映画を観る前に知っておきたいこと

【岸辺の旅】カンヌある視点部門で日本人初となる監督賞

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第68回カンヌ国際映画祭ある視点部門で日本人初となる監督賞を受賞した作品。主役となる夫婦を演じたのは深津絵里と浅野忠信。深津絵里は『悪人』で第34回モントリオール世界映画祭で最優秀女優賞を受賞し、浅野忠信は『マイティー・ソー』でハリウッドデビューを果たし、『私の男』で第36回モスクワ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞するなど、世界で評価された二人の共演も見逃せない。また脇を固める俳優も、小松政夫、蒼井優、柄本明と日本の名優が揃っている。

黒沢清監督の新境地となる究極のラブストーリー。


  • 製作:2015年,日本・フランス合作
  • 日本公開:2015年10月1日
  • 上映時間:128分
  • 原作:小説「岸辺の旅」湯本香樹実
  • 岸辺の旅 (文春文庫)

予告

あらすじ

3年前に夫・優介(浅野忠信)が失踪してしまってから喪失感を抱えていた瑞希(深津絵里)は、ようやくまたピアノ講師の仕事ができるようになった。そんな中、突然優介が帰ってきた。

「俺、死んだよ」

優介は、瑞希に自分が死んだことを伝えるのだった。そして、綺麗な場所があるから一緒に来ないかと、優介に言われるまま瑞希は旅に出ることに。岸辺の旅初老の新聞配達員、小さな食堂を営む夫婦、山深くにある農園に住む家族といった、疾走した3年の間に優介がお世話になった人々を夫婦で一緒に訪ねていく。岸辺の旅空白の時を巡るように優介と一緒に過ごしながら彼が感じたことを同じように感じるとともに、見たことのない優介の一面も知っていく瑞希。岸辺の旅ただ純粋に一緒にいたいと願う二人は改めて互いへの愛を感じていくが、別れのときは刻一刻と近づいていた・・・


映画を見る前に知っておきたいこと

カンヌある視点部門で日本人初となる監督賞

本作で黒沢清監督は、今年のカンヌ国際映画祭の中で日本人唯一の受賞であったのと同時に、第68回カンヌ国際映画祭ある視点部門で日本人初となる監督賞を受賞する快挙を成し遂げた。ここに辿り着くまでも、すでに世界の映画祭で評価されてきたが、とりわけカンヌ国際映画祭での評価は高かった。

ホラー映画である『回路』は、2001年にカンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞し、2008年には『トウキョウソナタ』が第61回カンヌ国際映画祭ある視点部門で審査員賞を受賞している。カンヌ国際映画祭でも国際批評家連盟賞やある視点部門はコンペティション部門と違い、あらゆる種類のヴィジョンやスタイルをもつ、「独自で特異な」作品群が多いのが特徴である。本作でのある視点部門で日本人初となる監督賞を受賞したことからもわかるように、黒沢清監督は「独自で特異な」作品を世に送り出している。

今回の監督賞受賞を快挙と言ったが、僕としてはこういう評価のされ方は世界の国際映画祭でグランプリを取るぐらい難しいことでもあると思う。良くも悪くもマニアックな映画という立ち位置になるかもしれないが、革新的な作品とも言えるはずだ。

本作は、先立ってしまった夫と再会するという不思議な設定が「独自で特異な」作品にしているのだと思うが、内容は誰もが感動できる珠玉のラブストーリーだ。その証拠にカンヌで公式上映が終わった後も、2度に渡ってスタンディングオベーションが続いた。そして、その熱気そのままにフランス国内では公開も決定している。

今回はある視点部門での評価だったが、これだけ多くの感動を呼べるならこれから世界的にも反響のある作品になるかもしれない。そして今後、黒沢清監督がカンヌ国際映画祭の中心であるコンペティション部門で評価されることにも期待してしまう。ちなみに2003年に製作された『アカルイミライ』は第56回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式に招待されている。

原作となった湯本香樹実の「岸辺の旅」

原作の著者である湯本香樹実は、処女小説でワンパクざかりの男の子3人と老人との交流を描いたドラマ「夏の庭 The Friends」は日本児童文学者協会新人賞、児童文芸新人賞を受賞した。さらに同作品は映画化・舞台化されたほか、十数ヵ国で翻訳出版され、海外でもボストン・グローブ=ホーン・ブック賞、ミルドレッド・バチェルダー賞等を受賞した。また絵本である「くまとやまねこ」では講談社出版文化賞受賞し、「西日の町」は第127回芥川賞候補になるなど活躍は目覚ましい。原作となった「岸辺の旅」も第27回織田作之助賞候補となっている。

中でも処女作である「夏の庭 The Friends」は国内外で評価されただけでなく、ミリオンセラーとなっている。

今回、映画が評価されたのは間違いなく湯本香樹実の原作の力は大きいだろう。これだけの評価とセールスを誇る作家が描いた渾身のラブストーリーなのだから。映画を見た人にはぜひ原作も読んでもらいたい。映画が好きなら、湯本香樹実の世界観も好きになるはずなので。
夏の庭―The Friends (新潮文庫)

-恋愛, 邦画

執筆者:


  1. PineWood より:

    (夏の庭)の原作者の作品で黒沢清監督のコラボという事で期待して見た。アカルイミライの続篇的な雰囲気があるが、一番印象的なのは光や宇宙の年代を語るシーンだ!眼に見えないゼロの幅というような、しちめんどくさい原理を映像化し霊魂の可視化に挑んだという事だろう。イングマール・ベルイマンの名作映画(野いちご)とも重なる内容もあった。

  2. 今川 幸緒 より:

    20世紀を代表するイングマール・ベルイマンに影響を受けた映画監督は多いので、確かに黒沢清監督がそこを意識していたとしても不思議ではないです。

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