【完全なるチェックメイト】実在した天才チェスプレイヤーの神の一手

それは、世界が震えた＜神の一手＞

実在したアメリカの天才チェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーの半生を描き、２４年間も世界王者に君臨し続けたソ連のボリス・スパスキーとの対局で見せたフィッシャーの“神の一手”、エドワード・ズウィック監督がその瞬間を映し出す。

フィッシャーを演じるのは『スパイダーマン』シリーズのトビー・マグワイア。絶対王者スパスキーに『ウルヴァリン：X-MEN ZERO』（09）のリーブ・シュレイバー。

『オン・ザ・ハイウェイその夜、86分』（13）で監督・脚本を務めたスティーブン・ナイトによるストーリーテリングが伝記映画の枠を超え、二人の男が見せる究極の頭脳戦をスリリングに展開させる!

予告

米ソ冷戦の真っただ中の１９７２年。、アイスランドのレイキャビクで行われたチェスの世界王者決定戦は、米ソ両国の威信をかけた代理戦争の様相を呈していく。その戦いは、まるで盤上の第三次世界大戦のようだった。

タイトルを保持するのは、24年間も世界王者に君臨し続けるソ連のボリス・スパスキー。対するは天才チェスプレイヤーと謳われたアメリカ、ボビー・フィッシャー。

彼の頭脳はIQ１８７、１５歳で最年少グランドマスターに輝いた実績の持ち主だった。しかし、性格は自信家で謙虚さの欠片もなく、時には誰にも制御できない突飛な行動をとる。彼は自分の主張が通らなければ、大切な試合であろうと放棄した。

世界中が注目する１局目はフィッシャーの完敗だった。彼の自信は砕かれ、残り２３局は絶対不利とまで囁かれた。そんな極限状態に追い込まれたフィッシャーは常軌を逸した戦略を打ち立てる。

米ソ両国は武力による戦争をしない代わりに、スポーツ、音楽、アート、そのすべてが国の威信を賭けた戦いだった。この対局も例外ではなく、両国の大統領がフィクサーとして影で動く中、フィッシャーが放った“神の一手”とは！？

ボビー・フィッシャーと王者ボリス・スパスキーの一戦は、米ソ冷戦時代に行われたため両国の威信がかかっていたのは確かだったが、フィッシャーというチェスプレイヤーは個人としてこの戦いに臨んでいた。それはフィッシャー自身の奔放さによるもので、とても国を代表するような資質の持ち主ではなかったからだ。

しかし、ソ連という大国に挑む一人のアメリカ人という構図に当時の人々は憧れ、フィッシャーはある種の英雄となっていた。反体制的で社会とまったく折り合わないが、その卓越した能力で人々を魅了した彼は最初のパンク・ヒーローと言える。

冷戦時代にソ連を負かすことはアメリカ人にとっては誇らしいことであった一方で、本作は当時のアメリカの英雄を描いただけの単純なものではない。

２０１５年の解釈が込められたこの映画はフィッシャーだけの物語に留まらず、同様に極限状態にあった王者ボリス・スパスキーにもスポットライトが当てられている。これによりアメリカ目線の伝記ドラマという枠を越え、究極にスリリングな頭脳戦を展開させていくのだ。

こうした解釈は脚本を手がけたスティーブン・ナイトが最も得意とするところだ。この緊張感こそ最大の見どころとなる。

チェスは「西洋将棋」とも呼ばれ、駒の動きも将棋に近く、玉（キング）を取れば勝ちとなる点も同じである。

将棋とチェスの最も大きな違いは、取った駒を再び使うことができるかどうかだ。将棋は相手から取った駒を使うことで、チェスより幅広い戦略を展開できる。

方やチェスは盤上に再び駒を戻せないゆえ、ひたすら消耗戦となっていくのが特徴だ。終盤にポーン（将棋の歩）とキングだけになるという展開も珍しくない。よって序盤では守られる存在であったキングが終盤には最強の駒に変わることもあり、これは将棋にはない戦略だ。

２０１４年にチェス対局で元世界チャンピオン、ガルリ･カスパロフに挑んだ将棋の羽生善治名人は、この差によって敗れている。

羽生善治は歴代最強の棋士と目され、趣味のチェスでも日本ランキング１位というとんでもない男だ。それでも終盤の局面において将棋との違いが勝負を分けてしまった。

チェスより将棋の方がより複雑な戦略を有するというだけで、どちらが上というわけではないことを示した対局となった。

この対局後、カスパロフが羽生に指し手を解説する一場面もあった。日本最強の棋士をもってしてもチェスとはそれだけ奥深いようだ。

トビー・マグワイアギャガ 2016-07-02