映画を観る前に知っておきたいこと

ミッドナイト・スペシャル
解説/ニコルズの私的なメッセージ

ミッドナイト・スペシャル

この子は、違う

不思議な力を持つ幼い息子。父親はカルト教団やFBIから我が子を守りながら、息子の言葉が指し示すある場所を目指す。例え、それが何を意味するにせよ。

現在アメリカで最も熱い視線を注がれる若き才能、ジェフ・ニコルズが放つ70年代後期から80年代テイスト溢れるSFスリラー。真夜中にアメリカ南部の裏道を走る逃走劇と少年による未知との遭遇から、親子の普遍的な愛情を描き出す。

『未知との遭遇』(77)の主人公と同じ、ロイという名の父親役にマイケル・シャノン。また、同作でフランソワ・トリュフォーが演じたUFO学者クロード・ラコームを彷彿とさせるキャラクター、NSA(アメリカ国家安全保障局)のセビエをアダム・ドライバーが演じる他、ジョエル・エドガートン、キルステン・ダンスト、サム・シェパードらが共演する。


予告

あらすじ

暗い部屋の中、テレビから誘拐犯のニュースが流れる。指名手配された男の名はロイ・トムリン(マイケル・シャノン)。誘拐された8歳の男児はアルトン・マイヤー(ジェイデン・リーバハー)。その部屋にいるのは、今まさに報道された二人とロイの幼馴染ルーカス(ジョエル・エドガートン)だった。

ミッドナイト・スペシャル

© 2016 warner bros. entertainment, inc.

アルトンは不思議な力を持つことから、“牧場”と呼ばれるカルト教団の指導者カルヴィン(サム・シェパード)の養子にされ、それを実の父親であるロイが無理やり連れ出したのだ。教団にとって、アルトンの存在は神の啓示そのものだった。なんとかアルトンを取り返そうとする“牧場”からの追っ手に加え、FBIもこの誘拐事件を追う。

ミッドナイト・スペシャル

© 2016 warner bros. entertainment, inc.

かつてロイが“牧場”に属してしまって以来、疎遠になっていたルーカスも、アルトンの不思議な力を目の当たりにしたことから、ロイら親子の逃走に協力。日差しを浴びるとアルトンは目が激しく発光する謎の発作を起こすため、3人は真夜中に出発し昼間に眠りながら移動を繰り返す。アルトンの言葉が示す座標と日付を目標に、彼らはその場所へと向かうが……


解説

監督のジェフ・ニコルズが『MUD マッド』(13)に続き、映画の舞台に選んだのは、自身が生まれ育ったアメリカ南部の地。彼が子供(少年)の成長をモチーフに作品を描く時、それは重要な意味を持つ。

黒人や貧困層が多く暮らすアメリカ南部では、一見してリベラルな思想が求められそうなものだが、そこには貧困ゆえの政治に対する諦め、キリスト教的な清貧で実直な生活を旨とする伝統主義が静かに横たわる。中でも、『ミッドナイト・スペシャル』の舞台となったテキサス州は、“バイブル・ベルト(キリスト教の信仰が熱心なアメリカ中西部から南東部一帯)”のバックル部と呼ばれ、ひときわ保守的な文化が根づく土地柄である。そんなテキサス州を覆う南部独特の閉塞感が映画のテーマに深く関係している。

超人類的な少年アルトンは一体どこからやってきたのか?彼が本来在るべき世界とは?敢えて、SFスリラーとしてそれらの疑問に答えないこの映画は、アメリカ南部に生まれ、子を持つ父親となったニコルズの私的なメッセージを読み解くことで、そのおもしろさを増していく。

ニコルズの私的なメッセージ

ミッドナイト・スペシャル

© 2016 warner bros. entertainment, inc.

物語のカギを握る不思議な力を持つ少年アルトン。彼は軌道上の衛星を地上に落下させることもできれば、突然何かのメッセージを受信し、誰も聞いたことのない言葉で話し始める。そのアルトンが言うには、この世界の上には自分と同じような力を持つ人間たちが暮らすもう一つの世界が存在するのだという。そして、主人公である父親ロイは我が子の言葉を信仰するかの如く、全てを懸けて息子を本来在るべき世界へ送り届けようとする。

何かの確信を持って必然的に行動していく登場人物たち。ニコルズは多くを語らない一方で、物語にどこか宗教的な雰囲気を匂わすことでアメリカ南部の社会性を暗示していく。そして、映画のクライマックスに出現するもう一つの世界こそが、南部独特の閉塞感に対する自由の象徴である。なぜなら、その世界はアメリカ南部一帯でのみ姿を現すからだ。

突如現れた美しい建造物の数々は、一目でそれが高度な文明社会だと分かる。しかし、超人類が暮らすであろうその都市は、人間の生活空間の間を縫うようにして姿を現し、決して既存の世界を侵食しない。そう、アルトンが言うもう一つの世界とは、全く異なる世界ではなく、重なり合う世界なのである。2つの世界の在り方は、まるで同じ社会の中で暮らしながら、隔てられる親と子の感性のようではないだろうか。

ここで映画のタイトルの話を少し。『ミッドナイト・スペシャル』とは、かつてアメリカ南部に路線を有したガルフ・モービル・オハイオ鉄道の列車の名前であり、後にそれをモチーフにしたアメリカの有名な監獄ブルースのタイトルになっている。テキサス州のシュガーランド刑務所の黒人囚が、そこから見える列車ミッドナイト・スペシャルに自由への想いを馳せるという曲だ。

南部で生まれた自由を歌うこの曲を映画のタイトルにすることで、ニコルズもまた、かつて自分が感じた閉塞感といずれ向かい合わなければならない息子の姿に想いを馳せたのだろう。

そして、そんなニコルズの私的なメッセージの先に訪れる映画のラストシーン。父親の瞳のわずかな発光が父子の絆を物語った時、僕たちはいよいよもって、SFスリラーらしからぬ不思議な感動に包まれるのだ。

「親としての役目とは彼らが一体何者であるかを理解し、彼らが一体何者になるべきかを助けてあげようとすることです。それがこの映画で目指そうとしたものです。」

ジェフ・ニコルズ

出典:indietokyo.com

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