映画を観る前に知っておきたいこと

ハーモニー
伊藤計劃、魂の遺作

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ハーモニー

行こう、向こう側へ

2007年にデビューしてからわずか2年程で早逝した、夭折のSF作家・伊藤計劃の残したオリジナル長編3作品をアニメーション映画化する「Project Itoh」第2弾!

“大災禍”と呼ばれる混沌から復興した世界は極端な健康志向と社会の調和を重んじ、高度な医療社会に切り替わった。そんな優しさと慈愛に満ちたまがい物の世界に、立ち向かう術を日々考えている少女がいた ──

『AKIRA』(88)の作画監督などで知られるなかむらたかしと、『鉄コン筋クリート』(06)のマイケル・アリアスが共同監督を務め、『ベルセルク 黄金時代篇』シリーズ(12/13)を手掛けたSTUDIO4°Cがアニメーション制作を担当する。

予告

あらすじ

2019年、アメリカで発生した暴動をきっかけに全世界で戦争と未知のウイルスが蔓延した“大災禍”の混乱から世界はようやく抜け出した。しかし世界はその反動から、極端な健康志向と調和を重んじた超高度医療社会へと移行していた。それは優しさと慈愛に満ちたまがい物の世界だった。

ハーモニー

© Project Itoh/HARMONY

牢獄のような社会に反旗を翻すチャンスをうかがう一人の少女がいた。名前は御冷ミァハ。ある日、彼女は世界への抵抗を示すため、自らのカリスマ性に惹かれた二人の少女と共に自殺を果たした。

ハーモニー

© Project Itoh/HARMONY

13年後、霧慧トァンは優しすぎる日本社会を嫌い、戦場の平和維持活動の最前線にいた。彼女はかつての自殺事件の生き残りだった。そんな時、平和に慣れ過ぎた世界に対して、ある犯行グループが数千人規模の命を奪う事件を起こす。

犯行グループの宣言に、霧慧トァンは死んだはずの御冷ミァハの息遣いを感じていた ──

映画を観る前に知っておきたいこと

未完の絶筆『屍者の帝国』に続いて「Project Itoh」第2弾となった『ハーモニー』は、伊藤計劃の遺作である。また、第40回星雲賞(日本長編部門)及び第30回日本SF大賞を受賞した作品でもあり、伊藤の短いキャリアの中で文学としての評価が最も高い1作である。

SF書評家の大森 望は『ハーモニー』を、21世紀最高の比類なき恐怖小説かもしれないと述べている。

伊藤計劃の遺作

2009年3月に肺癌のため亡くなった伊藤が病床に伏しながら執筆された『ハーモニー』は、癌が過去の病となった近未来の高度な医療経済社会が舞台となっている。これは自らの命が終わる予感の中で見えた風景と、彼のSF作家としての魂が混在した作品と言える。

伊藤の死後、冒頭30枚の原稿が残されていた『屍者の帝国』では、さらに死を間近にした男の生への渇望とも取れるような切り口を見せているが、『ハーモニー』における究極のユートピアでありながらディストピアにもなり得る世界は、そのまま伊藤の死生観を覗き込むようなものである。

意識を消失すること、即ちハーモニー(調和)が死と同等であるとするならば、事切れるまで作家であり続けたことこそが伊藤の生であったのか。夭折のSF作家に想いを馳せることが容易にできる、伊藤計劃魂の作である。

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