映画を観る前に知っておきたいこと

【パリ3区の遺産相続人】アカデミー賞俳優による人生の哀歓

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パリ3区の遺産相続人

パリの高級アパルトマンを父から相続し、それを売って人生をやり直すつもりだった男が、そこに住む老婦人と娘との出会いで人生を見つめ直していく人生の哀歓を描いたヒューマンドラマ。

キャストにはアカデミー賞俳優たちが顔を揃える。主演は『ワンダとダイヤと優しい奴ら』でアカデミー賞助演男優賞受賞を獲得したケヴィン・クライン。彼は映画だけでなく舞台でもトニー賞を2度受賞した演技派で、本作でもその細やかな感情表現は健在だ。老婦人役のマギー・スミスは『ミス・ブロディの青春』『カリフォルニア・スイート』で2度のアカデミー賞を獲得している。娘役を演じるクリスティン・スコット・トーマスは『イングリッシュ・ペイシェント』でアカデミー賞にノミネートされた。3人の息の合った演技が観客を物語に引き込んでいく。『いちご白書』の脚本で知られるイスラエル・ホロビッツの監督デビュー作。

  • 製作:2014年,イギリス・フランス・アメリカ合作
  • 日本公開:2015年11月14日
  • 上映時間:107分
  • 原題:『My Old Lady』

予告

あらすじ

疎遠になっていた父親を亡くしたマティアス・ゴールド(ケヴィン・クライン)は、ニューヨークからパリの旧市街・マレ地区までやって来た。そこにある父親から相続したアパルトマンを売却するため、下調べを始めたマティアスだった。彼はにとって、父親が遺してくれたそのアパルトマンは人生をやり直すチャンスだった。これまで3度の離婚を経験し、子供もなく、持ち家を処分して借金だけが残っていた。パリ3区の遺産相続人実際にアパルトマンを訪れたマティアスは、庭付きで、部屋も多く、高額で売れそうだと期待を高めていた。しかし、誰も住んでいないはずであったアパルトマンに、イギリス生まれの老婦人マティルド・ジラール(マギー・スミス)が暮らしていた。しかも、フランス伝統の不動産売買制度「ヴィアジェ」によってアパルトマンの元の持ち主である彼女が亡くなるまで売却が不可能なことを知る。さらに、その制度ではマティアスが毎月2,400ユーロを年金のように彼女に支払い続けなければならないという。嫌っていた父親が遺したのは負債だと知ると怒りが込み上げ、最後にまたしても裏切られたと感じるマティアスであった。パリ3区の遺産相続人持ち金もなく、ニューヨークに帰ることすらできなくなったマティアスは、仕方なくマティルドからアパルトマンの部屋を借りることにする。その夜、仕事から帰宅したマティルドの娘クロエ(クリスティン・スコット・トーマス)と鉢合わし、月末までにお金を支払わなければ不法侵入で訴えると脅される始末だった。クロエは母親の死後、アパルトマンが売却されて自分の住む場所がなくなることに不安を感じていた。しかしマティアスは、アパルトマンを「ヴィアジェ」込みで買い取りたいと申し出るビジネスマンのフランソワ・ロワと交渉するなど、売却の機会をうかがっていた。ロワがいずれはアパルトマンを取り壊し、近代的なホテル建設を考えていると反対するクロエは、「家族の歴史を残したい」とマティアスに告げる。パリ3区の遺産相続人そんなある日、当面のお金を稼ぐため部屋の中の売れそうな家具を物色していたマティアスは、一枚の写真を見つけるのだった。そこに写っていたのは、なんと父親とマティルドであった。しかも写真には「あなたに愛されないなら、誰の愛もいらない」と書かれていた。二人が恋人であったことを知ったマティアスは、マティルドに確認すると「あなたのお父様と愛し合っていたわ」と告白される。父親の長年に渡る裏切りにショックを受けるマティアス。それには理由があった。マティアスには、母親が目の前で自殺した過去があったのだ。それを知ったクロエも、母親が別の男性を愛していることに10才で気付き、ずっと傷ついてきたと話す。そして、自分も英語学校で教えている妻子持ちの男と不倫関係を続けてきたことで母親と同じだと悩んでいたと告げる。二人は抱えて来た心の傷を共感し、その夜結ばれる……パリ3区の遺産相続人一方マティルドは、病死だと聞かされていたマティアスの母親の死の理由を初めて知るのだった。アパルトマンの売買契約期限が近づく中、マティアスとクロエの恋の行方は?3人は見出したマティアスの亡き父親が本当に遺したかったものとは?

映画を見る前に知っておきたいこと

パリ・マレ地区、歴史を感じさせる街並が物語を彩る

本作の監督を務めたのは、カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した『いちご白書』始め、『さらば青春の日』『太陽の雫』などの脚本を手掛たイスラエル・ホロヴィッツ。また彼は舞台の脚本家であり、70以上の作品を手掛け、世界30ケ国で翻訳、上演されてきた。もともとそんなホロヴィッツのオリジナル舞台作品であった本作を彼が初の監督作として自身で映画を撮った。

この舞台はニューヨークで初公演された後、フランスで大ヒットし、世界各国でも上演された。そんな舞台を実際のパリの街で再現したことによって、物語は舞台以上の彩りを見せる。17世紀の面影を多く残し、歴史を感じさせるパリ・マレ地区の街並は、現在と過去が交差する物語を象徴する絵になっているのだ。

ヴィアジェ(viager)とは?

本作の物語の中核を担う設定がフランス伝統の不動産売買制度「ヴィアジェ」だ。この制度は200年以上も前から存在する。

これは、アパルトマンや持ち家などの物件を相続する人がいない独り身の老人が、売却後もそこに住む権利が与えられるというものだ。なので買い手はすぐに住むことができない。いつ住めるかわからないので当然、売り手が若いと買い手が付かないという面もある。ちなみにフランスの平均寿命は女性85歳、男性が78.7歳と長寿だ。日本ほどではないが、高齢化を抱える国である。べつに「ヴィアジェ」は高齢化社会に合わせて作られた制度ではないが、逆に高齢化が進むことで注目されてきた制度ではある。

もちろんこの制度にも良い面がある。それは、買い手にとって通常より安く手に入ること。また、売り手は死ぬまで自分の家に住めること。

「ヴィアジェ」には終身年金という意味もあり、買い手は前金を支払った後、売り手が死ぬまで一定金額を払い続けなければならない。これはメリット、デメリットの両方があり、売り手の寿命によって物件が相場より安くなったり高くなったりするのだ。この点においてはギャンブル性の高い制度であり、あらぬ事件も起こりそうな気もするが。また中には、売り手が122歳まで生きたことで買い手が先に死んでしまうという例もあった。

僕はこの「ヴィアジェ」という制度は、人が死ぬのを待つようであまり好きになれない。もちろんそんな人ばかりではないだろうが、やはり人間はお金が絡むとそういう黒い部分が見え隠れするので、それを浮き彫りにしてしまうような制度はどうかと思ってしまう。そういう意味でも監督のイスラエル・ホロヴィッツの脚本は素晴らしいと思う。この制度を希望の物語にしてしまうのだから。本作は、「ヴィアジェ」のイメージを良くする社会的映画の側面もある気がする。

-ヒューマンドラマ, 洋画

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