映画を観る前に知っておきたいこと

【ぼくらの家路】ダルデンヌ兄弟やケン・ローチを彷彿とさせる映画

投稿日:2015年8月23日 更新日:

ぼくらの家路

2014年の第64回ベルリン国際映画祭コンペティション部門正式出品作品。10歳と6歳の幼い兄弟がベルリンの街で母を探す3日間を描いた感動の物語は、ダルデンヌ兄弟やケン・ローチを彷彿とさせる秀作。監督はドイツのエドワード・ベルガー。

主演に選ばれたイヴォ・ビッツカーは、ドイツ中で6ヵ月もの間、毎日開かれたオーディションの最終日に、何百人という応募者の中から見出された逸材だ。これが俳優デビュー作にも関わらず、ベルリン国際映画祭で「並外れた演技力」「忘れがたい」「彼を見るための映画」とメディアから絶賛された。

誰もが自身の“大人になった瞬間”を振り返る。

  • 製作:2014年,ドイツ
  • 日本公開:2015年9月19日
  • 上映時間:103分
  • 原題:『Jack』
  • 映倫区分:PG12

予告

あらすじ

「ママは今日もいない」

10歳のジャックは、6歳になる弟のマヌエルの面倒を見る毎日。シングルマザーの母は恋人との時間や夜遊びを優先していた。そして、ある事件からジャックだけ施設に預けられることになる。ぼくらの家路しかし、施設の新しい生活にまったく馴染めないジャック。同じ施設の少年たちから暴力を受ける。それでも夏休みに入れば、優しい母に会えると信じていた。

待ち続げた夏休みがようやく来るが、母から迎えが3日後になると電話が入る。がっかりしたジャックは、施設を飛び出してしまう。夜通し歩き続けて家に着くが、母は不在でカギもない。携帯電話は留守番メッセージばかり。ジャックは母に伝言を残すと、預け先までマヌエルを迎えに行く。ぼくらの家路仕事場、ナイトクラブ、昔の恋人の事務所まで、母を捜してベルリンの街を駆け回る兄第。小さな肩を寄せ合う兄弟は、再び母の腕の中に帰ることが出来るのか・・・

そして、旅の最後に弟を想うジャックが下す重大な決断とは?

映画を見る前に知っておきたいこと

ダルデンヌ兄弟やケン・ローチを彷彿とさせる秀作

本作の予告で“ダルデンヌ兄弟やケン・ローチを彷彿とさせる秀作”と紹介されていたので、ダルデンヌ兄弟やケン・ローチを知らない人のために紹介したい。彼らはカンヌ国際映画祭でグランプリに相当するパルムドールを受賞しているヨーロッパを代表する監督たちだ。彼らのことを知れば本作の雰囲気が掴めると思う。
ダルデンヌジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌは、ダルデンヌ兄弟として知られ、彼らに至っては、1999年の『ロゼッタ』と2005年の『ある子供』でパルムドールを2度も受賞している。どちらも子供をテーマにした作品だ。2002年の『息子のまなざし』や2011年の『少年と自転車』もそうなのだが、これも本作がダルデンヌ兄弟を彷彿とさせる理由の一つと思われる。作風は音楽を使わず淡々とした空気の映画が多いが、独特の映像美とそうした演出が物語をよりリアルに映し出す。常に鋭い切り口で見る者の心に問いかける社会派監督としての側面もある。

ケン・ローチケン・ローチ監督がパルムドールを受賞したのは2006年の『麦の穂をゆらす風』で、これはアイルランド独立戦争とその後のアイルランド内戦を描いた戦争映画だが、2002年の『SWEET SIXTEEN』では少年の青春を描いている。カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した作品だ。ケン・ローチ監督に関しては完全に社会派監督で、むしろその代表であるといえる。イギリスの労働階級にスポットを当てた作品が多い。作風はダルデンヌ兄弟と似た部分がある。ケン・ローチ監督もほとんど音楽は使わず、物語をリアルに表現する。社会派でそんな作風だと、難解な映画を撮る監督と思うかもしれないが、ケン・ローチ監督の作品は常に脚本が素晴らしい。『SWEET SIXTEEN』もカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞しているだけあって、社会問題をテーマにしながら物語には充分なエンターテイメント性がある。

僕たちのLUCKY NOWでは、ダルデンヌ兄弟とケン・ローチは特別扱いされる監督たちだ。要するに好みの監督なのだが、“社会性と芸術性とエンターテイメント性のバランスの良さ”が素晴らしい。社会問題をテーマにすることで作品に意味を持たし、時に小説のように淡々とした雰囲気で物語をリアルに描く。その上で観客が楽しめる脚本を用意し、常にエンターテイメントである。僕としては映画の持つ要素を余すことなく感じさせてくれる監督たちなのだ。

少し話がそれたが、本作が“ダルデンヌ兄弟やケン・ローチを彷彿とさせる秀作”と紹介されたことが何より期待させるということを伝えたい。

大阪中1女子殺害事件

映画を見る前に知っておきたいこととは関係ないが、連日報道されている大阪で起きた中1女子殺害事件について少し・・・

本作も母親を捜すため子供だけで夜の街を歩くシーンがあるが、今はどうしてもあの事件を想起してしまう。犯人の残虐非道な犯行によって、こうした作品にも暗い影を落とすのだ。どうしても許せなかったので、この場に一言だけ書かせてもらった。

少女と少年の冥福をお祈りします

-ヒューマンドラマ, 洋画

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