たちきれぬ過去の想いに濡れながら、愛を求める永遠のさすらい………その姿は男と女ー
まだカンヌ国際映画祭最高賞がパルム・ドールではなく、グランプリと呼ばれていた1966年に、その栄冠を手にしたフランスが誇るラブストーリー不滅の名作『男と女』。あれから50年、待望のデジタル・リマスター版でスクリーンに蘇る。
この映画はフランスの名匠クロード・ルルーシュ監督と、盟友であるアカデミー賞作曲家フランシス・レイの二人が世界にその名を知らしめることとなった作品である。
ダバダバダ〜♪のスキャットが全編に流れる主題歌はあまりにも有名で、これを聴いただけで恋愛映画のクラシックとされる理由がわかるような気がしてくる。
Contents
- 1 予告
- 2 あらすじ
- 3
映画を観る前に知っておきたいこと
- 3.1 名匠クロード・ルルーシュ監督
- 3.2 盟友フランシス・レイ
- 3.3 映画ファンに稀な幸運を……
- 4 あとがき
予告
あらすじ
数年前、スタントマンだった夫ピエールを事故で亡くしパリで独り暮しをするアンヌ(アヌーク・エーメ)。映画製作のスタッフとして働きながら、週末にドービルの寄宿学校に預けた娘と会えるのを楽しみにしていた。
© 1966 Les Films 13
その日曜日は、娘との面会でつい長居をしてしまったアンヌ。パリ行きの汽車に乗り遅れた彼女に話しかけたのは、同じ寄宿学校に息子を預けるジャン・ルイ(ジャン・ルイ・トランティニャン)だった。
© 1966 Les Films 13
彼の車でパリまで送ってもらうことになったアンヌは、車中で夫のことばかり話し続けた。彼女のその姿からは夫が死んでいるなどとは、とてもジャン・ルイには考えられなかった。またレーサーであるジャン・ルイも、数年前に起こしたレース中の事故が原因で妻が自殺していた。
二人の別れ際、アンヌは夫を亡くしていることをジャン・ルイに打ち明けた。そして、週末ドービルへ一緒に行く約束を交わす……
ジャン・ルイは自身のモンテカルロ・ラリーに向けた調整を行いながら、その合間にアンヌに電話した。二人は次の週末、一緒にドービルへ行き、子供たちと楽しい時間を過ごしていた。
寄宿学校に子供たちを送った帰り、ジャン・ルイはアンヌの手を握った。その時、アンヌは初めて「奥さんの話を聞かせて欲しい」と彼に言った……
Sponsored Link映画を観る前に知っておきたいこと
映画ファンにとって本当に嬉しいリバイバル上映ではないでしょうか。この映画のために劇場に足を運ぶ人の多くはクロード・ルルーシュ監督のファンかもしれません。ただ、何も知らない人にも観てもらいたい映画です。偶然このリバイバル上映に出会った人のために、ルルーシュ監督や盟友フランシス・レイについて紹介しておきます。
『男と女』をスクリーンで体験できるのはとても貴重な機会なので、近くの劇場で上映されていたらそれは幸運なことだと思います。
名匠クロード・ルルーシュ監督
フランスの名匠クロード・ルルーシュ監督、彼の恋愛映画はまさにクラシックと呼ぶに相応しい。
しかし、そんなルルーシュ監督も長編デビュー作『Le propre de l’homme』(60)では「クロード・ルルーシュという名を覚えておくといい。もう二度と聞くことはないだろうから」と評論家から酷評を受けた。
出世作となった『男と女』(66)は彼がまだ無名だったため自主制作を余儀なくされたが、1966年カンヌ国際映画祭でグランプリ(当時の最高賞)を、勢いそのままに1967年アカデミー賞外国語映画賞と脚本賞も受賞した。今ではフランス恋愛映画の金字塔と言われるまでになった。
そこには流麗なカメラワーク、カラーとモノクロームを使い分けた大胆なモンタージュ、そして甘美なメロディと運命の出会い、まさにスタイリッシュな恋愛映画としての多くがあった。
しかし、そんな成功からわずか2年後の1968年に発表した『白い恋人たち』で五月革命の影響をもろに受けてしまう。
この映画は、1968年にフランスのグルノーブルで行われた第10回冬季オリンピックの記録映画であり、ド・ゴール政権下にあった当時のフランスにおいて権威主義的と見なされた。
第二次世界大戦、ドイツ軍のフランス侵攻によるパリ陥落後に亡命先のロンドンで亡命政府”自由フランス”を樹立し、レジスタンスと共に大戦を戦い抜いたド・ゴールは、そのまま戦後のフランス大統領となった。独裁的で強権的な指導者として知られる。五月革命は、そんな当時の権威主義的な社会に対する民衆の反体制運動である。
『白い恋人たち』に政治的な意図はなく、芸術的にオリンピックを映し出そうとした作品だったが、当時の評論家の多くが五月革命の支持者だったためルルーシュ監督は”体制派”というレッテルを貼られてしまう。
結局『白い恋人たち』が出品されるはずだった1968年のカンヌ国際映画祭も五月革命により中止され、以来ルルーシュ監督は正当な評価を受けられない時期が続くこととなる。
名匠として知られる一方で、受難の時代を歩んできたルルーシュ監督は、恋愛映画のたった2時間で人の感情を変えることができると本気で信じている。悪いニュースが良いニュースを凌駕している世界すら愛するためのポジティブな感情をもたらすのだと。
それは1966年から変わらない彼のスタイルでもある。
『白い恋人たち』は40年後となる2008年、第61回カンヌ国際映画祭クラシック部門のオープニング作品として上映された。
「『男と女』が私に平凡な映画をつくるべからずとの方向を示しました。今でも常に『男と女』のことを思って、スタジオに入っています。」
クロード・ルルーシュ監督
「愛は人間にとって、一番の関心事だ。ラブストーリーほど満足感を味わえるものはないと同時に不快なものもない。つまり愛というのは混沌としたものであるがゆえに、驚くべき展開となる可能性があるんだ。」
クロード・ルルーシュ監督 インタビュー
クロード・ルルーシュ監督受賞歴
- 第19回カンヌ国際映画祭 グランプリ・国際カトリック映画事務局賞・フランス映画高等技術委員会賞 『男と女』(66)
- 第39回アカデミー賞 外国語映画賞・脚本賞 『男と女』(66)
- 第24回ゴールデングローブ賞 外国語映画賞 『男と女』(66)
- ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞 外国語映画賞 『流れ者』(70)
- 第48回アカデミー賞 脚本賞ノミネート 『マイ・ラブ』(74)
- ロサンゼルス映画批評家協会賞 外国語映画賞 『マイ・ラブ』(74)
- 第34回カンヌ国際映画祭 フランス映画高等技術委員会グランプリ 『愛と哀しみのボレロ』(81)
- 第24回ゴールデングローブ賞 外国語映画賞 『レ・ミゼラブル』(95)
盟友フランシス・レイ
『男と女』は後にアカデミー賞作曲家となったフランシス・レイの出世作でもある。彼は『男と女』以来、ルルーシュ監督の盟友として多くの作品で音楽を手がけてきた。
それでも『男と女』以上に彼の音楽を語るべき映画はないかもしれない。低予算での製作を余儀なくされたこの映画で、ルルーシュ監督を助けたのは間違いなく彼の音楽だった。
二人の関係はまるで、フランス版ジュゼッペ・トルナトーレ×エンニオ・モリコーネのようだ。
「『男と女』は魔法のような体験でした。ルルーシュとバルーがくれた最高のプレゼントでした。」
フランシス・レイ
フランシス・レイ受賞歴
- 第24回ゴールデングローブ賞 最優秀作曲賞ノミネート 『男と女』(66)
- 第25回ゴールデングローブ賞 最優秀作曲賞ノミネート 『パリのめぐり逢い』(67)
- 第28回ゴールデングローブ賞 最優秀作曲賞 『ある愛の詩』(70)
- 第43回アカデミー賞 作曲賞 『ある愛の詩』(70)
映画ファンに稀な幸運を……
1966年から一体どれほどの恋愛映画が撮られてきただろうか。今さらこの映画をデジタル・リマスター版で鑑賞する必要があるだろうか。
たった一作でクロード・ルルーシュ監督をフランスの名匠にまで押し上げたこの映画には、感情の機微をつぶさに捉えた鋭さがある。スタイリッシュさとリアリティの絶妙なバランス感覚は、ありきたりな恋物語をただの恋愛映画で終わらせない。
当時まだ無名だったルルーシュ監督は自主制作を余儀なくされ、破産寸前まで追い込まれている。映画は低予算であるがゆえ、描写と音楽と演技のシンプルな要素だけで構成される。ゆえに無駄もなければ、足りないものもない。
感情的で芸術的、この作品を一言で表現するならそれはまさに”クラシック”。発表から50年後の今、リバイバル上映されても決して色褪せることはない。むしろその古臭さは映画をよりスタイリッシュにするはずだ。
この不滅のラブストーリーを現代にスクリーンで味わえる機会はそうない。
あとがき
この9月3日からクロード・ルルーシュ監督の最新作『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』が劇場公開されます。この映画にはルルーシュ監督の現在地と1966年から変わらない彼のスタイルの両方があります。
『男と女』のリバイバル上映とセットで楽しむと、より感慨深い映画体験ができると思います。