映画を観る前に知っておきたいこと

【シェル・コレクター】ピューリッツァ賞作家原作の日本映画

投稿日:2016年2月3日 更新日:

シェル・コレクター

2015年に最新作「All the Light We Cannot See」でアメリカで最も権威ある文学賞の一つであるピューリッツァ賞(フィクション部門)を受賞した作家アンソニー・ドーアのデビュー作「貝を集める人」を映画化。原作は短編集「シェル・コレクター」中の一つであるが、この短編集はO・ヘンリー賞、バーンズ&ノーブル・ディスカバー賞、ローマ賞、ニューヨーク公共図書館ヤング・ライオン賞ほか多数の賞を受賞している。

今やアメリカ文学界の寵児となったアンソニー・ドーアだが、映画化されるのは本作が初めてである。しかもそれが日本映画というのだから驚きだ。そして、原作の設定を大胆に沖縄のとある離島に置き換え新たな命を与えたのは坪田義史監督。

15年ぶりの単独主演を務めることとなったリリー・フランキーが孤独を愛し、妻子と離れて暮らす盲目の貝類学者という難役を演じる。共演には寺島しのぶ、池松壮亮、橋本愛と個性的で豪華なキャストが顔を揃えた。

    • 製作:2016年,日本・アメリカ合作
    • 日本公開:2016年2月27日
    • 上映時間:89分
    • 映倫区分:PG12
    • 原作:短編小説「シェル・コレクター/貝を集める人」アンソニー・ドーア

予告

あらすじ

沖縄のとある小さな島。海岸近くにある小さな小屋はまるで貝のようにたたずんでいる。そこにはいるのは孤独な貝類学者だった。男は貝にしか心を開かない……シェル・コレクター海辺を歩き、拾い上げた美しい貝を指でなぞる。そして採集した貝を茹でて、中身を丁寧にピンセットでかき出していく。指先で何度も汚れを確認しながら、使い古した道具を器用に使って貝殻を磨く。しかし、その目線は美しい貝ではなく宙へ向けられている。男は盲目だった。シェル・コレクター一方、ラジオでは今世界中で蔓延している原因不明の奇病についてのニュースを報じていた。手足の痺れから始まり、皮膚病変を伴い重症化すると死に至ることもあるその病は治療法も見つかっていないという。シェル・コレクターそんなある日、山岡いづみという女が島に流れ着く。いづみの震える手には赤く痛々しい皮膚病変が見て取れた。曲がった右手は、動かすこともままならないようだ。

「こんなところにひとりで寂しくない?」といづみが男に尋ねると、男は「孤独は、親密なものだよ」と答えた。

男は新種のイモガイを見つけ、水槽に入れた。その夜、男が小屋に戻るといづみが倒れていた。イモガイを入れたはずの水槽がひっくり返っている。いづみの腕にはイモガイに刺された跡があった。

どのくらい時間が経ったのか、いづみはこれまでにない夢を見ていた。はっと目を覚まし、シーツを握ると、右手の感覚が戻っている。手当たり次第にものに触り、声を上げる。「元に戻った…元の私に!」

かつて画家だったいづみは部屋の壁に巨大な絵画を描く。生のエネルギーが漲るいづみは、その夜、強引に貝類学者と身体を重ねる……シェル・コレクターいづみは貝類学者に、もう一度貝に刺されたい、あの素晴らしいビジョンを体感したい、と懇願する。男は拒絶し、「もうこれ以上私を巻き込まないでくれ!」と逃げるようにその場を立ち去る。

その翌日、いづみは島を後にした。

奇病を治療したという噂を聞きつけ、男のもとへ大勢の人々が押し寄せるようになる。その中にはいづみと同じ奇病に冒された娘・嶌子を助けたいと願う島の有力者・弓場の姿があった。シェル・コレクター慈善団体に所属する息子・光も、久しぶりにやってきた。「みなさんの奇病には、少なからず環境汚染が影響していると思われます」得意げに語る光。シェル・コレクター美しい海の上空で、轟音を鳴らしながら航空機が行過ぎる。

イモガイは本来、人を死なせるほどの猛毒を持つ。この毒は本当に奇跡的な薬なのか?それともただの毒に過ぎないのか?蔓延する奇病は、自然が人間に与えた警鐘なのか。そんな中、孤島近くの火山は静かに活発化していく……

映画を見る前に知っておきたいこと

ピューリッツァ賞とは?O・ヘンリー賞とは?

アメリカのピューリッツァ賞作家の原作を日本が先に映画化するというのは、非常に稀なことである。(一応アメリカとの合作でもあるが)それを理解してもらうためにピューリッツァ賞について少し。

ピューリッツァー賞とはアメリカでも最も権威がある賞の一つとされているが、それは文学だけでなく新聞等の印刷報道や作曲も対象となっている。文学芸能部門、ジャーナリズム部門、音楽部門の3つがある。さらに文学芸能部門の中でもフィクション、歴史書、伝記、詩、一般ノンフィクション、戯曲に別れており、アメリカ人によって書かれたものが対象となる。あのコーエン兄弟が撮った『ノーカントリー』(2007)の原作を書いたコーマック・マッカーシーもピューリッツァ賞作家である。

そして映画の原作「貝を集める人」が受賞したのがO・ヘンリー賞である。これはアメリカを代表する短編の名手であるオー・ヘンリーという作家にちなんだ賞だ。アメリカとカナダでその年に出版された英語による優れた短篇小説に対して送られる。

ピューリッツァ賞作家のO・ヘンリー賞受賞作が原作ということもあって映画自体も、純文学的な雰囲気を感じる作品となっている。偉大な自然のなかで、如何にして小さな人間は生きるのか、そんなテーマを持った映画だ。

『スモーク』を手掛けたエリック・ニアリがプロデューサー

本作を日本映画と言ったが、実際は日本とアメリカの合作である。監督を坪田義史が務めたことと、原作の舞台を映画では沖縄に変えているので日本映画としての要素の方が強くなっている。

しかし、『スモーク』(1995)を手掛けたエリック・ニアリがプロデューサーを務めたことは日米合作ならではと言える。『スモーク』は今も映画好きに愛されるような味わい深い作品であったが、そこに参加していたエリック・ニアリは本作にとって重要な意味を持ちそうだ。

『スモーク』は人間描写に優れた作品であり、やはり本作もそこが肝になると思う。個人的にも『スモーク』は好きな映画なので、こうした繋がりは興味をそそられる。ましてや今回は日本映画なのでなおさらだ。

-ファンタジー, 邦画
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