映画を観る前に知っておきたいこと

【カンフー・ジャングル】香港カンフーアクションの正統

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カンフー・ジャングル

香港アクション映画の最前線を走り続け、今や世界のアクションスターとして“宇宙最強の男”と呼ばれるドニー・イェンと、『孫文の義士団』(09)で香港のアカデミー賞第29回香港電影金像奨8部門に輝き監督賞を受賞したテディ・チャン監督が再タッグを組んだカンフーアクション。 香港映画の代名詞ともいえるカンフーをテーマに、武術界チャンピオン連続殺人事件に隠された復讐という武侠時代劇の構想と武術の精神、そしてミステリアスなストーリーを見事に融合させた。ラスト13分7秒の燃焼度120%の激闘に次ぐ激闘はアクション・ファン必見。

  • 製作:2014年,中国・香港合作
  • 日本公開:2015年10月10日
  • 上映時間:100分
  • 原題:『一個人的武林 Kung Fu Jungle』
  • 映倫区分:PG12

予告

あらすじ

警察の武術教官でありながら一門の名を挙げるために私的試合で殺人を犯し服役中のハー­ハウ・モウ(ドニー・イェン)。武術界チャンピオンの連続殺人事件をきっかけに、ロク­警部(チャーリー・ヤン)への捜査協力と引き換えに仮釈放となり犯人を追う。カンフー・ジャングルハーハウ­はこの犯罪の目的は恨みではなく、これからも事件は続くと断言。彼の予言通り、武術界­のチャンピオンたちが自分の得意とする武術で相次いで殺害されていく。カンフー・ジャングル犯人の目的は一体?­そしてハーハウとの関係は?

映画を見る前に知っておきたいこと

中国の一部である香港が中国と合作とは?

本作は中国・香港合作という形で制作されているが、なぜ中国の一部である香港が中国と合作ということになるのかというと、そこには戦争による歴史が深く関係している。どこの国の映画史も、その国の歴史に大きな影響を受けているものだが、香港は第二次世界大戦 (1941–45) の間は日本に占領され、その後は1997年までイギリスの植民地であった。イギリスから中国に返還された後も、返還前の法律、制度、流通通貨などを返還後も向こう50年は変えないという「一国二制度」の原理の下“特別行政区”となったのだ。

そのことによって、中国本土の映画が常に政治状況に大きく左右されるのに対して、香港映画はイデオロギーからは自由に発展していった。また、香港はイギリスの植民地時代から資本主義で、中国は社会主義であることからも映画の発展の違いを想像できると思う。カンフーアクション映画が多いという点では中国も香港も同じだが、それぞれ別の道を辿って現在に至っている。香港は商業で栄えた土地柄から、より商業主義に徹した徹底娯楽映画が特異な発達を遂げてきている。その中で生まれた香港映画を代表するスターがブルース・リーやジャッキー・チェンだ。

国は同じでも、こと映画というジャンルに置いては別の国という認識なのだ。

香港カンフーアクションの正統

本作の見所がカンフーアクションなのは言うまでもないが、特にラスト13分7秒におよぶ死闘はまさに往年のカンフー・アクションを彷彿とさせる。それもそのはずで、この作品には香港カンフーアクションというジャンルの正統を感じさせる要素が揃っている。

何と言っても主演のドニー・イェンの存在がある。ブルース・リーの映画に衝撃を受け、18歳から北京の体育学校で本格的に武術を学んだ彼は、今や世界のアクションスターと言われる。その才能は本物で本作ではアクション監督まで務めている。そして、武術指導のユン・ブン、ヤン・ホア、スティーブン・トンの4人とともに第34回香港電影金像奨最優秀アクション監督賞も受賞し、香港カンフーアクションのスターであるブルース・リーやジャッキー・チェンに続く存在となっている。

また、『カンフー・ジャングル』はテディ・チャン監督によって、かつての香港カンフーアクション映画に捧げた作品となっている。というのもこの作品、香港カンフーアクション映画のスターが勢揃いしているのだ。例えば、テレビで放映されている映画が『ドランクモンキー酔拳』(78)で、そこに師匠役を演じるのはユエン・ウーピンの父であり武術指導者の故ユエン・シャオティエン、同様に放送されている映画『秘技・十八武芸拳法』(80)の故ラウ・カーリョンへの敬意が映画のそこここに見える。またこの作品には映画界で活躍する先輩、ショウ・ブラザースのスターだった『新・片腕必殺剣』(71)のデビット・チャンや製作者のツイ・シウミン、カー・アクションのブルース・ロウ、武術監督で俳優のユエン・チュンヤン、マン・ホイやシャロン・ヨン、監督のアンドリュー・ラウやソイ・チェン、そしてゴールデン・ハーベスト社の創立者だったレイモンド・チョウも参加しており、彼らの一部は映画の中でドニー・イェンと対戦し、衰えない輝きを見せている。

そしてテディ・チャン監督は、カンフーアクションに時代劇小説に登場する「武林」(武術の達人たちが集う社会)の世界概念と現代劇とを融合させた大胆な試みで香港カンフーアクション映画の新しい作品として仕上げている。

ドニー・イェンの存在と、テディ・チャン監督の香港カンフーアクション映画対するリスペクトと同時に
大胆な試みによる現代の香港カンフーアクション、それらの要素は香港カンフーアクションの正統なる系譜を感じさせる。

-アクション, 洋画

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