映画を観る前に知っておきたいこと

マンチェスター・バイ・ザ・シー
故郷を愛せない全ての人へ

投稿日:2017年4月22日 更新日:

マンチェスター・バイ・ザ・シー

癒えない傷も、忘れられない痛みも。その心ごと、生きていく。

二度と戻ることはないと思っていた町。故郷マンチェスター・バイ・ザ・シーで、男は16歳の甥の面倒を見ながら過去の悲劇と向き合う。

かつて、マーティン・スコセッシ監督作品『ギャング・オブ・ニューヨーク』(12)の脚本を書いたケネス・ロナーガン監督が、2017年アカデミー賞で自身に脚本賞、ケイシー・アフレックには主演男優賞をもたらし、世界中で計107部門の映画賞を総なめにした珠玉の人間ドラマ。主人公の絶望と再生を、時折ユーモアを交えながら丁寧に紡ぎ出していく。

プロデューサーとして俳優のマット・デイモンが参加し、ケイシー・アフレック演じる主人公リーの元妻役でミシェル・ウィリアムズ、兄役でカイル・チャンドラーが共演する。


予告

あらすじ

アメリカのボストン郊外にある住宅街。短気な性格で血の気が多いリー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)は、アパートの便利屋として生計を立てていた。ある日、そんな彼の元に一本の電話が入る。それは、故郷マンチェスター・バイ・ザ・シーにいる兄のジョー(カイル・チャンドラー)が倒れたという突然の知らせだった。リーは車を飛ばすも、兄の死に目には会えなかった。

マンチェスター・バイ・ザ・シー

© 2016 K Films Manchester LLC.

冷たくなった遺体を抱き締め、兄と最後の別れを惜しんだリーは、医師や友人ジョージ(C・J・ウィルソン)と共に今後の相談をした。兄の息子、リーにとっては甥にあたるパトリック(ルーカス・ヘッジズ)にも父の死を知らせねばならない。ホッケーの練習試合をしているパトリックを迎えに行くため、リーは見知った町並みを横目に車を走らせる。彼の脳裏には故郷の美しい思い出の数々、仲間や家族と笑い合って過ごした日々が去来する。

マンチェスター・バイ・ザ・シー

© 2016 K Films Manchester LLC.

兄の遺言を聞くためパトリックと共に弁護士の元へ向かったリーは、そこで絶句する。兄がパトリックの後見人にリーを指名していたのだ。弁護士は、パトリックの母親が家を出ていったこともあり、リーにこの町に移り住んで欲しいことを告げる。しかし、彼は故郷マンチェスター・バイ・ザ・シーに、決して忘れ得ぬ辛い過去を残したままだった……


映画を観る前に知っておきたいこと

2017年のアカデミー作品賞に輝いたのは、同じインディーズ映画の『ムーンライト』(16)だった。人種差別というテーマが時代と合致していたこともあり、作品賞という結果にはどこか必然めいたものを感じさせた。

しかし、脚本賞を受賞したこの『マンチェスター・バイ・ザ・シー』という映画、時代性を抜きにすれば、『ムーンライト』にも決して劣らない人間ドラマだ。加えて、主人公リーを演じたケイシー・アフレックの主演男優賞。監督のケネス・ロナーガンは、一人の男が感じる故郷と人生に対する哀愁をまるで文学作品のように、その機微までも描き出す。

故郷を愛せない全ての人へ

マンチェスター・バイ・ザ・シー

© 2016 K Films Manchester LLC.

映画の舞台となったのは、ボストン北東の海岸部に位置する港町マンチェスター・バイ・ザ・シー。自然の景観が美しく、裕福なボストン人のリゾート地である一方で、ブルーカラーの労働者たちは休暇で訪れる人々をサポートしながら暮らしているという。外からやって来た者にとっては美しくても、そこで生まれ育った者には侘しさを残す。そんな人口わずか5136人の小さな町は、日本人が胸に抱く田舎の情景ともどこか重なり合う。

映画の冒頭から、心ここに在らずといった様子の主人公リー。彼は何か問題を抱えているのだと、誰もがすぐに気づく。なぜ彼は故郷に戻ることをためらうのか。物語が進むにつれて、その理由が明らかになっていく。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』は、一人の男の人生における苦悩を描くと同時に、故郷を愛せなくなってしまった男の物語でもあるのだ。

数年前、僕の兄は離婚をきっかけに地元を去った。リーと同じく、故郷が嫌な出来事を思い出させる場所になってしまったようだった。僕は兄の傷が癒えることを心から願ったが、そんな心配が逆に、兄自身が故郷を切り離せない理由になっているのかもしれない。それでも全てを投げ出さずにいられるのは、少なからず故郷に心配してくれる人がいるからだと信じたい。そして、リー・チャンドラーの飾り気のない再生物語は、それを信じさせてくれる。

僕自身は故郷で兄の帰りを待つ身だが、もし、いま生まれ育った地を踏みたくない理由があるなら、これほど心に迫る映画はないだろう。たった一つのことで人は簡単にふさぎ込んでしまうくせに、そこから一歩踏み出すのはいつも容易ではない。

-ヒューマンドラマ
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