映画を観る前に知っておきたいこと

エブリバディ・ウォンツ・サム!!
『6才のボクが、大人になるまで。』の監督最新作

投稿日:2016年10月30日 更新日:

エブリバディ・ウォンツ・サム

後悔するのは、やったことじゃない。
やり残したことさ。

リチャード・リンクレイター監督が手がけた2014年を代表する1本『6才のボクが、大人になるまで。』。この映画は、ひとりの少年の6歳から18歳までの成長と家族の軌跡を、実際に12年の歳月をかけて撮影された。主人公の少年メイソンを演じるエラー・コルトレーンを筆頭に4人の俳優がひとつの家族を演じ続けることで生まれたこの感動作はその年の映画賞を総なめにした。

そして、リンクレイター監督の商業デビュー作であり、夏休みを迎えた高校生の日常を描いたグラフィティ・コメディの傑作『バッド・チューニング』。

最新作は、この2作に繋がる続編的な意味を持つ作品として製作された新たな青春群像劇の傑作だ。

野球推薦で大学に入学することになった主人公・ジェイクは、個性豊かで騒々しいチームメイトたちと野球はもちろん、女の子、お気に入りの曲、パーティ、お下劣なジョーク……あらゆることに全力で打ち込み、新たな出会いと恋を経験し少しづつ大人になっていく。

決して戻らない青春の1ページを……

予告

あらすじ

野球推薦で大学に進学することになったジェイク(ブレイク・ジェナー)は期待と不安を抱き、大人への一歩を不器用に踏み出そうとしていた。そう、今日は野球部の入寮の日だ。お気に入りのレコードを抱え、ジェイクが野球部の寮に着くと、4年生のマクレイノルズ(タイラー・ホークリン)とルームメイトのローパー(ライアン・グスマン)から、好意的とはいえない歓迎を受ける。それは高校時代、スター選手だったジェイクに対する先輩方の洗礼だった。

エブリバディ・ウォンツ・サム

© 2015 PARAMOUNT PICTURES.

一筋縄ではいかない先輩の中、面倒見の良いフィネガンがこの門限のない素晴らしき世界のツアーガイド役を買って出る。大学を巡るツアーは、当然のように女子寮に行くことから始まる。女の子たちの品定めだ。車で通りかかった2人組の女の子に早速フィネガンがアタック。あえなくフィネガンの強引なナンパは拒否られるが、ジェイクは同じ新入生で演劇専攻のビバリー(ゾーイ・ドゥイッチ)に一目惚れ。

エブリバディ・ウォンツ・サム

© 2015 PARAMOUNT PICTURES.

一通りツアーを終えて寮に戻ったジェイク。しかし、長い入寮初日はまだ終わらない。今度は最高の夜に繰り出すことに。チームのメンバーはタイトなジーンズにポリエステルのシャツを着こんで地元のディスコで夜通しのナイトフィーバー!自主練の後も、もちろんチームメイトたちとバカ騒ぎ。ジェイクは今までに感じたことのない自由と希望を抱きながら大人の扉を開け、青春を謳歌していた。それは決して長くは続かないけど、人生最高の時の幕開けだった。

映画を観る前に知っておきたいこと

リチャード・リンクレイター監督の前作『6才のボクが、大人になるまで。』は間違いなく2014年を代表する1本だっただけに、この監督を知らずに本作を観るのはあまりにも勿体ない。そこで、僕が感じるこの監督の素晴らしさを少しだけ紹介したい。

リチャード・リンクレイター監督

90年代にインディペンデント映画界から頭角を現した監督であり、現在の地位を得ても大手プロダクションのメジャー映画(ハリウッド映画)とインディペンデント映画(自主制作映画)を撮り分けることができる器用さが売りの稀な存在である。

実際、彼の手がける作品は哲学的なものから恋愛、サスペンス、そして『スクール・オブ・ロック』(03)のようなファミリー向けコメディまで実に多彩である。

監督2作目にしてベルリン国際映画祭監督賞を受賞した『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(95)は、電車内で出会ったある男女の学生が互いに恋愛と哲学の話をしあう中で惹かれ、しかし、一夜限りの関係を無意味と感じて……という複雑な心情模様を膨大でかつ軽妙な会話で閉じ込めた名作である。

恋人たちの数年後の姿が描いた『ビフォア・サンセット』(04)と『ビフォア・ミッドナイト』(13)を含めたリンクレイター監督を代表する三部作である。永遠には続かないが、決して色あせることのない青春の断片を見事に切り取る手法はそのまま本作へと通じている。

しかし、映画ファンを最も驚かせたのは前作『6才のボクが、大人になるまで。』だろう。ひとりの少年の6歳から18歳までの成長と家族の軌跡を、2002年から2003年の12年間を通して断続的に撮影されたこの作品は映画の新たな可能性を指し示した。

青春の断片を切り取ることを得意とした監督が、同じ俳優を起用し、実際の時の流れと共に12年間の物語を追って撮影することで桁違いに濃密な作品を生み出すことに成功したのだ。12年をたった166分に収めたこの映画は、観客と批評家の双方を唸らせた。

そして2015年アカデミー助演女優賞、2015年ゴールデングローブ賞3冠(作品賞・監督賞・助演女優賞)をはじめ、その年の映画賞を総なめにした。

そんな前作からの期待の期待を一身に受け、リンクレイター監督の集大成と銘打たれたのが『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』だ。今度は一体どんな青春の1ページを切り取ってみせるのか。

メジャー、インディー、ジャンル、誰も想像しないような手法、リンクレイター監督作品の最大の魅力はその多彩さである。ライト層からカルト的な人気まで、多くの映画ファンに愛される器用な監督だ。

映画を彩る音楽

『スクール・オブ・ロック』や『6才のボクが、大人になるまで。』でも見られる、リンクレイター監督作品のもうひとつの醍醐味である音楽は今回も観客を引き込んでくれる。

映画のタイトルにもなったヴァン・ヘイレンの「エブリバディ・ウォンツ・サム!!」、ザ・ナックのメガヒット曲「マイ・シャローナ」、車の中でリップシンクするシュガーヒル・ギャングの「ラッパーズ・ディライト」など、映画の舞台となっている1980年当時を彩った名曲が使われている。

同じ時代に青春を謳歌した世代にとっては、ベタな選曲が逆に懐かしさを感じさせてくれる。

-洋画, 青春
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