映画を観る前に知っておきたいこと

【マイ・ファニー・レディ】大人のウィットが溢れる幸福な笑いの連鎖

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マイ・ファニー・レディ

『ペーパー・ムーン』のピーター・ボグダノヴィッチ監督13年ぶりの新作は、複雑に絡み合っていく人間模様が生み出す群像コメディ。コールガールをしていたハリウッドスターのイージーが、かつて一夜を共にしたアーノルドが演出する舞台のオーディションを受けることに。しかし、その舞台はアーノルドの妻デルタが主演だったことから事態は思わぬ展開に……

連鎖する幸福な笑いが観客を最高に楽しませてくれる一本!

  • 製作:2014年,アメリカ
  • 日本公開:2015年12月19日
  • 上映時間:93分
  • 原題:『She’s Funny That Way』

予告

あらすじ

ニューヨーク5番街にあるバーでインタビューを受けるハリウッドスター、イザベラ“イジー”パターソン(イモージェン・プーツ)。天真爛漫な彼女は、かつてコールガールをしていたこともあっけらかんと語る。そして当時“お客”として出会った演出家アーノルド(オーウェン・ウィルソン)から「君の将来のために三万ドルをプレゼントする」という奇妙な申し出をされ、人生が一変した日を振り返るのだった……マイ・ファニー・レディイジーはアーノルドからの三万ドルもらったことをきっかけにコールガールを辞め、ブロードウェイのオーディションにチャレンジすることを決意した。夢を叶えるため受けたオーディションは偶然にもアーノルドが演出し、彼の妻で女優のデルタ(キャスリン・ハーン)が主演する舞台だった。さらにデルタに昔から好意を寄せている人気俳優セス(リス・エヴァンス)、イジーに一目惚れする唯一の常識人の脚本家ジョシュア(ウィル・フォーテ)、その恋人で“人の話を聞かない”セラピストのジェーン(ジェニファー・アニストン)らが加わり、複雑に絡み合ってゆく人間模様。果たして浮気性のアーノルドは無事にブロードウェイの舞台を成功させることができるのか!?

映画を見る前に知っておきたいこと

ピーター・ボグダノヴィッチ監督

ピーター・ボグダノヴィッチ監督のキャリアは、ハリウッドでも他に類を見ないような波瀾万丈なものであった。今でこそハリウッドを代表する映画人の一人だが、その長いキャリアでは栄光と挫折がある。

ボグダノヴィッチ監督はアカデミー賞監督でもあるのだが、受賞した映画は初期の2作品のみである。1971年の『ラスト・ショー』で監督賞ノミネートされ、助演男優賞、助演女優賞受賞を獲得した。そして73年の『ペーパー・ムーン』助演女優賞を獲得している。当時34歳のボグダノヴィッチ監督は天才と評されていた。

しかし、その後の作品は酷評が続き、興行的にも失敗を繰り返すこととなる。そして79年の『セイント・ジャック』で再び評価され復活を果たした。だがボグダノヴィッチ監督の挫折は映画によるものだけではなかった。

81年に自身の作品『ニューヨークの恋人たち』に出演した20歳年下の女優ドロシー・ストラットンと恋に落ちたボグダノヴィッチ監督であったが、ドロシーは嫉妬に狂った別居中の夫に惨殺されてしまう。そして婚約者の死後、ボグダノヴィッチ監督は映画を撮ることなく2年の間引きこもってしまう。こうした経験を乗り越え、ユーモアに変えることで本作のようなロマンティック・コメディを撮ることができたのではないかと感じる。人生の酸いも甘いも知った男が描く大人の笑いがそこにある。

また本作は、ルビッチ監督、オードリー・ヘップバーン、フレッド・アステアなどハリウッド黄金期へのオマージュ的な作品でもある。こうしたことができるのも75歳になるボグダノヴィッチ監督の長いキャリアの賜物である。しかし、75歳のボグダノヴィッチ監督がこうした複雑に絡み合う人間模様を描いた群像劇の脚本を手掛けることには驚く。こんな秀逸な脚本が書けるのならボグダノヴィッチ監督の黄金期はまだまだこれからかもしれない。

ちなみにボグダノヴィッチ監督は、後にドロシーの妹と結婚している。詳しい経緯はわからないが、そこにも複雑な人間模様が存在しているのは間違いなく、なんとなく本作はボグダノヴィッチ監督自身の人生へのオマージュでもあるのではないかと思ってしまう。本作は13年振りとなる復帰作だったが、その前も8年の間が開いており、映画を撮るペースは落ちていく一方となっているが、この引き出しの多い人生はまだまだ大人のウィットを隠しているに違いない。

「群像劇」とは?

よく映画の紹介に出てくる「群像劇」とはどんなものか、改めて説明しておく。小説なんかでもよく使われる手法で、同一の世界観の中を登場人物のそれぞれの視点から描き、大きな一つのストーリーを紡いでいったものを指す。いざ「群像劇」と言われるとピンとこないかもしれないが、よくあるあの手法のことである。

カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『パルプ・フィクション』は群像劇の代表的な作品である。群像劇の利点を生かし過ぎて誰が主人公かもわからないような映画だが、最も成功した作品の一つと言えるだろう。

また本作と同様のロマンティック・コメディでは2003年の『ラブ・アクチュアリー』がある。こちらは、19人の男女の恋愛を群像劇で描いている。人数の多さから言えば最も群像劇らしい作品の一つと言える。

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