映画を観る前に知っておきたいこと

ヒトラー暗殺、13分の誤算
戦争に向おうとする国を見つめた意欲作

投稿日:2015年9月23日 更新日:

ヒトラー暗殺、13分の誤算

ヒトラーが
最も恐れた暗殺者は、
平凡な
家具職人だった。

ドイツ政府が長年に渡って封印してきたヒトラー暗殺未遂事件の真相に迫ったヒューマンドラマ。原題の『Elser』とはまさしく暗殺を計画したゲオルグ・エルザーの名前である。

ヒトラー暗殺計画は数にして40以上実行されたと言われ、計画段階で終わったものを含めれば数え切れない。この映画は、その数多の暗殺計画の中から非組織の一般市民が単独で起こした特異な事件を題材にしている。

監督は『ヒトラー 最期の12日間』(04)のオリバー・ヒルシュビーゲル。


予告

あらすじ

1939年11月8日、ドイツのミュンヘンにあるビアホールで、毎年恒例のミュンヘン一揆記念演説を行っていたアドルフ・ヒトラーは、悪天候のためにいつもより早く切り上げた。その後、ホールに仕掛けられていた時限爆弾が爆発。ヒトラーが退席して13分後のことだった。

ヒトラー暗殺、13分の誤算

© Bernd Schuller

8人を死に至らしめた爆破装置は精密かつ確実、計画は緻密かつ大胆。その手口から、独秘密警察ゲシュタポはクーデターや英国諜報部の関与を疑ったが、逮捕されたのは田舎に暮らす平凡な家具職人ゲオルク・エルザーと名乗る36歳の男だった。

ヒトラー暗殺、13分の誤算

© Bernd Schuller

あまりにも信じがたい現実。大物黒幕の存在を確信したヒトラーは、決行日までに彼が歩んできた人生のすべてを徹底的に調べるように命じる。

単独犯だというエルザーの主張は本当なのか?誰かをかばっているのか?スパイである真偽は?所属する政党もなしにどんな動機があるというのか?

音楽やダンス、恋に興じ、家具職人として働く平凡な男から語られる真実とは……


映画を見る前に知っておきたいこと

戦時中のドイツを生きた実在の人物であるヨハン・ゲオルグ・エルザー。ヒトラーを暗殺しようとたと言うからどんな大物かと思いきや、至って普通の一般市民だ。そこにこの事件の特異性がある。

実在のヨハン・ゲオルグ・エルザー

ヨハン・ゲオルグ・エルザーがナチスの政権に批判的な思想を持っていたのは確かだった。しかし、どんなに尋問を繰り返してもそれ以上のことは出てこなかった。

その計画は綿密かつ大胆。ヒトラーはイギリス諜報部の関与を確信していたというが、彼はスパイどころか所属政党もない普通の大工だったのだ。

ゲオルグは捕まってすぐに爆弾犯は自分だと自白はしたものの、イギリス陰謀説は完全に否定し、単独犯であることを主張していた。そこでヒトラーから調査を依頼されたのは、親衛隊全国指導者ハインリヒ・ヒムラーだった。彼は手を変え品を変えゲオルグの背後関係を徹底的に洗おうと試みるが、ゲオルグの主張が覆ることはなかった。

その後、取調べはナチス・ドイツの親衛隊の将軍であるフランツ・ヨーゼフ・フーバーに任されたが、彼もまたゲオルグは単独犯であると結論付けるしかなかった。

この結論をヒトラーは“失敗”とみなし、ヒムラーは譴責を受けたという。

組織的な関与もない一民間人が単独で計画し、実行に移したこの暗殺事件。「ドイツの戦争を避けるために計画した」と語っているが、ヒトラーが奇跡的に無事だった事は彼の神格化を助ける皮肉な結末となった。

ミュンヘンの新聞は、ヒトラーが無事だったことについて「ドイツの運命に感謝する」との記事を書き、彼は「神によってドイツを導くために現れた“ドイツの希望”」と言われた。後にヒトラーは再びミュンヘンを訪れ、この爆破に巻き込まれ死亡した8人の葬儀に出席している。

ゲオルグはヒトラーが死ぬ直前まで生かされ、ヒトラー没後もドイツ政府は彼の存在を隠し続けてきた。その理由には諸説あるが、詳しいことは分かっていない。

2014年、ドイツのメルケル首相は、自分の意思で戦争を防ごうとした反ナチス抵抗運動のヒーローとして、公式に彼を称えている。

オリバー・ヒルシュビーゲル監督

そのゲオルグを描いたのは、『ヒトラー 最期の12日間』のオリバー・ヒルシュビーゲル監督だ。インターネットを良く利用する人には、有名なネタ動画「総統閣下シリーズ」の方が馴染みがあるかもしれない。

ヒルシュビーゲル監督は『ヒトラー 最期の12日間』において、ヒトラーを“誰でも知っているのだが、誰もその実像を知らない人物”だとし、その人間性に迫った。

一方『ヒトラー暗殺、13分の誤算』では、実体のないヒトラーという偶像に暗雲のごとく覆われようとしているドイツ民衆の在り方を生々しく描いている。その視点に立った場合、ゲオルグ・エルザーという人物ほど適した題材は他にないだろう。

戦後70周年を記念した作品が多く発表される中で、“戦争に向おうとする国”を改めて見つめた稀有な作品だと言えるかもしれない。

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