ロスト・リバー　沈みゆく街に隠された秘密

『ドライヴ』『ブルーバレンタイン』など話題作に出演し、2006年公開の『ハーフネルソン』で史上7番目の若さでアカデミー主演男優賞にノミネートされるなど、人気俳優としての地位を持つライアン・ゴズリングによる初監督作品。また2014年のカンヌ国際映画祭で「ある視点」部門に正式出品されている。沈みゆく街に隠された秘密とそこに住む人々の物語を圧倒的映像美で描いたダークファンタジー。

• 製作：2014年,アメリカ
• 日本公開：2015年5月30日
• 原題：『Lost River』
• 上映時間：95分

予告

あらすじ

経済が破綻し、住む人もほとんどいなくなってしまったとある街に住むシングル・マザーのビリーと息子のボーンズ。クズ鉄集めをしながら暮らしていたが、日々生活は厳しくなるばかりだった。すでに家は差し押さえ寸前で、街を去るか否かの選択を迫られていた。
ボーンズの近所に住むミステリアスな少女・ラット。彼女もまた祖母と暮らすこの街に囚われた住人だった。行き場のない不安と孤独を共有するボーンズとラットは次第に心を通わせていく。ある時、ラットはボーンズに謎めいた噂話をする。この街が衰退した原因は、貯水池を造るために街の一部を水の中に沈めた時、一緒に「あるもの」を湖底に沈めてしまったからだという。そのせいで、ここには呪いがかけられてしまったのだ、と。
噂の真相を確かめるためボーンズは湖底の街“ロスト・リバー”を探す。しかし、それを快く思わないギャングのブリーに狙われることになる。この街の全てを掌握したいと願うブリーの欲望はやがてラットへと向けられていく。消えゆく街に住む彼らが最後に選ぶ道は・・・

映画を見る前に知っておきたいこと

リアリティのあるテーマ

本作は沈みゆく街に隠された秘密とそこに住む人々の物語を描いたファンタジーだが、それはあくまで観客が作品に親しみ易くした設定であって、テーマは非常にリアリティのあるものである。

ある撮影でデトロイトを訪れたライアン・ゴズリング監督は、エミネムやフォード社の車などアメリカンドリームを象徴するものが生まれたこの都市に興味を持っていた。しかし実際は多くの会社が倒産し、40マイルにもわたってたくさんの廃虚ビルが並び、そんな中で自宅をなんとか保持しようとする家族が居た。カナダ人として外からアメリカンドリームの破綻を目の当たりにした彼は、そんな悪夢を抱える人々を描いた映画を製作しようと思ったのだ。こうしたテーマをあえてファンタジーで表現しているところがこの作品の持ち味である。

世界の水没した街の伝説

本作はライアン・ゴズリングによる初監督作品として話題となっているが、脚本も彼が手がけている。どのような着想からこの物語を考えたかは分からないが、この映画のように世界には多くの水没した街の伝説がある。

フランス・ブルターニュ地方に伝わる伝説上の都市イスは海辺にあり、妖精の力を借りて海行く船から略奪を繰り返しその富でみるみる栄えた。しかし人々は享楽に溺れ、背徳のはびこる都となっていった。やがて悪魔により水門が開けられ洪水でイスは水没してしまった。今でもイスは変わらぬ姿で存在し、いつの日か復活してパリに引けを取らない姿を現すとも言われている。

スイスのツークでは「湖に沈んだ町」という伝説が残っている。湖の妖精が人間に恋をして結婚し、海底で暮らしはじめるが、夫が故郷を懐かしむ姿を見て気の毒に思い、魔法で町全体を沈ませてしまう。今でも湖の底から教会の音が聞こえたり、湖の底に暮らす人々が見えたりするという言い伝えがある

日本の大分にもそうした伝説があり、こちらは瓜生島という島が水没したという言い伝えだ。伝承によれば、安土桃山時代に島にあった恵美須像の顔を不心得者が赤く塗った為、祟りで1日にして沈んだとされる。

世界中にはこうした伝説があり、祟りや呪いといった内容のものが多く日本も例外ではない。映画の湖底の街“ロスト・リバー”と一緒に沈んだ「あるもの」とは何だろうか。本当に呪いで街は消えゆくのか。世界のありきたりの伝説と比べてみるのも悪くないかもしれない。