映画を観る前に知っておきたいこと

ロルナの祈り
ダルデンヌ兄弟が初めて描く愛の物語

ロルナの祈り

この愛だけを、私は信じる。

アルバニア移民ロルナはベルギー国籍を得るために偽りの結婚をする。それは命を奪う犯罪と命を守る愛の始まりだった。

名匠ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟が初めて描き出す愛の物語。愛を語るにはあまりにも大胆な構成が観る者の驚きを誘う。

ある子供』で主人公ブリュノを演じたジェレミー・レニエがハリウッド顔負けの激痩せ芸で、悲惨な麻薬中毒者クローディを熱演する。


予告

あらすじ

ベルギーでの幸福な暮らしを夢見てアルバニアからやってきたロルナ(アルタ・ドブロシ)。彼女はベルギー国籍を得るため、闇ブローカーのファビオ(ファブリツィオ・ロンギオーヌ)の手引きで、麻薬中毒の青年クローディ(ジェレミー・レニエ)と偽装結婚する。

ロルナの祈り

ファビオの計画は、ロルナが国籍を取得したらまずクローディを殺し、国籍を必要とするロシア人と再び彼女を結婚させ大金を得ようというものだった。そして、ロルナも恋人ソコル(アウバン・ウカイ)とバーを開くという夢のため、この残酷な計画に加担していく。

ロルナの祈り

何も知らないクローディは偽りの結婚生活の中でもロルナを慕い、彼女を1日の生きる目標に麻薬を絶とうもがいていた。そんなクローディに対して罪の意識が芽生え始めたロルナは、彼を殺さずに離婚する方法を探し始めるが……


映画を観る前に知っておきたいこと

まるでロゼッタが大人になったような女性ロルナ。そして、ジェレミー・レニエ演じるクローディに『ある子供』の主人公ブリュノの姿が重なる。まるでダルデンヌ兄弟の集大成のような印象を与える本作だが、その作風には新境地と呼べるほど明らかな変化を見て取ることができる。

これ以降の作品は映画として格段に観やすくなるため、ダルデンヌ兄弟のターニングポイントとも言える1本だ。

初めて描く愛の物語

前作までのドキュメンタリー映画のようなカメラワークから一転、望遠による俯瞰した視点の増加は映画全体に余白をもたらし、かつてのような息苦しさは消えている。また、実際のシーンで流れている音楽以外は一切使わなかったダルデンヌ兄弟が、ベートーヴェンのピアノ・ソナタをバックにしたエンドロールで、初めて観る者の余韻を誘ったのも印象的だ。

それでいて、麻薬中毒者クローディの命の灯火が今にも消えてしまいそうな映画の前半部は、これまで通りの緊迫感が漲る。しかし、偽りの妻としてクローディの命運を握るロルナの心にフォーカスした後半部で、僕たちは母性が生んだ崇高な愛の軌跡を目撃する。

本作は、二部構成とも言えるほど大胆に切り替わる展開によって、移民問題をベースにしたダルデンヌ兄弟らしいリアリティを、どこか幻想的な空気で包み込んでいく感覚が最も目新しい。

ダルデンヌ兄弟が初めて描く愛の物語は、決してラブストーリーと呼べる代物ではない。これは、ロルナの慈愛に満ちた、まさに祈りのような映画である。

映画の背景となる移民問題

本作は究極とも言えるような愛の物語である反面、これまで以上に社会問題に深く根ざしたプロットを持っている。その割には移民問題について殆ど触れられないため、ロルナを取り巻く状況を理解しておけば映画にすんなりと入り込めるはずだ。

ロルナの故郷であるアルバニアは、第二次世界大戦が終わるとスターリン主義の独裁者エンヴェル・ホッジャによって恐怖政治が敷かれ、一切の自由が認められない国となった。そんな中、ホッジャの前近代的な鎖国政策は“欧州の最貧国”と呼ばれるほど国を困窮させ、国外への渡航が厳しく制限された国民は完全に逃げ場を失っていく。

ところがホッジャの死後、1985年頃から民主化の波が訪れると、人口300万人のアルバニア人のうち50万人もが自由と職を求め出稼ぎ移民となり、その多くはイタリアやギリシャに流れ込んだ。中にはロルナのようにベルギーや他の西欧地域を目指す者もいたが、彼らにとってはどこもアルバニアよりはマシなのだ。

しかし、観光ビザで入国した移民労働者が定職に就くことはできない。それでも自国より稼げるため、移民労働者たちは再び入国、滞在できる手段を模索し始める。ある者は語学学校へ進学し、またある者は偽装結婚で国籍を得ようとする。ほぼ無条件で滞在が許可されるのが後者というわけだ。

アメリカのトランプ大統領による移民入国制限が連日のように取り沙汰されているが、この映画はその末端にある現実を映し出している。

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