃れようともがいた先にある希望だ。それはリアリティなくして表現することはできない。

マコノヒーはそんな監督の要望を完璧に満たすことで、アカデミー主演男優賞に輝いたのだ。

-ヒューマンドラマ, 伝記
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