映画を観る前に知っておきたいこと

【合葬】杉浦日向子原作、明治維新を「彰義隊」として生きた3人の若者の物語

投稿日:2015年9月1日 更新日:

合葬 タイトル

「新撰組」や「白虎隊」に比べあまり知られていない「彰義隊」。江戸から明治へ、時代が移り変わる過渡期を彰義隊・隊士として生きた3人の若者の運命を描いた、杉浦日向子の同名コミック実写映画化。

「誰も知らない」の柳楽優弥、「僕は友達が少ない」の瀬戸康史、「麦子さんと」の岡山天音共演。共演にオダギリジョー、「愛の渦」の門脇麦。監督は、本作が劇場用公開作品デビューとなる小林達也。「天然コケッコー」などの人気脚本家・渡辺あやが脚本を手がけた。

  • 製作:2015年,日本
  • 日本公開:2015年9月26日
  • 上映時間:87分
  • 原作:漫画『合葬』杉浦日向子
  • 合葬 (ちくま文庫)

予告

あらすじ

時代背景

1868年、慶応四年の4月11日。第十五代将軍・徳川慶喜(飴屋法水)は、江戸城を明け渡し、退官のうえ水戸へ謹慎。三百年に亘る江戸幕府の時代が終わりを告げた。日本は封建国家から近代国家へと、歴史の歩みを進めたのである。

しかし、これを一般市民がもろ手を上げて歓迎したかというと、必ずしもそうではなかった。権力が大きく動く時の世の常、当時の江戸にも様々な憶測と謀策が飛び交い、陰鬱でどす黒い空気が渦巻いていた。合葬 あらすじ

二人の若者

明治維新の過渡期を生きた二人の若者、秋津極(きわむ/柳楽優弥)と福原悌二郎(ていじろう/岡山天音)。極は悌二郎の妹、沙世(さよ/門脇麦)の許嫁であり、三人は幼なじみだった。

好いて婚約をしたはずの極と沙世だったが、極は福原家に許嫁との婚約を破談にして欲しいと申し入れる。去る極を追いかけ、「妹の気持ちはどうなる」と問いつめる悌二郎。しかし、極には沙世のことを想えばこその理由があった。合葬 あらすじ

彰義隊

幕末の世に将軍の警護と江戸の治安維持のため、有志たちにより結成されていた「彰義隊」。極はその一員に加わっていた。彰義隊は幕府が解体した今、反政府的な集団とみなされはじめていたのである。

極は「彰義隊への咎めが親族にまで及ばぬという保障はない。そこで自分は家督を弟に譲り、上野にある彰義隊の屯所に身を隠すことにした」というのだ。それに対し、「幕府が解体したいま、彰義隊など無用の長物」と持論を展開し、説得を試みる悌二郎。

平行線の議論が進む中、偶然居合わせたもう一人の青年が加わってくる。二人の幼なじみの吉森柾之助(まさのすけ/瀬戸康史)だ。養父の死をきっかけに、養子に入った笠井家を体よく追い出されてしまっていた。合葬 あらすじ偶然出会った三人は、極の求めに応じて写真館でぎこちない記念撮影をするのだった。

click ※少しネタバレ

穏健派と強硬派

それから数日が過ぎた。結局、極は行く当てのない柾之助を誘い込んで、彰義隊に戻ってしまっていた。そのことに苛立った悌二郎は、二人を除隊させようと極が身を隠すと伝えていた上野の屯所へ向かう。

屯所を訪ねた彼を出迎えたのは、隊の穏健派・森篤之進(あつのしん/オダギリジョー)だった。極は巡回に出ていて居ないのだという。森は、悌二郎の考えに同意しながらも、極の決意を変えるのは難しいだろうと伝えた。合葬 あらすじ彰義隊には上様の冤罪を晴らしたいという志をもった者たちが多数集まっており、隊員はすでに三千名を越えていた。極たち強硬派の本懐は、飽くまでも新政府を倒し幕府を再建することにある。

今は隊内に彼らの暴走を抑える仲間が一人でも多く欲しいという森は、悌二郎のような者こそ、今の彰義隊に必要な力だと力を込めて説くのだった。高い志の下に集まった彰義隊も、揺れる時代の中で既に一枚岩ではなくなっていた。

森の説得を受け、悌二郎も彰義隊に入隊することに決めた。隊内では極と柾之助の様子を気にかけ続けていたが、極はそんな悌二郎の思いを知る由もなかった。

時代に飲まれ

風雲は急を告げていた。江戸では官兵と隊士の衝突は日常茶飯になりつつあり、時代は日増しに混沌を深めていく。徳川家はついに彰義隊を幕府とは一切関わりのないものとし、その運命を新政府に委ねる決断を下す。この決定によって彰義隊は江戸警備の大義名分を失い、その存在価値はついに地に落ちてしまう。

もはや強硬派と新政府軍の戦争は避けられない。穏健派の幹部たちは、戦争を望まぬ隊士たちには脱退を勧め、望むものには一切関与しないことを提言する。しかし、森はその言葉を「隊士たちへの裏切りである」と非難する。

残る隊士たちを思い、強硬派との会合を設け戦法を進言するが受け入れてはもらえない。会合は熱を帯び、森は強硬派の若手に斬殺されてしまうのだった。

道標であった森を失い、途方にくれる隊士たちは道を見失い、漠然と無為に時間を過ごす。しかし、戦争の足音は悲しみに暮れる間を与えてはくれない。

合葬 あらすじ愛、友情、志、様々な感情が交錯する中、極、柾之助、悌二郎の三人は自らとの対峙、決断を迫られていた。荒れ狂う混沌の時代の波は、三人の青年をどこへ導いていくのだろうか。

映画を見る前に知っておきたいこと

原作者・杉浦日向子

この映画を語るのであれば、原作者の杉浦日向子について、言及しないわけにはいかないだろう。2015年5月、原作が『百日紅~Miss HOKUSAI』としてアニメ映画化されたことも記憶に新しい。

杉浦日向子がどんな人物だったのか、どういう作品を書いていたのかということについては、こちらのページに詳しく記載しているので参考にして欲しい。


覚えておきたいことを掻い摘んで言えば、凄まじい描画力と演出力、長編連載としての構成力に加え、圧倒的なオリジナリティを携え、江戸の風俗を生き生きと描く作風が多くのファンの心を鷲づかみにしていること。それと、江戸の時代考証に非常に長けた人物であったということだ。

これは江戸時代の終焉である。杉浦日向子にとっては比較的初期の作品ではあるものの、そこにはすでに“江戸の人々の生活”を描く目が光っていた。戦争を描きながら戦争をテーマとせず、時代の過渡期の中にあるただの人間を叙情豊かに描いている。

現代を生きる若者に捧ぐ

合葬 あらすじ
そこに至ってこのキャッチフレーズである。今、現代はまさしく時代の過渡期。日々、様々なものが変化し、移ってゆく。

どこに行っても安保法案関連の話題は尽きない。“戦争”のキーワードは一昔前に比べると随分身近になった。何かが大きく変わっている。そういう空気を肌に感じる人も多いだろう。

時代に翻弄され、過渡期を生きた若者の運命は、今この変化の時代に生きる若者の心に何を残すのか。ぜひとも今を生きる若者に見て欲しい映画である。

-時代劇, 邦画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。