映画を観る前に知っておきたいこと

【マルガリータで乾杯を!】繊細なタッチが問題作を感動作に変える

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マルガリータで乾杯を!

障害者の少女・ライラの成長と、それを支える母親の感動の物語。そんな難しいテーマに挑んだのは、インドの若手女性監督ショナリ・ボース。近年のインド映画は普遍的なメッセージで見る人の心に訴えかけるような作品が多くなっている。『きっとうまくいく』『マダム・イン・ニューヨーク』『めぐり逢わせのお弁当』に続く珠玉作がインド映画に加わった。

障害者の少女という難しい役を演じたのは、インド生まれインド育ちのフランス人女優カルキ・ケクラン。彼女の繊細な演技は、チャーミングかつ勇敢なヒロイン像を見事に表現し、第17回タリン・ブラックナイト映画祭で主演女優賞を獲得し、賞賛の嵐だった。

いつだって、抱きしめてくれた母。思いのままに、羽ばたく娘。全世界の母、娘に乾杯を­!彼女たちのまっすぐな姿は爽やかな涙を誘う。

  • 製作:2014年,インド
  • 日本公開:2015年10月24日
  • 上映時間:100分
  • 原題:『Margarita, with a Straw』

予告

あらすじ

生まれつき障害があって身体の不自由な19歳のライラ。彼女はそんな不遇をものともせず、作家になるという夢を抱いて大学に通っている。キラキラした瞳と魅力的な笑顔に、持ち前の明るさとチャレンジ精神で、大学の同級生たちが組んだインディーバンドの活動に携わったり、両親や弟と親友・ドゥルブに支えられながら青春を謳歌していた。バンドのボーカル・ニマに自作の詩を見せると「君の歌詞は天才だよ!」と言われ、舞い上がるライラ。そしてニマに密かに恋心を抱くようになる。

そんなある日、バンドはライラ作詞の曲を演奏しコンテストで優勝する。しかし、そこには落とし穴があった。障害者が作詞したから優勝を決めたという司会者の言葉に深く傷ついてしまうライラ。ニマは落ち込むライラに「みんな、君の味方さ」と優しい言葉を懸ける。ライラは自分の気持ちを伝えようとするが軽くあしらわれてしまう。彼の優しさに恋愛感情はないことを悟ってしまうのだった……マルガリータで乾杯を!それからふさぎ込んでしまったライラは、大学にも行かなかった。そんな時、ライラのもとへニューヨーク大学へ留学の話が舞い込んでくる。父親は反対したが、母親の後押しで留学を決意する。母と共に雪のニューヨークへやってきたライラは、新生活への期待に胸膨らませ一人で行動しようとする。母の心配をよそに、大学で出会った目の不自由な活動家の女性ハヌムの影響を受け、クラブで初めてお酒を飲んだり、母に内緒でiPadを買ったり、新生活をエンジョイしていた。新しい経験をし成長していく娘に戸惑う母は、恋愛や性に興味を持ち始めたライラと次第に距離が開いていく。自立する娘を心配しながらも、体調が優れない母はインドに帰国することを決意する。マルガリータで乾杯を!初めて母と離れたライラは、ハヌムと新生活をスタートさせる。ハヌムとの関係を母親に隠していることに後ろめたさを感じながらも、ライラは自分が同性愛者であること確信する。春休みにハヌムを連れてインドに帰省し、母親にそのことを伝えるのだった。マルガリータで乾杯を!母親の理解は得られず、落ち込むライラ。そんな時、母親が結腸ガンで余命が幾ばくもないことを知るのだった。ライラは母親の面倒を見るためインドに残ることを決意し、ハヌムとの別れが訪れる。その後、懸命な看病も虚しく母は息を引き取ってしまう。母の葬儀が終わってもインドに残ることを選んだライラの新しい生活がまた始まる……

映画を見る前に知っておきたいこと

女性ならではの繊細なタッチが問題作を感動作に変える

本作で扱うテーマは、タブーとも言える非常に繊細なものである。障害者をテーマとして扱うこと自体難しいはずだが、さらに恋愛や性というリアルな問題まで掘り下げ、そこに同性愛者というテーマを付け加えている。話だけだと、あたかも問題作であるかのようだが、本作は見る者を感動させ爽やかな涙を誘う。そこにあるのは普遍的なメッセージだ。なぜ本作が、タブーとも言えるテーマを扱いながら珠玉のドラマとして完成しているのかを考えると、ライラを演じた女優カルキ・ケクランと女性監督ショナリ・ボースの存在が大きい気がする。

女優カルキ・ケクランは本作の演技を見てもらえばわかると思うが、障害者の少女という難しい役を見事に演じ切っている。第17回タリン・ブラックナイト映画祭で主演女優賞を獲得し、賞賛の嵐だったというのも納得の素晴らしい演技だ。インドの国民的小説「デーヴダース」を大胆な現代版解釈で撮ったデビュー作『デーヴD』でも娼婦を演じフィルムフェア賞助演女優賞を獲得している。デビュー作から難しい役に挑み、その演技は高く評価されている。そんな女優カルキ・ケクランの繊細な演技だからこそ、タブーとも言える繊細なテーマをうまく表現できるのではないだろうか。

また、本作の脚本・監督を務めるショナリ・ボースが女性であることも重要だと思う。少女の恋愛や性は女性監督ならではの視点で描けるし、また母親の母性もそうだ。そして、障害者や同性愛というテーマを描くことに関しても女性ならではの繊細さがある。ショナリ・ボース監督が本作を撮るきっかけとなったのが、1歳年下の彼女の従妹マリニの存在だった。マリニは生まれながらに障害を抱えていた。そして、彼女はマリニの欲求が社会や家族や私自身によって押し殺されていたことに気付いたという。女性としてのマリニにいち早く気付いてあげれたのは彼女がまた女性であるからだと思う。マリニが自分のセクシャリティを探るためのに、ショナリ・ボース監督がしたことがこの作品を撮ることだった。

僕にとって女性監督の作品には共感しづらいものは多いが、独特の繊細なタッチには感心させられることも多い。

-ラブストーリー, 洋画, 青春
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