父親から虐待を受けている12歳の少女と、たまたま出会ったトラック運転手の奇妙な旅を描いたロードムービー。ファッションデザイナーのアニエス・ベーが本名のアニエス・トゥルブレ名義で発表した初監督作品として話題の一本。
トラック運転手には現代美術家のダグラス・ゴードン。音楽ではフランスのエレクトロポップ・デュオ、エール(Air)のジャン=ブノワ・ダンケルが参加し、ソニック・ユースが未発表音源を提供するなど、キャストやスタッフには、アニエスベーの友人たちが多数参加している。
- 製作:2013年,フランス
- 日本公開:2015年10月31日
- 上映時間:121分
- 原題:『Je m’appelle Hmmm…』
予告
あらすじ
片時も人形を手放さない12歳の少女。彼女は、母親が働きに出ている間に父親から虐待を受けていた。しかし、誰にもそのことを話さない。ある時、学校の遠足で海辺に出かけることになり、少女は密かに家出をする決意をした。そして当日、偶然停まっていた一台のトラックに乗り込んだ。
スコットランドから働きに出てきていたピーターというトラック運転手との奇妙な逃避行が始まる。そうして、少女は新しい世界を手にした。フランス語と英語、二人は言葉が通じないながらも次第に心を通わせていく。しかし、二人のこの旅は新しい悲劇の始まりだった――。
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映画を見る前に知っておきたいこと
アニエス・ベー
1975年創業。流行にとらわれないシンプルで機能的なデザインで人気のフランスのファッションブランドだアニエス・ベー。本作は、アニエス・ベーのデザイナーであり、創業者でもあるアニエス・トゥルブレ本人が監督を務めた映画だ。
もともと、彼女は大の映画好き。映画にかける情熱は並々ならないものであり、これまで映画祭後援、衣装協力、特別上映会の資金援助、店頭でのポスター展示や予告編の上映といった形で映画界と関わってきた。
そんな彼女が今回この映画を撮ったのは、自分のためだという。だから妥協は一切ない。監督、脚本はもちろん、美術、衣装、フレーミング、カメラ、編集に至るまですべて彼女自身が自分で手掛けている。
アニエスの友人たち
キャスト・スタッフとして参加したアニエス・トゥルブレの友人たちにも注目があつまる。
トラック運転手・ピーターを演じたダグラス・ゴードンは『ジダン:神が愛した男』を監督した現代美術家。映像を中心に様々なメディアで固定観念をぶっ壊す作品を発表し続けている。
日本でも人気のあるフランスのエレクトロを代表するバンド、エール(Air)のジャン=ブノワ・ダンケルが音楽を手掛ける。さらに、「ソニック・ユースがお気に入りにあげている」という冠詞が絶大な権威を持つアメリカインディー界の雄、ソニック・ユースは未発表音源の提供した。
「アメリカ実験映画のゴッドファーザー」と呼ばれているジョナス・メカスが撮影したシーンには、政治哲学者のアントニオ・ネグリが参加している。
真実と事実
「思いがけないことが不意に現れる。物の見方をずらしてみる―。私は、旅で経験する出会いや日常から切り離された純粋な自由を描きたかったのです」
―アニエス・トゥルブレ
公式サイトでこのように語っている彼女が撮った『わたしの名前は…』のテーマは“偏見を取り去ること”。
アニエスは、10年前にある誘拐犯が逮捕された事を伝える記事を目にした時に、どう考えても冤罪だと事件に思いを馳せ、この映画の着想を得た。そうして出来上がった『わたしの名前は…』の物語は悲劇の様にも見えるし、あるいは幸福を紡いでいる様にも見える。
事実とは、客観的に見た側面のひとつでしかない。ピーターの誘拐は事実ではあったが、それは真実ではなかった。真実に目を向けること。大切なものはいつでも真実の方に隠されている。