映画を観る前に知っておきたいこと

【光のノスタルジア】“生と死”を追求する哲学的ドキュメンタリー

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南米・チリのドキュメンタリー映画の巨匠パトリシオ・グスマン監督による『光のノスタルジア』『真珠のボタン』の2部作を一挙公開!

『光のノスタルジア』は世界中から天文学者たちが集まり遠い光が照らす過去の記憶を辿る一方、ピノチェト独裁政権下で政治犯として捕らわれた人々の遺体が埋まっている場所でもあるチリ・アタカマ砂漠を映し出すドキュメンタリー。天と地の時間が交錯し、そこから最も近い過去(ピノチェト独裁政権下で殺された犠牲者たちの歴史)に起こった謎に迫る。2011年山形国際ドキュメンタリー映画祭で「光、ノスタルジア」のタイトルで上映され最優秀賞を受賞した。

真珠のボタン』は祖国チリがたどってきた苦難の歴史を大自然の圧倒的な映像美とともに描き、2015年ベルリン国際映画祭で銀熊賞(脚本賞)を受賞したドキュメンタリー。チリの西パタゴニアの海底で発見された真珠のボタンから、先住民大量虐殺やピノチェト独裁政権下で殺された犠牲者たちの歴史を紐解く。

パトリシオ・グスマン監督の鮮烈な映像美で問い掛けるドキュメンタリー2部作は、人間の暴力や支配への欲望に対して人類が忘れている未来への希望を思い出させてくれる。

  • 製作:2010年,フランス・ドイツ・チリ合作
  • 日本公開:2015年10月10日
  • 上映時間:90分
  • 原題:『Nostalgia de la luz』

予告

あらすじ

チリ・アタカマ砂漠。標高3,000メートルの高地、空気も乾燥しているため天文観測拠点として世界中から天文学者たちが集まってくる。その一方で政治犯として捕らわれた人々の遺体が埋まるピノチェト独裁政権下の弾圧の地でもあった。光のノスタルジア生命の起源を求め天文学者たちが遠い銀河を探索するかたわらで、行方不明になった肉親の遺骨を捜し、砂漠を掘り返す女性たち。光のノスタルジア永遠とも思われるような天文学上の時間と、独裁政権下で愛する者を失った遺族たちの止まってしまった時間、天と地の2つの時間が交差する……

映画を見る前に知っておきたいこと

“生と死”を追求する哲学的ドキュメンタリー

同時公開である『真珠のボタン』でも同じことを書いたが、『光のノスタルジア』も哲学的なドキュメンタリーだ。天と地の時間が交錯から“最も近い過去(ピノチェト独裁政権下で殺された犠牲者たちの歴史)”を紐解いていく。本作もピノチェト独裁政権下で殺された犠牲者たちの歴史に焦点を当てたドキュメンタリーというよりは、人間の根源に迫っているように思う。星からの光は何十万年もかかって僕たちのもとに到達する。現在、そして未来をより理解するために、過去を見ているという事実から“最も近い過去”を見つめる。それは人間の愚かさを映すと同時に、人類が忘れた未来への希望も思い出させてくれる。

チリが今再び民主主義を経験しようとしている中で、過去のピノチェト独裁政権下は確かな記憶である。そして確かな記憶だけが、不確かな未来を照らす光となるのだ。それはこれから未来を生きる人々の生と、過去の過ちによって殺された犠牲者の死、人間の根源である“生と死”を追求しているとも言える。

同じように哲学的なドキュメンタリーであっても『真珠のボタン』とは、追求するものが違っているように感じた。『真珠のボタン』では、人間の在り方を追求し、『光のノスタルジア』では“生と死”により焦点を当てているように思えた。

ドキュメンタリーで哲学的なテーマを描くことに、改めてチリの巨匠パトリシオ・グスマン監督の凄さを感じた。映画に対する視野を広げてくれる作品との出会いには感謝したい。せっかくの同時公開なので、できれば2部作両方とも見てもらえたらうれしい。

  • アタカマ砂漠
    塩と風から成る、時のない広大なアタカマ砂漠。火星によく似た風景が広がっている。動くものはなにもない。だが神秘的な過去の痕跡に満ちている。2000年以上前の村の廃墟があり、19世紀の鉱夫たちがそのままにした列車が、砂の中に打ち捨てられている。空から落下した宇宙船のようなドーム型の建物には、天文学者たちが滞在する。あちこちに遺体が埋もれ、夜には眩い銀河が砂の上に影を落とす。
  • 見えない現在
    天文学者にとって、現在とは過去から届けられるものだ。星からの光は何十万年もかかってわれわれに到達する。それゆえ、天文学者たちが見ているのは、過去である。これは歴史学者、考古学者、地理学者、古生物学者、そして行方不明の肉親を探す女たちにとっても同じことだ。彼らは共通点を持っている。現在、そして未来をより理解するために、過去を見ているのだ。不確かな未来の前では、過去だけが私たちを照らす光となる。
  • 見えない記憶
    記憶は私たちの生を保障する。太陽の暖かさのように。人間は記憶なしには存在できない――脈打たず、始まりも未来もない。18年にわたる独裁政権の後で、チリは今ふたたび民主主義を経験しようとしている。しかし、代償は大きかった。多くの者が友人、肉親、家、学校、大学を失った。そして多くの者が、永遠に記憶を失ったのだ。

-ドキュメンタリー, 洋画

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