映画を観る前に知っておきたいこと

【マジカル・ガール】嫌な予感しかしない。極めて日本的な摩訶不思議スペイン映画

投稿日:2016年2月20日 更新日:

マジカルガール

魔法少女ユキコに憧れる少女アリシアと、その家族の摩訶不思議な運命を描くスペイン映画。サスペンス、ヒューマンドラマ、ファンタジーなど、様々な要素を独自の世界観で構築させ、奇想天外なストーリーにまとめあげた実力と、作品全体を貫通するブラックなユーモアが高い評価を得た怪作。

監督はスペインの新鋭カルロス・ベルムト。サン・セバスティアン国際映画祭にて、長編デビュー作にしてグランプリと監督賞をダブル受賞。ゴア国際映画祭では主演女優賞を受賞した。

サン・セバスティアン国際映画祭はスペイン映画を評価、賞賛するための映画祭として始まったものだが、創設されて3年後の1955年には外国語映画にも参加資格が与えられ、現在では60年以上の歴史を誇るスペインで最も権威のある映画祭である。

世界三大映画祭に比べると若干見劣りはするものの、長編デビュー作でグランプリと監督賞のダブル受賞は凄まじい快挙だ。それも偶然の一発とか奇抜な新しさとかそういった類のものでは全くなく、確かな実力を持って新しい世界観を打ち出した、注目すべき才能である。


  • 製作:2014年,スペイン
  • 日本公開:2016年3月12日
  • 上映時間:127分
  • 原題:『Magical Girl』

予告

あらすじ

12歳の少女アリシアは、幼くして白血病を患っている。余命いくばくもない彼女の願いは、大好きな日本のアニメ「魔法少女ユキコ」のコスチュームを着て踊ること。

マジカルガール

愛する娘の最後の願い。父ルイスは失業中の身にもかかわらず、娘のために高額なコスチュームを手に入れようと奮闘する。

マジカルガール

しかし、ルイスの金策はうまくいかず、ついには道を踏み外し、高級宝飾店で強盗しようと店の前に立つのだった。今まさに石でショーウィンドウを割ろう振りかぶった瞬間、 空から降ってくる謎の嘔吐物・・・。

逃げようとするルイスを呼び止めたのは、妖艶な魅力と危うさを陰らせる人妻バルバラだった。ルイスはバルバラの自宅に招き入れられる。

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そしてルイスの行動は、バルバラと再開することをひたすらに恐怖している元教師ダミアンや娘のアリシアまでをも巻き込み、悲劇の結末を引き寄せ始める・・・。


映画を見る前に知っておきたいこと

間違いなく天才だと思う

基本的に物語というものには、一貫したテーマが必要だ。テーマのない物語は聞き手をあっという間に置き去りにするし、まぶたに無理をしてもらって何とか聞き終えたとしても、はて何のことか分からない。1ストーリーに1テーマ。これはストーリーテリングの基本中の基本である。

『マジカル・ガール』は父娘の感動物語から、あれよあれよの急展開でバイオレンスな復讐劇へと様子が変わっていく。ヒューマンドラマのようであり、ミステリーのようでもあり、ファンタジーのようでもあり、それでいてコメディのようでもあり・・・。

こうしたジャンル分けが難しいどころか、もはや不可能に近いような作品はそんなに少なくはないのだが、『マジカル・ガール』はそれらの要素をひとつに見せている世界観が圧倒的である。

この『マジカル・ガール』の世界観を支えているのは、独特な視覚的センスやストーリーテリングの奇抜さではなく、はっきりと全体を見渡してバランスを取る、ゆるぎない知性だ。

マジカルガール

映画の雰囲気から、おそらくは奇才、あるいは鬼才とも言われるかもしれないが、彼は間違いなく天才の類である。この作品を見て、映画に対する価値観を変える人は多いだろう。

これが笑えるってどういうことなの?

ベルムト監督はこの映画を撮るにあたって、自分なりのフィルムノワール(1940年~1950年頃にアメリカで制作された、退廃的な犯罪映画)を目指したという。

その言葉通り、世界観、ストーリー、キャラクター、どれを取ってみても閉塞感と冷たさが支配するサスペンスやホラーの空気感を持っているんだけれども、これがどうやら突き抜けすぎて逆に笑えると言うんだから驚く。

この空気で、一体何をどうやったら笑いが生まれるのか・・・。僕も『マジカル・ガール』で笑いたい。

日本文化とカルロス・ベルムト

ベルムト監督自身が語っているように、彼は日本文化の大ファンであり、作品にはそのエッセンスが惜しげもなく注がれている。

多くの日本フリークが作品に取り入れる日本“っぽさ”とは違い、ベルムト監督は日本の漫画や文学に受けた刺激を、自身の手法、技法に昇華して血肉として取り入れている。

海外の創作人が、日本の文化にこうした刺激を受ける例は少なくない。例えば『スターウォーズ』シリーズのジョージ・ルーカスは、衣装や武器など外観のデザイン的な影響を受けている他、『スターウォーズ』のストーリーには禅の教えが散りばめられているというのは有名な話だ。

ごちゃ混ぜ感と調和の血

こうした日本の魅力は様々な側面から捉えることが出来るが、日本がどこに比べても凄まじいのはやはり尋常ならざる「ごちゃ混ぜ感」ではないかと思う。世界一、二を争う経済都市文化圏の中に、伝統的、近代的、自然的、カルト的、芸術的、空想的、現実的、ありとあらゆる要素をひとつの都市に混在させながら、その全てが魅力的だ。

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実際に日本に住んでいると、なかなかピンと来ないかもしれない。しかし、これは世界的に見ても驚嘆に値する事実である。特に海外に行ったことがある人には、深く納得してもらえる話だと思う。

景観的な意味でこの「ごちゃ混ぜ感」を良しとするかどうかは別として、その成り立ちは日本の文化が古来から「調和」という考え方を非常に大切にしてきたことに由来するのではないだろうかと、僕はそう考えている。

日本人は一方的な主張を好まず、他者や自然との和を第一に考える民族性を持っている。インターネットが発展し、グローバル化が進む現代社会においても、「調和」とは薄れることのない日本人の血である。かつて日本人の手によって創作されてきた全てのものに、その血は深く根付いている。

僕が深く知るところでは、主に建築や絵画の方面の話だが、近代建築で常に重要なテーマとされる「自然との調和」は、日本で生まれ育まれた考え方だ。芸術は貴族のものとされてきた西洋の絵画の世界に、俗に言うポップカルチャーの世界観を持ち込んだのも、大衆芸術である日本の浮世絵だった。

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さて、つまるところ何が言いたいのかというと、ヒューマンドラマ、サスペンス、ファンタジー、コメディなど、ありとあらゆる要素を複雑に孕みながらも、「調和」によって一本の作品を成し遂げた『マジカル・ガール』は、極めて日本的だということ。

少々大げさな話になってしまったが、僕は日本の「調和」という考え方と、『マジカル・ガール』のごっちゃりとした感じに、奇妙な共通点を感じたのであった。日本人としては誇らしくもあり、恥ずかしくもある何とも複雑な思いだが、やはり日本人として、この映画の怪奇な空気に一度は触れておきたい思う。

-ミステリー・サスペンス, 洋画
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執筆者:


  1. 匿名 より:

    後半、マジックガールという記載になってますが
    正しくはマジカルガールですね

  2. 今川 幸緒 より:

    ご指摘ありがとうございます。

    訂正致しました。

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