映画を観る前に知っておきたいこと

【ハイ・ライズ】1960年代SFニュー・ウェーブの代表作が現代に蘇る!

ハイ・ライズ

そこでは階層=階級。上層階に行くにつれ住民が富裕層になっていく40階建てのタワーマンションで巻き起こる、現代社会におけるヒエラルキーの崩壊を描いたミステリードラマ。

イギリスを代表するSF作家J・G・バラードの映像化不可能と言われた原作を、鬼才ベン・ウィートリーが退廃的で官能的、ミステリアスで不条理、そして、美しく上質なドラマとして再構築した。

主演に『アベンジャーズ』『マイティ・ソー』シリーズのロキ役で大ブレイクしたトム・ヒドルストン、そしてアカデミー賞俳優のジェレミー・アイアンズ、『ホビット』シリーズのルーク・エヴァンス、『アメリカン・スナイパー』のシエナ・ミラーと英国を代表する俳優が顔を揃える。


  • 製作:2015年,イギリス
  • 日本公開:2016年8月6日
  • 上映時間:119分
  • 原題:『High-Rise』
  • 映倫区分:R15+
  • 原作:小説「ハイ・ライズ」J・G・バラード

予告

あらすじ

医師のラングは理想のライフスタイルを求めて、ロンドン郊外にある40階建てのタワーマンションに引っ越してきた。そこでは住人たちが毎晩のように派手なパーティを開催し、ラングもそこに招かれて新生活を謳歌していた。ハイ・ライズこのタワーマンションは、スーパーマーケット、スパ、ジム、小学校など、あらゆる設備が整ったまさに完璧なユートピアだった。あるルールに従っている限りは……ハイ・ライズラングは低層階の住人ワイルダーから、フロア間に社会的地位に基づいた階級が存在し、互いに牽制しあっている事実を知らされる。ハイ・ライズそして、ある晩に起こった停電を境に住民達の不満はついに爆発し、タワーマンション全体を巻き込んだ暴動へと発展していく……


映画を見る前に知っておきたいこと

1960年代のSFニュー・ウェーブを牽引したJ・G・バラード

原作者J・G・バラードはイギリスを代表するSF作家ではあるが、いわゆる現代のSFとは全く違うので注意してもらいたい。

それでは本作は一体どんなSF映画なのか、それはJ・G・バラードという作家を知る事で見えてくる。

J・G・バラードが残した最も偉大な功績は、1960年代後半にイギリスから世界に広まったSF界のニュー・ウェーブ運動を牽引した事だ。

1960年代は、SFというジャンルを取り巻く状況が大きな変化を遂げた時代でもある。

科学技術の目覚ましい進歩により、大統領が人間を月へ送ると宣言し、国家事業としてそれを推進した事で、それまで子供の夢物語りや現実逃避と思われていたSFが一気に現実味を帯びたのである。

自走する科学技術への人々の不安や恐怖に対して、SFは「宇宙時代の文学」「文明批評の文学」として新しい時代の価値観を求められるようになった。

また当時は、学生が主導する反体制的な政治運動が世界各国で同時多発的に起こった「政治の季節」と呼ばれる時代でもあり、SFにおけるニュー・ウェーブ運動もこうした時代の風潮に影響されている。

「SFは外宇宙より内宇宙を目指すべきだ」というニュー・ウェーブ運動の主張は、人々が求めた新しい時代の価値観ではなく、SFというジャンルの新しい価値観を生み出していった。

性的な描写をしないなど、それまでにあったSFを縛る制約を打破し、より自由な表現を手に入れ、時代の要求(外宇宙)に応えるのではなく、SFというジャンルの内側(内宇宙)に変革をもたらした。これによりSFは一つのジャンルとして大きな発展を遂げることとなる。

「ハイ・ライズ」はこうしたニュー・ウェーブ運動から生まれた作品であるため、エンターテイメント性も薄く、ある程度原作に忠実な映画も文学としてのSFの世界観を持っている。

しかも、J・G・バラードが「ハイ・ライズ」を執筆した1975年から見た近未来(1978年-1983年頃)を描いているという点では、2016年の映画は過去を描く事になる。そこも現代のSFではあり得ない。

現実にはそうならなかった未来を忠実に描いているという事を理解しておけば、この混沌とした映画に少しは入り込み易くなるだろう。

鬼才たちの狂宴!

「ハイ・ライズ」は同じく70年代に執筆された「クラッシュ」「コンクリート・アイランド」と並ぶJ・G・バラードの“テクノロジー三部作”の一つだ。

“テクノロジー三部作”はSFとして、科学技術の進歩と人間の関係性を追求したとされるが、SFニュー・ウェーブを牽引したこれらの作品は、どれもSFとして異質なものだった。

中でも、「クラッシュ」は、自動車が破壊されることに性的興奮を覚える男を描いた衝撃的な内容だったため、出版社からは「この著者は精神科医でも手が付けられないほどいかれている。出版するな!」と言われた作品だ。

J・G・バラードは「クラッシュ」を、世界最初のテクノロジーに基づくポルノグラフィーだと述べているが、それはそうだろう。彼の頭の中こそが、内宇宙だ。

「クラッシュ」は1996年にカナダのデヴィッド・クローネンバーグ監督によって映画化され、原作と同じように物議をかもしながらもカンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞している。ただ、この監督もJ・G・バラードに劣らず、癖の強い作風を持っている。

デビューから一貫して身体の変容や破壊を執拗に描き、いわゆるボディ・ホラーを代表する監督である。最も有名な作品は、物質転送機「テレポッド」の実験中に1匹のハエが紛れ込みハエ人間となってしまう男を描いたSF映画『ザ・フライ』(86)だ。

大ヒット映画だったので覚えている人も多いのではないだろうか。

そして、このデヴィッド・クローネンバーグ監督の後継者と言われているのが、『ハイ・ライズ』の監督を務めたベン・ウィートリーだ。

デヴィッド・クローネンバーグに変わる監督がいなかった事が、「ハイ・ライズ」が映像化不可能と言われた要因だったように思う。

本作もまた、鬼才たちの狂宴による常人には理解しづらい映画だ。しかし、原作はSF文学史に一石を投じた重要な作品である事は間違いない。

そしてベン・ウィートリー監督によるスタイリッシュな映像美は、「ハイ・ライズ」を現代の映画へとしっかり生まれ変わらせている。

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