映画を観る前に知っておきたいこと

虐殺器官
伊藤計劃の処女作にして代表作

投稿日:2015年10月16日 更新日:

虐殺器官

殺戮本能を呼び覚ますこの言葉に、
君は抗えるか。

2007年にデビューしてからわずか2年程で早逝した、夭折のSF作家・伊藤計劃の残したオリジナル長編3作品をアニメーション映画化する「Project Itoh」最後の作品。

徹底した情報管理社会となった近未来。世界の紛争や虐殺に関わっているとされる言語学者・ジョン・ポールを追うアメリカ軍特殊部隊のクラヴィス・シェパード大尉は、人間には虐殺を司る器官が存在することを知る。それは不安定な世界情勢の裏に隠された秘密だった。

監督はスタイリッシュな映像手腕を発揮する村瀬修功、キャラクターデザインは初音ミクのイラストを手掛けたredjuiceが担当する。

予告

あらすじ

9.11以降、アメリカはテロの脅威に対抗すべく徹底した個人情報管理を行い状況の改善を試みる。その結果、先進諸国からテロの脅威が取り除かれたが、後進国では内戦と虐殺が横行し、いま世界は大きく二分されつつあった。

虐殺器官

© Project Itoh/GENOCIDAL ORGAN

事態を重く見たアメリカは情報軍特殊検索群i分遣隊を創設。クラヴィス・シェパード大尉率いる精鋭チームは、世界各地で紛争の首謀者暗殺ミッションに従事していた。そんな中、浮かび上がるジョン・ポールの名前。数々のミッションで暗殺対象リストに名前が掲載される謎のアメリカ人言語学者だ。

虐殺器官

© Project Itoh/GENOCIDAL ORGAN

彼が訪れた国では必ず混沌の兆しが見られ、そして半年も待たずに内戦、そして大量虐殺が始まる。クラヴィスは紛争が泥沼化するとこつ然と姿を消すジョンの足取りを追って、チェコ・プラハへと潜入する。

そして訪れた虐殺の王ジョン・ポールとの対峙の瞬間、クラヴィスは人間の虐殺を司る器官が存在することを知るのだった ──

映画を見る前に知っておきたいこと

本来『虐殺器官』は、プロジェクト第1弾『屍者の帝国』に続く2作目となる予定だったが、制作にあたっていたアニメ制作会社マングローブの経営危機などによる幾度かの延期を経て、第2弾『ハーモニー』と前後する形でようやく公開される運びとなった。最終的にはチーフプロデューサーである山本幸治が新たに設立したジェノスタジオによって完成されている。

奇しくも、伊藤計劃の処女作が「Project Itoh」の幕を引くことになったわけだ。

伊藤計劃の処女作にして代表作

2007年に発表された『虐殺器官』は、早川書房が毎年刊行するSF小説のランキングガイドブック『SFが読みたい!』で、「ベストSF2007」国内篇第1位並びに「ゼロ年代SFベスト」国内篇第1位に選ばれ、同業者及びファンから“ゼロ年代最高のフィクション”と称えられた作品である。

彼のすべての作品は一人称で書かれ、『虐殺器官』もSFとしての生々しい戦争描写と共に、主人公の内省的かつ繊細な心理が描き出されている。また双方を同時に表現してみせる筆力に加え、9.11以降の世界を風刺するように人間の内包する悪意と善意までをSFの中に落とし込むストーリーテリングも併せ持つ。

『虐殺器官』が伊藤のデビュー作にして、既存のSF小説の枠を飛び出していることは明白だった。たった2年という短い作家人生は濃密ながら、これが彼の代表作であり、「Project Itoh」の最後を飾るに最も相応しい作品である。

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