映画を観る前に知っておきたいこと

偉大なるマルグリット
実話を基にした笑いと涙の人生オペラ

投稿日:2016年1月31日 更新日:

偉大なるマルグリット

1920年フランス、歌姫マルグリットには本人だけが知らない秘密があった。それは、彼女が絶望的な音痴だということ。

彼女が夢見るリサイタルをなぜか応援する人、全力で止める人、もし彼女が真実を知ってしまったら……

アメリカに実在した誰が聴いても音痴なのに、誰からも愛されたという“耳”を疑うソプラノ歌手フローレンス・フォスター・ジェンキンス。彼女をモデルに、魅惑的な映画に仕立て上げたのはカンヌ国際映画祭やセザール賞の常連監督グザヴィエ・ジャノリ。

そして劇中の音痴な歌姫マルグリット夫人を演じたのは、日本でも大ヒットとなった『大統領の料理人』などでセザール賞6度のノミネートを誇るカトリーヌ・フロ。

純粋なまでの音楽への片想いは、時に残酷である。しかし、自分を信じて好きなことに没頭する姿は感動を呼ぶことだってある。そんな勇気をもらえる素敵な映画は、フランス国内で初登場1位となり、100万人を動員した。笑いと涙を届ける人生オペラが、ついに日本上陸する!

第72回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞ノミネート作品。

予告

あらすじ

1920年、フランス郊外にあるマルグリット・デュモン男爵夫人の邸宅ではサロン音楽会が華やかに開かれていた。招待客の貴族たちの中には辛口評論で有名な新聞記者ボーモンがいる。

偉大なるマルグリット

© 2015 – FIDELITE FILMS

サロン音楽会も佳境に近づき、いよいよ主役のマルグリット夫人の出番がやってきた。しかし、彼女が“夜の女王のアリア”を歌い出すと、ボーモンは唖然とした。そう、彼女は絶望的に音痴だったのだ。それでも招待客の貴族たちは社交辞令の拍手喝采を贈った。夫ジョルジュは、わざと遅れて帰宅する始末。

翌朝、ボーモンは新聞に「心をわし掴みにする声」と大絶賛の記事を載せた。歓喜したマルグリット夫人はボーモンにお礼を言うためにパリへと向かう。その記事はマルグリット夫人に近付くためにボーモンが書いたものだったが、彼女の奇跡的な無邪気さと大胆さに魅了されたのは嘘ではなかった。

偉大なるマルグリット

© 2015 – FIDELITE FILMS

一方、夫のジョルジュは妻の友人と浮気していた。愛する夫に理解されないマルグリット夫人には、歌と並ぶもう一つの生き甲斐があった。それは憧れのオペラのヒロインになりきった“撮影会”だ。そんな折、マルグリット夫人はボーモンから、パリで開く音楽会に出演しないかと誘われるのだった……

映画を見る前に知っておきたいこと

フランス国内で大ヒットとなったこの映画、監督であるグザヴィエ・ジャノリはフランスのアカデミー賞と言われるセザール賞をはじめ、カンヌ国際映画祭、ベネチア国際映画祭の常連なのだが……

グザヴィエ・ジャノリ監督

グザヴィエ・ジャノリ監督、実はすべてノミネート止まりという何とも言えないキャリアを誇るのである。本作でもヴェネチア国際映画祭金獅子賞を争ったが、前作『ある朝突然、スーパースター』(12)でも金獅子賞にノミネートされていた。さらには、カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルム・ドールにも『THE SINGER (QUAND J’ETAIS CHANTEUR)』(06)と『IN THE BEGINNING (A L’ORIGINE)』(09)で2度ノミネート止まり……

しかし受賞を逃してはいるものの、過去の監督作品10本で金獅子賞とパルム・ドールを合計4度も争ったというのは、それだけ素晴らしい映画を撮り続けている証拠でもある。この経歴、ビッグタイトルを1度受賞するよりもずっと難しいだろう。

セザール賞でもこれまでノミネートに留まってきたが、今回のフランスでの大ヒットを考えれば受賞はほぼ確実だろう。(その後、見事セザール賞で10冠を達成している!)

年齢的にもまだまだなので、今後世界三大映画祭での最高賞も十分狙える監督だ。

実際のフローレンス・フォスター・ジェンキンス

音楽的才能に全く恵まれなかったにも関わらず、その堂々として型破りな歌いっぶりで人気を博したアメリカのソプラノ歌手、フローレンス・フォスター・ジェンキンス。

彼女は資産家の父親からの遺産と、離婚した夫からの莫大な慰謝料にものを言わせて、41歳から本格的に音楽家としての人生をスタートさせた。マダム・フローレンスには音程もリズム感もなく、伴奏者が彼女の歌に合わせて演奏していたという。

しかしその歌声に最初はあっけにとられた人々も、いつのまにか自由で大らかな歌声に魅入られてしまっているのだ。彼女の最も大きな功績は、“音楽は楽しむものだ”という大前提を人々に伝えたことだ。

1944年に76歳でカーネギー・ホールの舞台に立った彼女は、聴衆が笑うのは自分の音楽を楽しんでいるからだと固く信じていた。

彼女の死後70年以上たつ今でも、CDで彼女の熱唱を楽しむことができる。

また彼女のもうひとつの魅力が拘りの衣装だ。時には、翼のついた金ぴか衣装で歌った彼女へのオマージュが、マルグリット夫人の衣装にも見て取れる。

映画は、そんなマダム・フローレンスの歌声を聴き、自信に満ち溢れたポートレートを見たグザヴィエ・ジャノリ監督が、その微笑の理由を想像しながら書きあげた全く新しい物語となっている。

フローレンス・フォスター・ジェンキンスの歌声

あとがき

今年、フローレンス・フォスター・ジェンキンスを題材にした映画がもう1本公開される。オスカーに3度輝いたメリル・ストリープと、イギリス・ロマンチック・コメディの帝王ヒュー・グラントの共演が実現した『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』だ。

この作品はより脚色が少なく、実話に近い仕上がりを見せている。

-ヒューマンドラマ, 洋画
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