映画を観る前に知っておきたいこと

聖杯たちの騎士
愛の記憶に導かれる男

投稿日:2016年11月16日 更新日:

聖杯たちの騎士

すべてが運命の人。

迷える脚本家が巡り会う、6人の美しい女たち……

2011年の『ツリー・オブ・ライフ』で、見事その年のカンヌ国際映画祭のパルム・ドールを受賞した巨匠テレンス・マリックと、アカデミー賞3年連続受賞のカメラマン、エマニュエル・ルベツキが映し出す、眩い愛の記憶。

クリスチャン・ベイル、ケイト・ブランシェット、ナタリー・ポートマン、オスカー俳優たちが映画を彩る。

予告

あらすじ

気鋭の脚本家として注目を浴びるリック(クリスチャン・ベイル)は、ハリウッド映画の脚本執筆を引き受けたことから華やかな生活に溺れていく。自分を見失っていくその一方で、心の奥底にある虚しさを払拭できないまま、進むべき道を求めさまよう日々……

聖杯たちの騎士

© 2014 Dogwood Pictures, LLC

そしてリックが巡り合う6人の女たち。彼女たちとの愛の記憶に導かれるように、リックは自身の過去と向き合っていく。

映画を観る前に知っておきたいこと

テレンス・マリック監督の『ツリー・オブ・ライフ』はカンヌでの最高賞、ブラッド・ピットとショーン・ペンの共演、アカデミー賞へのノミネートなど、2011年に多くの話題をさらった。

そんな今も多くの映画ファンの心に残る傑作を生み出しながら、マリックが40年以上のキャリアで監督を務めた長編はわずか8本しかない。

寡作な分、彼の作品は丹念で、濃密で、深淵、かつ美しい。

テレンス・マリック監督

2011年のカンヌ国際映画祭で『ツリー・オブ・ライフ』が初演を終えた時、会場には拍手喝采と同時にブーイングも起こった。しかし蓋を開けてみれば、その年の最高賞に選ばれていたわけだが。それは、マリック監督の作品が一筋縄ではいかないことを象徴するかのような、カンヌのリアクションだった。

世俗的な父と神の恩寵で包む母、そして3人の息子、家族の中で相反する価値観を衝突させることで浮かび上がらせる富と貧、現在と過去、生と死。『ツリー・オブ・ライフ』で描かれた家族物語には、あまりに語るべき点が多い。しかしその上で、マリック監督は緻密な論理によって、ひとつの重要なメッセージを観客に共有させようとする。

そのため、カンヌの観客たちは作品をきちんと読み解くまでに若干の時間を要したのかもしれない。

ただ、論理的であることは必ずしも説得力を生むわけではない。作品の本質に辿り着くための正しい道筋である反面、観客の心に直接訴えかける力は弱くなる。しかし彼の場合は、作品に自身の経験を反映させ、決して机上の理論では終わらせない。

『ツリー・オブ・ライフ』で描かれた家族と、実際の彼の家族構成は同じであり、また“弟の死”も経験している点でも映画の中の物語と共通している。

『聖杯たちの騎士』で具体的な経験が反映されているのかはわからないが、“成功を手にしたことで進むべき道を失った脚本家”という設定に、再び彼が経験した“弟の死”を結びつけずにはいられない。

彼の弟ラリーは60年代にギタリストとしてスペインに留学し、68年にプレッシャーから自らの命を絶っている。

本作は、成功を手にすることのなかった弟に対して、成功することだけでは人は満たされないということを語りかけているようにもとれる。

エマニュエル・ルベツキ

もうひとつ『ツリー・オブ・ライフ』と本作の大きな共通点を挙げるなら、それはエマニュエル・ルベツキの存在だ。彼は『ゼロ・グラビティ』(13)『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14)『レヴェナント: 蘇えりし者』(15)で、史上初めてアカデミー撮影賞を3年連続で受賞しているカメラマンだ。

この3作品はまったく異なる映像表現だが、どれをとってもそこには途方もないリアリティが横たわっている。

ほとんどの映画で撮影監督の存在など触れられないものだが、彼が撮影した映画に関しては必ずエマニュエル・ルベツキの名前が紹介される。それは、彼がカメラワークだけで多くを語ることができる映像詩人だからだ。

論理的なマリック監督の作品に、芸術性やリアリティを持ち込むのが彼の仕事である。

あとがき

本国アメリカでは2015年に公開されている本作は、どうやら『ツリー・オブ・ライフ』以上に多くの観客を置き去りにしているようだ。

『ツリー・オブ・ライフ』と多くの共通点を持ちながら、作品の焦点が定まっていないと評価する声もある。テレンス・マリック監督が仕掛ける論理を読み解いた先にだけ、共鳴する何かが存在しているのかもしれない。

『ツリー・オブ・ライフ』の監督、オスカー俳優の共演、クリスマス、ラブストーリー、そんな最高のシチュエーションに呼び寄せられて劇場に足を運ぶ人たちが置き去りにならないように祈るばかりだ。

-ラブストーリー, 洋画
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