映画を観る前に知っておきたいこと

西島秀俊の演技
そのストイックな姿勢に迫る!

投稿日:2015年11月4日 更新日:

西島秀俊

いよいよ公開間近となった『劇場版 MOZU』はこれまでの連続テレビドラマシリーズ「Season1〜百舌の叫ぶ夜〜」「Season2〜幻の翼〜」の完結編となっており、そのスケールも映画ならではの壮大なものとなった。そこで主演の西島秀俊を中心に映画の見所をひも解いてみたい。まずは、日本では絶対に撮影できない過激なアクションシーンのため敢行された過酷なフィリピンロケや、ダルマ役として共演したビートたけしへの思いなどを語ったインタビューからどうぞ。

西島秀俊インタビュー

ー主人公の倉木をどのような人物と捉えて演じたのか?

西島「倉木は人として頭がいいとか正しいという人間ではないと思います。なのでただ一人の男が何か一つのことに固執して、戦い続けている役なんじゃないかと思っていますし、そこはドラマから何も変わっていないところです。今回の劇場版は、そこにダルマという最強の敵が現れるという展開です。日本の裏世界のトップに、いち警察官が向かっていく。ある大義を支えるために、個人が犠牲にならなければならないというなかで、ごく個人的な理由で立ち向かっていくのが倉木らしいし、変わらない男の魅力がありますよね。」

ーアクションシーンにはどのような思いで挑んだのか?

西島「MOZUは肉体的にも精神的にも、誰が一番強いかという物語でもあったと思います。倉木はその強さのランキングでいうと結構低いんです。だから大体ボロボロになっていて(笑)。それでも色んなことを執念で凌駕していくのがおもしろいですね。」

ー共演者について

西島「今回は、特に敵役の方たちが魅力的で、楽しそうに演じられていたのが印象的です。一方で、僕と香川さん、真木さんは苦しい役どころで、精神的にも追い込まれていった感じがありました。お二人はシリーズ全体を通して、本作の人間ドラマの軸の部分を演じてらっしゃったので、本当に感謝しています。」

ーダルマを演じたビートたけしとの共演について

西島「北野さんの撮影は夜中の2時過ぎまで及んだんですが、本当に楽しそうなんです。現場ではずっと集中されていて、北野さんが劇中でされるアクションがあるんですが、それをずっと練習されていました。本当に映画の現場に愛情がある方なんだと、ただただ感動しました。僕は以前出演させて頂いた北野監督の『Dolls』(02)以前から北野さんのファンでしたし、恩人であり、一言では言い表せないぐらい感謝している方です。なので今回ご一緒した際には緊張しましたし、僕にとって大事な時間を過ごさせて頂いたと思っています。」

ー過酷なフィリピンロケの感想は?

西島「フィリピンでは、今回はかなり危険な場所でのロケが多かったんですけど、実際に行ってみると地元の方たちが協力的で、子供たちも温かく、一緒に撮影を楽しんでくれる状況がありました。大規模な爆破やカーチェイスなどもありましたが、日本のスタントチームとフィリピンの撮影チームが合同で取り組んでいて。特に街中での爆破シーンには驚きました。羽住組の皆はそういったシーンでもギリギリの判断を最後まで間違えず行っていきます。それを日本だけでなく言葉が違って混乱し易い海外の撮影で両国のスタッフが実践していたのを見て、撮影の中でお互いに信頼感を築き上げているのを感じました。」

ースペシャルドラマ「ダブルフェイス」からタッグを組む羽住英一郎監督について

西島「羽住監督はアクションからコメディまで色々撮られていますが、やりたい作品は溢れる程ある方だなと思います。僕自身は今回、監督からとにかく“振り切れ”と言われていて。羽住組という情熱とエネルギーに溢れた組の一員として携われたことは本当に嬉しく思います。でも、監督にはまだまだ足りないと思われているだろうし、次ご一緒する時は、僕自身がレベルアップしてないとついていけないだろうなと思っています。」

ーこれまでのMOZUシリーズを振り返ってみて

西島「今も僕はドラマ版MOZUを時々見返すんですが、僕たちが作った作品ながら、その映像に毎回衝撃を受けています。そして見て頂いた方たちへの感謝はもちろん、作品をオンエアまでこぎ着けた人たちが情熱を傾け、リスクを背負い、そこまで持っていったからこその力を感じます。このような作品に参加できたのは本当に大きな体験でした。今後も自分の俳優人生の中で、挑戦や冒険を続けていきたいなと思えたし、そういう挑み続けている作り手たちと組んで、勝ったり負けたり、泣いたり笑ったりしながら役者をやっていきたい。そんなことを心から思えた作品になりました。」

出典:TBS×WOWOW「MOZUオフィシャルガイドブック」36頁(2014年 集英社)

西島秀俊の演技

そのストイックさ

MOZUの共演者たちが口を揃えて西島秀俊の演技や映画に対する姿勢を絶賛する。大杉役の香川照之は西島のアクションシーンを見て、大変なことをやるということを踏んできた役者だと、その努力とストイックさを評価する。また明星役の真木よう子は、どんな役もこなす西島の器用さに驚いていた。

そして、何と言っても西島の恩人であるビートたけしの西島に対する評価は印象的だった。2002年の『Dolls』でまだ無名だった西島を主演に起用したビートたけしは、西島の演技を誰よりも長く見てきた。その上で西島のことを、「まあまあ日本を代表する役者になった」とその成長を喜んでいた。しかし、その反面で西島のさらなる飛躍を期待するたけしは、「演技は完璧に近くなってきているから徹底的にバラせ(崩せ)」と西島の足りない部分も指摘していた。これはどういうことかというと、うまいだけの演技には面白味がないという、いかにもたけしらしい役者論だ。たけしは、これを落語に例えて話していた。うまいと言われるまで徹底的に稽古して「むちゃくちゃだな、この落語」と言われるのが一番だと。だから壊す稽古も徹底的にやるのだと語っていた。

この話を聞いたとき、やっぱりたけしは西島のことをよく解っていると感じた。西島はとにかくストイックな性格で、オフでも常に演技のことを考えているような男だ。その努力があって、どんな役でも器用にこなす演技力が身に付いたのだろうが、観客をハラハラさせるような演技とは遠ざかってしまっている。見る方からしたら、そういう演技の方が飽きないのは確かにその通りだと思う。しかし、西島本人は演技をなかなか崩せないのには理由があると言う。それは『Dolls』の時に、たけしが西島に対して言ったことが原因となっている。

「君が1個役を得たとしたら、そのひとつの役で何百人何千人の役者が新しい人生を踏み出せたはずで、君はその1個をやってる。それはどの役でもそうなんだ。」

北野武

このたけしの言葉はずっと西島の中に残っていたらしく、それからどんな役をもらってもやりたい人はいくらでもいるんだから全力でやらなければならないと思うようになった。だから演技を崩せと言われても、なかなかそれができないのはたけしのせいでもあるようだ。

さて、ここからは勝手な意見を書かせてもらうが、僕は西島秀俊の演技がうまいとは思っていない。実際、西島本人もよく下手だと言われるらしい。それもなんとなくわかるのだが、よく共演する香川照之と比べても、あまり感情表現が豊かでなく、セリフもどことなし棒読みな感じがしてしまう。これまでのキャリアで多彩な役柄をこなしていることから、その役作りに対するストイックさに関しては異論はない。しかし、器用というのとは少し違う気がしている。あの体を見ても普通に役者が鍛えているというレベルではない努力を感じるが、その真面目さゆえどんな役にもハマるという感じはない。あんなに鍛えたら普通の役は難しいだろう。僕は西島秀俊という男は、実は凄く不器用な人なのではないかと思っている。だからどんな役に対しても役作りを徹底的にするのではないだろうか。

西島秀俊

© NHK大河ドラマ「八重の桜」より

言い忘れたが、僕は西島秀俊という役者が大好きだ。演技がうまいとは思っていないとは言ったが、下手とも思っていない。ただ、ハマり役がある役者だとは思っている。「流星ワゴン」のような42歳の普通の男よりは、「ダブルフェイス」の潜入捜査官・森屋純(ほとんどヤクザものの役だが)のような悪い男を演じた時に西島秀俊は存在感を増す。あの格闘家のような体や、抑揚のない喋り方は、西島秀俊が役者人生の中で辿り着いた一つの答えだと思うので、それを活かせる役を演じてほしい。ハマり役が別れる反面、日本人にはなかなかいないタイプの役者ではないだろうか。

ビートたけしがMOZUに出演を決めた理由は、自分の好きなアメリカのサスペンスドラマに似た展開でおもしろいと思ったからだと語っている。またMOZUの“物語の始まりから、どこまで進めばその真実の全貌をつかめるのか、想像もつかないような巨大な謎が横たわっている”という手法は「ツイン・ピークス」「LOST」といった海外ドラマの主流のスタイルでもある。他の日本のドラマとは一線を画すMOZUだからこそ、倉木のようなクールな役を演じた時の西島秀俊は、たまらない。「Season1〜百舌の叫ぶ夜〜」では倉木が肉体を鍛え上げるシーンがあるが、そこには真実に辿り着くためだけに生きる獣に変身していく孤独な男の危うい色気がある。

ダブルフェイス ~潜入捜査編・偽装警察編~

西島秀俊という男

プライベートでは2014年12月に結婚したことが話題となった西島秀俊だが、それ以上に結婚相手に求める条件が厳し過ぎることが話題となっていた。

  • 仕事のワガママは許すこと
  • 映画観賞についてこない
  • 目標を持ち、一生懸命な女性
  • “いつも一緒”を求めない
  • 女の心情の理解を求めない
  • メール返信がなくてもOK
  • 1カ月半会話なしでも我慢すること

亭主関白を思わせるようなこれらの条件も、とにかく仕事第一という印象を受けた。実際は「女の人のことは無条件で尊敬します」「女性に世間体とか常識にとらわれず、自由に素直に生きてほしい」と語っており、亭主関白だとか言う話ではないのだ。「まだ家族を持つという実感はありません。でも、プライベートでいろいろ実感することが、人間の深みにつながって、演技にいい影響を与えてくれたらいいな」と結婚すらも演技の肥やしにする相変わらずの徹底ぶりだ。また、仕事がない時は年間300本以上の映画を見て演技を追求するなど、オフでも映画館とジムを往復するような生活を送っている。どう考えても不器用な男だと思うのだが、とにかくこのストイックさが大好きだ。

撮影の合間の話やテレビ出演を見ても、役とは違い普段はよく笑う明るい性格のようだが、どうしてもこの徹底的にストイックな感じが倉木のような役のイメージとぴったり重なってしまう。もちろん倉木のような男が現実にはいないのはわかるが、倉木の真実に辿り着くためだけに生きる姿と、西島秀俊の演技のことだけ考えて生きる姿がリンクする。もはや倉木が好きなのか、西島秀俊が好きなのかよくわからないが、こうした男性像は僕の中のヒーロー像と一致する。

-コラム

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