映画を観る前に知っておきたいこと

【アンジェリカの微笑み】日本公開を待ち望まれた幻の最高傑作

投稿日:2015年11月14日 更新日:

アンジェリカの微笑み

死んだ女性の写真を撮ってからというもの、身の回りで不思議な出来事が繰り返し起こり、次第に彼女との愛に没頭していくユダヤ人青年の物語。

2015年4月に106歳で亡くなるまで、世界最高齢の映画監督として知られたマノエル・ド・オリヴェイラ監督が101歳の時の作品だ。

主演のユダヤ人青年をイザクを監督の実の孫であるリカルド・トレパが演じる。彼はオリヴェイラ監督作品の常連でもある。

ヒロインとなるアンジェリカ役に『女王フアナ』『シルビアのいる街で』のピラール・ロペス・デ・アジャラ。


  • 製作:2010年,ポルトガル・スペイン・フランス・ブラジル合作
  • 日本公開:2015年12月5日
  • 上映時間:97分
  • 原題:『O Estranho Caso de Angelica』

予告

あらすじ

ある写真家の青年

ある雨の夜、町で唯一の写真店にある男がやって来た。男は、富豪の邸宅“ポルタシュ館”の執事だ。急ぎの写真撮影をして欲しいと頼み込んでいるが、店主は明日まで不在だと知らされ途方に暮れていた。

その様子を見ていた通りがかりの男が、執事に別の写真家を紹介する。

写真家の名前はイザク。石油関係の仕事に従事していて、写真は趣味で撮っている。最近町にやってきたセファルディム(15世紀頃に南欧諸国に移住してきたユダヤ人たち)らしい。

話を聞いた執事は、早速そのイザクの下宿に向かった。

依頼の内容は、若くして死んだ娘・アンジェリカの写真を撮って欲しいというものだった。死者を撮ることに気が乗りしなかったイザクだったが、下宿屋の女主人に勧められ、しぶしぶ請け負うことに。アンジェリカの微笑み執事の男に同行し、山手にあるポルタシュ館を訪れた。

アンジェリカ

アンジェリカは、案内された部屋の中央に白い死に装束をまとい横たわっていた。イザクは彼女の母親に促されカメラを向ける。

ファイダーを除き、ピントを合わせた瞬間、なんとアンジェリカが目を開き彼に微笑みかけた。アンジェリカの微笑み驚きのあまり思わず後退るが、そんなはずはない。イザクは気を取り直して撮影を済ませ、ポルタシュ館を後にする。

次の日の朝、イザクは撮った写真を現像していた。現像した写真にふと目をやると。その中の一枚に移ったアンジェリカが、再び彼に微笑みかける。アンジェリカの微笑み気のせいだ・・・。

その日、イザクは朝食もとらずに農夫たちの写真を撮りに出かけた。教会では、アンジェリカの葬儀が厳かに執り行われていた。アンジェリカの微笑み夜、ベッドに横になっていたイザクは、ふと起き上がりアンジェリカの写真を手に取る。すると、突然バルコニーに彼女が現れた。

二人は抱き合ったまま宙に浮き上がり、町の景観を見下ろしながら夜空へと昇っていく。アンジェリカの微笑み

「アンジェリカ!」

イザクは、ベッドの上で飛び起きた。「これは幻なのか?いや、まるで現実だった。これが話に聞く絶対愛というやつか?」

アンジェリカに没頭していくイザク

イザクの頭の中は、アンジェリカのことで一杯だった。下宿屋の食堂で客たちの会話の中から「エネルギー」「魂」という単語を小耳に挟んだイザクは、思い当たったように呟く。

「アンジェリカ・・・」

その数日後、イザクの部屋に一羽の小鳥が迷い込んできた。小鳥が出て行ったと思ったら、入れ違いにまたもアンジェリカが現れる。

その朝、下宿屋の食堂に置かれていた鳥かごの小鳥が死んだことを知ったイザクは、狂った様子で外へ飛び出していく・・・。


映画を見る前に知っておきたいこと

監督マノエル・ド・オリヴェイラと『アンジェリカの微笑み』

マノエル・ド・オリヴェイラ
2015年4月2日に亡くなるまでは、世界最高齢の監督であった。本作は2010年の製作で同監督の4本前、101歳の時の作品である。

101歳という高齢を考えれば「死」と「愛」というテーマを選んで作品をとることは自然なことなのかと思いきや、本作の脚本はマノエル監督が1952年に書き上げたものだという。

執筆された当初は第二次世界大戦におけるホロコーストの記憶が生々しく残され、ナチス・ドイツの迫害を逃れてポルトガルに移り住んだユダヤ青年である主人公のアイデンティティが強調されていた。

公式サイトより

とあるように、50年以上の時を経て作品が完成するまでにはずいぶんと紆余曲折があったようだ。

当時はまだ戦争の傷跡も癒えぬ時代だったこともあり、半世紀前のオリヴェイラが戦争の傷をテーマに脚本を描いたのは納得のいく話である。

しかし、なぜその脚本を半世紀以上たった今になって映画化しようと思ったのか。今となっては知る由もないが、彼の半生を思うと“熟成されたヴィンテージワインのような映画”という公式サイトの一文にも感じ入るものがある。

1952年というと、オリヴェイラ監督がまだ評価を受ける前のことである。

彼は若くして監督としてのキャリアをスタートさせたが、評価を受けたのは60歳を越えてから。定期的に作品を発表し始めたのは1980年代に入り70歳を越えてからのことだ。

60歳になるまでなかなか評価を得られなかったことに加え、撮った映画が原因で政府反逆罪に問われ投獄されたり、多額の借金を背負ったりと、まさしく波乱万丈の人生を過ごした。

『アンジェリカの微笑み』はそんな彼の作品の中でも幻の最高傑作と呼ばれ、日本の映画ファンの間で長い間公開が待ち望まれていた作品でもある。

この映画の切り口

この作品の面白いところは、生と死を超えた愛の物語のようでもあり、怪談のようでもあり、魂の深い部分を探る哲学の様でもあり、死した女性を愛する男は滑稽にも見え、頭がおかしくなったと恐怖と不安の対象にもにも見え、世紀の純愛の体現者のようにも見える。

テーマという観点から見れば、本当にさまざまな要素が混沌としていて、どういう映画なのかと言われると返答に困ってしまうところだ。

「世にも美しい愛の幻想譚」というのがこの映画のキャッチコピーだが、それがこの映画を全てを一言で言い表せているとはとても思えない。

しかし、この映画を見た人は皆一様に“美しい”という言葉を使い賞賛する。こんな混沌とした脚本をユーモアやホラーの要素も感じさせながら、美しさの一点で纏め上げたバランス感覚はさすが。

この映画からは、見る度に何度でも新しい切り口が見つかるスルメ映画の匂いがする。

-ラブストーリー, 洋画

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