映画を観る前に知っておきたいこと

グッドフェローズ
少年のままギャングになった男

グッドフェローズ

俺は小さいときからマフィアになることを夢みていた。

 11歳にしてマフィアの使い走りを始め、その後あらゆる犯罪に手を染めた男は、ニューヨークの裏社会で“Goodfellas(マフィアの準構成員)”としてのし上がっていく。

 ニコラス・ピレッジのノンフィクション『ワイズガイ-わが憧れのマフィア人生-』を原作に、ギャング映画の巨匠マーティン・スコセッシが実在したギャングスター、ヘンリー・ヒルの半生を描いた傑作ノワール。ヒルのモノローグを織り交ぜながら、1955年から80年までが綴られる。

 主人公ヒルを演じたレイ・リオッタの出世作であり、共演にはロバート・デ・ニーロとジョー・ペシが名を連ねる。劇中で最も凶暴なギャング、トミー・デヴィートを演じたペシが1991年アカデミー賞で助演男優賞を獲得した。


予告

あらすじ

 1955年、ニューヨーク。11歳のヘンリー・ヒル(レイ・リオッタ)はギャングの世界に憧れ、ブルックリンの街を牛耳るポール・“ポーリー”・シセロ(ポール・ソルビノ)の使い走りとして働く。闇煙草を捌いて順調に稼ぎを上げていくが、それを快く思わない父親からはしこたま殴られる毎日。それでもヒルは堅気の人生を見下し、自分たちこそ“ワイズガイ(利口な奴ら)”だと信じて止まなかった。

グッドフェローズ

© Warner Bros. Entertainment Inc.

 やがて街でも一目置かれる存在となったヒルだったが、闇煙草の密売で初めて逮捕されてしまう。しかし、彼が仲間を売ることはなかった。この頃から、強奪専門のジミー・コンウェイ(ロバート・デ・ニーロ)とチンピラのトミー・デヴィート(ジョー・ペシ)らと組み、ヒルは更なる荒仕事に手を染めていく。1968年には、ジョン・F・ケネディ国際空港でエア・フランス現金強奪に成功。42万ドルを手に入れた。

グッドフェローズ

© Warner Bros. Entertainment Inc.

 中でも、1978年のルフトハンザ航空現金強奪事件での成功は桁違いだった。彼らが盗んだ現金や宝石の総額は、なんと米国犯罪史上空前の600万ドル。FBIの威信をかけた捜査が始まる中、ジミーは口封じのため実行犯を次々と殺害していく。事件を迷宮入りさせ、ついに一番若いトミーがマフィアの幹部へと昇格することに。生粋のイタリア人である彼だけがその資格を与えられ、アイルランド系のヒルとジミーは仲間の出世を大いに喜んだが……


映画を観る前に知っておきたいこと

 1955年から80年までのヘンリー・ヒルの半生を描いたこの映画は、マーティン・スコセッシによってその時代ごとのヒット曲が絶妙に配置される。曲調に合わせたカメラワークやストップモーションが生み出すスタイリッシュな映像。しかも全ての曲の詩に場面の意図や心情を代弁させ、ある時はバイオレンスに似つかわしくないラブソングで黒い笑いを誘ってみせる。

 1970年の凄惨な殺しの現場から、1955年の少年時代へと華麗に滑り込む映画のオープニング。「昔からギャングになりたかった」というヒルの独白と共に挿入されるのは、1953年のヒット曲「Rags To Riches」だ。富と名声を夢想したトニー・ベネットの名曲が、ヒルの野心と時代を物語る。映画の雰囲気を象徴した最高にかっこいい幕開けとなっている。

 そして、冒頭で描かれた1970年の殺しから半年後。組織の幹部バッツをその手にかけたヒルたちは発覚を恐れ、一度埋めた死体を掘り起こす羽目になる。ここでは60年代のアイドル、シャングリラスのデビュー曲「Remember(Walking in the Sand)」が使われる。かつての恋人との思い出を歌うラブソングに乗せた腐乱死体との再会。スコセッシ流ギャングの危険な日常だ。

 こうした音楽を完全に一つの道具として観る者の感情を揺さぶる手法は、これ以降のハリウッド映画の流れを作ったと言われる。そのためスコセッシのキャリアの中でも『タクシードライバー』(76)以上の代表作として語られることもある。しかし、真に驚くべきは過剰とも取れる表現の中で実話映画として成立していることだ。それは偏にヘンリー・ヒルの描き方にある。スコセッシの手によって、男の半生はリアルと映画の狭間で伝えられる。

少年のままギャングになった男

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© Warner Bros. Entertainment Inc.

 男なら一度は憧れる熾烈な生き様。少なくとも、この映画のヘンリー・ヒルはそんな風には描かれていない。むしろ、ギャングスターらしいのはロバート・デ・ニーロ演じるジミーの方だ。彼はルフトハンザ航空現金強奪事件を首謀した冷静さに、容赦なく邪魔者を消す冷酷さも併せ持つ。また、危険という意味においてトミーの右に出る者はいない。ジョー・ペシがアドリブで演じたという一幕、年下のトミーがヒルを恫喝する瞬間は誰もが手に汗握るだろう。

 ヒルは主人公でありながら、どこかこの二人の取り巻きのように描かれる。常に彼らの殺しを傍観し、自ら率先して行った犯罪といえば麻薬密売のような楽に儲かる仕事だけだ。実在のヒルも殺人罪で服役したことはないようだが、もちろん劇中でも彼が直接手を下すシーンは出てこない。いかに利口に生きるかが彼のギャングとして在り方なのだ。

 16歳で初めて捕まった時、ヒルは決して仲間を売らなかった。それは少年の純粋な理想だったのか。それともマフィア社会に対する恐れだったのか。幼き日の憧れを胸にギャングになってしまった男は、暴力と裏切りに満ちた世界で少しずつ変わっていく。映画の中のヘンリー・ヒルは、狡猾さを武器にニューヨークの裏社会を駆け抜ける。クールな表現のオンパレードとは対照的に、その生き様だけが妙に生々しい。

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