映画を観る前に知っておきたいこと

古都
川端康成不朽の名作「古都」のその後

投稿日:2016年11月18日 更新日:

古都

この運命に、生きる ──
生き別れになった双子の姉妹、
新たな継承の物語は京都、パリへ ──

「日本人の心の精髄を、すぐれた感受性をもって表現、世界の人々に深い感銘を与えたため」これが川端康成が日本人として初めてノーベル文学賞を受賞した理由だった。そして選考対象とされた作品の中には、あの「雪国」と並び、映画の原作となっている「古都」もあった。

川端康成不朽の名作「古都」、そこに書かれたのはまさしく“日本の精神と美”。過去に2度の映画化がなされたが、今回がこれまでと大きく異なるのは原作の“その後”が描かれていることだ。

映画では日本とフランスの古都、京都とパリを舞台に、生き別れになった双子の姉妹が抱える葛藤、そして母から娘へと大切なものを引き継ぐ姿を映し出す。

ハリウッドで映画製作を8年間学び、帰国後もアカデミー賞監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの現場に参加したYuki Saitoが、川端康成の“日本の精神と美”を世界に発信する。

文部科学省特別選定作品。

予告

あらすじ

今朝もいつものように店の前に水をまき、夫の竜助(伊原剛志)に丁寧にお茶を淹れ、仏壇に手を合わせる佐田千重子(松雪泰子)。京都室町に先祖代々続く佐田呉服店を継いで20年、同じ暮らしを守り続けてきた。しかし、周囲は変わりつつあった。西陣を歩いても機の音が聞こえなくなり、古くからの付き合いの職人たちが次々と廃業していく。

古都

© 川端康成記念會/古都プロジェクト

千重子の一人娘で大学生の舞(橋本 愛)は、一流商社の二次面接を控えていた。就活がうまくいかない友人たちから「最後は家を継ぐんやろ?」と聞かれて、言葉を濁す舞。自分が本当は何をしたいのか、見つけられないでいるのだ。

古都

© 川端康成記念會/古都プロジェクト

千重子には、生き別れになった双子の妹がいた。彼女の名は中田苗子(松雪泰子/二役)。京都のはずれの北山杉の里で夫と林業を営んでいる。一人娘の結衣(成海璃子)は、絵画を勉強するためパリに留学していたが、本当は何を描きたいのかを見失い、彼女も悩める日々を送っていた。

古都

© 川端康成記念會/古都プロジェクト

苗子はそんな結衣に会うためにパリへと向かう。その頃、日本文化を紹介するイベントに参加するため、舞もパリを訪れていた。母から日本の心を受け継いだ娘たちの人生が今、交差しようとしていた……

映画を観る前に知っておきたいこと

川端康成の代表作「雪国」の冒頭、“国境(くにざかい)の長いトンネルを抜けると雪国であった。”からはじまる風景描写はあまりにも有名である。それは映像を必要としないほど鮮明に、読み手の頭の中に上越国境の清水トンネルを抜けた様子を映し出す。1937年当時、日本国外にいる日本人が故国の郷愁を誘う作品として愛されていたという。

ノーベル文学賞を取ったことからも、彼の文章は翻訳され、リズムを変えても美しいままなのだろう。

「古都」もまた、京都の四季を春から冬にかけて、章ごとに綴った物語だった。そこには川端が表現する“日本の精神と美”をはっきり感じることができる。

過去に2度に渡って映画化された「古都」だが、Yuki Saito監督が手がける本作は、日本文学を代表する作品の“その後”を描き、大胆な脚色を施した点でかなり挑戦的であると言える。

原作と映画の違い

川端康成の「古都」では、生き別れになった双子の姉妹である千重子と苗子を中心に書かれたが、本作ではそれぞれに娘がおり、母娘の物語が大きな主題のひとつとなる。

また、京都という舞台を飛び出し、フランスの古都であるパリにまで物語が広がっている点も大きく異なる。

現代版「古都」という捉え方もあるが、「古都」モチーフにしたまったく別の作品として鑑賞してもいいかもしれない。

俯瞰して描く“日本の精神と美”

監督であるYuki Saitoは、アメリカの人気ドラマ「24」のプロデューサー、ノーマン・パウエルに師事し、ハリウッドで8年間映画製作を学んでいる。ある時、師に日本の文化を表現するために帰国を促され、ようやく巡ってきたのが本作の監督だった。

日本の外の眼で捉える「古都」が、大胆な脚色へと繋がっている。日本とフランスの二つの古都を舞台にしたのも、異なる文化を俯瞰して捉えることができる彼ならではの手法なのではないだろうか。

京都とパリを同時に映すことで、そこに生まれるコントラストから“日本の精神と美”を浮かび上がらせる。若く、自由な創造力が川端康成の「古都」に新たな解釈をもたらす。

-ヒューマンドラマ, 邦画
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