映画を観る前に知っておきたいこと

パリ、恋人たちの影
愛の痛みと愛することの喜び

パリ、恋人たちの影

愛は、
影のように身勝手。

愛を見つめ続けてきた、ヌーヴェルヴァーグの“恐るべき子供”フィリップ・ガレル監督が鋭い眼差しで捉える、ありふれた男と女の情熱と傷心。

あのジャン=リュック・ゴダールと並ぶヌーヴェルヴァーグを代表する監督エリック・ロメールに師事し、ポスト・ヌーヴェルヴァーグの旗手となったガレル監督は、私的な記憶と時代の空気感を反射し、恋人たちの愛の痛みを映し出してきた。

しかし本作では、その愛の痛みの先にある愛することの喜びまでを、モノクロームの画面の中に軽やかに浮かび上がらせる。

「ガレルは息をするように映画を撮る」

ジャン=リュック・ゴダール

出典:公式サイト


予告

あらすじ

ドキュメンタリー映画を制作する夫ピエール(スタニスラス・メラール)の才能を信じる妻マノン(クロティルド・クロー)は、自分の夢を捨て、取るに足らない仕事をして彼を支えていた。同じ目標を持つことが愛だと信じるマノン。

パリ、恋人たちの影

© 2014 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS – CLOSE UP FILMS – ARTE FRANCE CINEMA

二人は取材のため、ある老夫婦のもとを訪れた。戦時中の記憶を朗々と話す老夫に真剣な眼差しを向けるピエールだったが、映画制作に行き詰まりを感じていた。

ある日、保存係の研修生エリザベット(レナ・ポーガム)が重いフィルム缶を抱えて倉庫から出てくる。その様子を見ていたピエールは彼女を手伝い、二人は暖かな日差しのなか並んで歩く。偶然出会った二人の距離は、あっという間に縮まった。

妻がいると知りながらピエールとの関係を続けるエリザベットだったが、時折彼の私生活を覗くため、アパートの近くまでやってきた。何も知らないピエールは、若いエリザベットの体に溺れてゆく。献身的な妻マノンを裏切る自分を身勝手と感じながら、エリザベットとの関係は続いた。

パリ、恋人たちの影

© 2014 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS – CLOSE UP FILMS – ARTE FRANCE CINEMA

そんな折、エリザベットは偶然立ち寄ったカフェで、マノンと浮気相手の男が密会しているのを目撃してしまう。マノンの裏切りによってピエールへの愛が汚されたと感じたエリザベットは真実をピエールに告げる……


映画を観る前に知っておきたいこと

『パリ、恋人たちの影』がヌーヴェルヴァーグの系譜にある作品だからといって、何も構える必要はない。

女は声を荒げ、男は押し黙る、初めて男が声を荒げた時、女は出て行く。

この映画で描かれているのは、そんなありきたりな男女の情景だ。むしろラブストーリーで心震えなくなった大人にこそ、この映画は捧げられる。

ヌーヴェルヴァーグらしさ

ガレル監督は、本作を“映画が到達しうる最高の男女平等についての映画”と表現している。

実際に劇中で描かれる女性たちの感情の動きは、まるで女流監督の仕掛けのようにきめ細やかだった。フィリップ・ガレルともなると、女性の感情をここまでつぶさに捉えることができるのか?

しかし、その答えは彼の手法にあった。これは映画を観終わってから知ったのだが、男性主体の映画となることを避けるため女性2人、男性2人の4人からなるチームで脚本が書かれていたようだ。ここには作家同士の蜜月関係と共同作業をひとつの特徴とするヌーヴェルヴァーグらしさが表れている。

また、物語を俯瞰するように随所に挿入されたナレーションが、会話や芝居だけでは伝えられない微妙なニュアンスを強調させる。これもゴダールやトリュフォーが多用した手法のひとつだ。

フィリップ・ガレル

16歳で制作した短編をきっかけに、ヌーヴェルヴァーグの次世代の旗手として注目を集め、60年代から現在まで活躍を続ける名匠フィリップ・ガレル。彼は常に、作品に自身の人生を反映させてきた。

1969年のNY。ガレル監督はヴェルヴェット・アンダーグラウンドの歌姫・ニコと運命的な出会いを果たした。二人はその後結婚し、その生活が破綻する78年までにニコを主演に迎えた映画を7本撮っている。

また、ニコは俳優アラン・ドロンとの間に認知されなかった息子アリーを授かり、ガレル監督はその事実を『秘密の子供』(79)の重要なモチーフとして描いた。

そして、88年に事故によりニコが急逝すると、彼女と過ごした私的な記憶から生まれた『ギターはもう聞こえない』(91)を発表。ベネチア国際映画祭で銀獅子賞に輝く。

ガレル監督自身が“愛の産物”と呼ぶこれらの作品は、今もなお色褪せることなく、カルト的な人気を博している。

2000年代に入ってからは、息子ルイ・ガレルを初めて主役に据えた『恋人たちの失われた革命』(05)で、五月革命時のパリを生きる若者たちを描き、再びベネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞した。

フィリップ・ガレルの世界には、ヌーヴェルヴァーグ以降のフランス映画に“新しい波”をもたらしたと言われるレオス・カラックスすら心酔する。

あとがき

感情移入して恋愛映画を観たのはいつ以来だろう。僕が過去に経験してきた言葉にできなかった感情をフィリップ・ガレルがすべて代弁してしまった。

愛には建設的なものと、ただ消費するだけの2種類がある。

今になって失敗してきたすべてのことの裏側にあった、抗うことのできなかったものの正体がわかった。

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