30代後半のごく普通の女性が抱える悩みや不安をスリルたっぷりのドラマとして描いた本作。全く演技経験のない主役の4人が、ロカルノ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞したことで大きく話題となった。
監督を務めたのは濱口竜介。『親密さ』では4時間を超える大作で映画学校の生徒達を起用したり、『なみのおと』『なみのこえ』『うたうひと』の東北ドキュメンタリー三部作を制作したりと、挑戦的な活動を続ける気鋭の監督だ。
自分は本当に望んだ自分なのか、伝えたいことは本当に自分の言葉なのか。不安に迷いながらもゆっくりと前に進む彼女たちの言葉が、スリリングな感動となって見るものの心を打つ。
- 製作:2015年,日本
- 日本公開:2015年12月12日
- 上映時間:317分
Contents
- 1 予告
- 2 あらすじ
- 3
映画を見る前に知っておきたいこと
- 3.1 ロカルノ映画祭の権威
- 3.2 長い!!!
- 3.3 女性の気持ちと映画の可能性
予告
あらすじ
あかり、桜子、芙美、純。30代も折り返して久しい4人はなんでも話せる親友同士・・・だと思っていた。バツイチで独身のあかりは、できの悪い後輩に手を焼かされながら多忙に過ごす看護師。病院で知り合った男性からアプローチを受けているが、なかなかその気にはなれない。
桜子には中学生の息子がいる。夫は多忙であまり家にいない家庭に、漠然と寂しさを感じていた。
芙美にも編集者である夫がいるが、本当の意味で向き合えない、うわべだけ取り繕った夫婦関係に言い知れない不安を覚えていた。そんな中、純が1年間も続いている離婚協議を隠していたことが思わぬ形で発覚する。その秘密は彼女たちの人生を大きく変えるきっかけとなっていくのだった。
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映画を見る前に知っておきたいこと
ロカルノ映画祭の権威
演技経験のない4人がロカルノ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞したことで話題になった本作。
ロカルノ国際映画祭は、映画祭最高の権威を持つカンヌ、ヴェネチア、ベルリンの世界三大映画祭に次ぐFIAPF (国際映画製作者連盟) 公認の映画祭とされるだけに、この4人の受賞は日本でも大きな話題となった。
“次ぐ映画祭”と言うと、世界三大映画祭の次にすごい!というイメージを抱きがちだが、FIAPFに公認された映画祭は全部でカンヌ、ベルリン、ヴェネチアを含めて全部で12。
- マール・デルプラタ国際映画祭
- 上海国際映画祭
- モスクワ国際映画祭
- カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭
- ロカルノ国際映画祭
- サン・セバスチャン国際映画祭
- カイロ映画祭
- 東京国際映画祭
- モントリオール世界映画祭
“次ぐ映画祭”だけでも9箇所もある。
“次ぐ映画祭”が日本においてどれだけの権威を持つかというと、「カンヌだから見よう」という人は少なからずいるが、「ロカルノだから見よう」という人はほぼいないぐらいに“三大映画祭”と“次ぐ映画祭”の差は大きい。
東京国際映画祭が普通に生活している一般の人の間では一生話題に上らないこともあるのではないかと考えると、きっと各国の開催地でも同じような状況なんだと思う。
作品の話からは少しそれるが、業界内と一般の映画祭についてのこの果てしない温度差はどうにかならないものだろうか。「○○賞受賞!!」と大きく報じられても、一体それがどの程度凄いものなのか具体的にイメージできる人は10%に満たないのでは。
果ては「○○賞ノミネート!!」って、受賞もしていない賞をまるで受賞しているかのように大きく宣伝するからもうワケが分からない。ノミネートされるのもすごいことなんだろうけどさ・・・。
とは言え、それでも素晴らしい、驚くべき快挙であることには違いないので、個人的にも素直に4人の主演女優賞の受賞を祝う気持ちである。おめでとうございます!
それにしても演技経験ほぼゼロの4人が揃って受賞出来たのは、やはり監督の手腕によるところが大きいのだろうか。恐るべし濱口竜介。
長い!!!
上映時間317分トイレ休憩なし。先の受賞の件といい、色々と話題性抜群である。
5時間って。
5時間は無理だよ・・・。
世界長尺映画ランキングTOP20ぐらいには入りそう。長尺ランキングに名を連ねるような映画は、史実や歴史モノ、ドキュメンタリー作品が大部分を占める中で、“緊張感あふれるドラマ”だっていうからまた恐れ入る。
僕と同じように「5時間は長いよぉ・・・無理だよぉ・・・」と思っているあなたに、ロカルノ国際映画祭で上映された際の驚くべきコメントをご紹介しよう。
5時間17分は、実はまったく長くない。4人の素晴らしいヒロインと出会い、彼女たちの日常の経験を分かち合うとき観客は、むしろ彼女たちともっと一緒にいたいと思うことになる。
カルロ・シャトリアン(ロカルノ国際映画祭アーティスティック・ディレクター)
マジか。
しかし、何を言われようとも見るには相当気合の要る映画であることは間違いない。
ちなみに現世界最長は『The Cure for Insomnia(原題)』の85時間。タイトルを訳すと「不眠症の治療」って、ジョークが過ぎるぜ・・・。
さらに、2020年公開予定の720時間(30日!!!)の映画『Ambiance(原題)』が現在スウェーデンの監督の手によって製作中なんだとか。2014年の夏頃に72分間の短い予告編が公開された。
北欧の方では近年、24時間ぶっ続けで暖炉の火を移し続けるなどの「スローテレビ」なるものが流行っていて、その流れに乗ったものなのだろうか。
それにしても上映時間30日って、トイレどころかお風呂も・・・というかそれ以前に仕事も無理である。一体どうなってんだ北欧しっかりしろ。
女性の気持ちと映画の可能性
“ごく普通の30代後半の女性たちが抱える不安や悩み”を描いたという本作。
正直、30代後半の女性の主題は僕自身からかけ離れすぎていて、この映画を見るにあたってはどう気持ちを作って良いのか分からない部分が少なからずある。
ほんとに、男性にとって女性の気持ちほど神秘的でよく分からないものもない。
その片鱗を覗くという意味で無理やり興味を引き出すことも出来なくはないかなぁ・・・とか考えていた僕の興味をさらったのが、先ほど引用で紹介したカルロ・シャトリアンの言葉だった。
私が育った時代は、映画のジャンルという概念が無くなった時代なんだ。私の映画への情熱は、こう言うと笑う人もいるかもしれないが、ジャンルを消し去るまさにその能力に向けられているのだ。
「ジャンル」というとSFとか、アクションとか、ヒューマンドラマとか、まずそういうカテゴリを思い浮かべるが、彼は恐らくもっと広義の意味でジャンルという言葉を使っている。
つまり幻想と現実、時間、文化、言語、あらゆる境界に向けてその言葉を発している。そしてそれは“男女の気持ち”についても例外ではないだろう。
なぜならば、そうでなければそこまでの情熱は生まれないと思うからだ。たかだがアクションとヒューマンドラマとSFを一緒くたに出来る程度の事に、映画の可能性を見るには不十分過ぎる。
そんな彼が
“4人の素晴らしいヒロインと出会い、彼女たちの日常の経験を分かち合うとき観客は、むしろ彼女たちともっと一緒にいたいと思うことになる。”
とまで語る映画だ。
その上でフランスの紙面に“途方もなく野心的”と評される映画とは一体どんなものなのか、そう言われると興味が尽きない。