津波によって家族を失った幼い二人の姉妹の葛藤と再生の道のりを描いたヒューマンドラマ。「おくりびと」のサウンドトラックが記憶に新しいチェリスト・海野幹夫と、14年に発覚したゴーストライター問題以降、多方面で精力的な活動を続ける作曲家・新垣隆が手がけた美しい音楽をバックに、死と生を詩情豊かに見つめるサイレントフィルムだ。
監督は、逆境を生きる人間の混乱や葛藤と希望を絶妙なバランスで描いてきた作品群で国際的に高い評価を受けている坂口香津美。それだけでこの映像がただ悲劇を見つめるだけの作品ではないことが分かる。
- 製作:2015年,日本
- 日本公開:2015年9月19日
- 上映時間:72分
Contents
- 1 予告
- 2 あらすじ
- 3 映画を見る前に知っておきたいこと
予告
あらすじ
11歳と8歳の姉妹はふるさとに帰ってきた。だが、その村は津波によって既に砂の底に沈んでしまい、家族で楽しく過ごした痕跡すらない。
姉妹は浜辺で流木を集め、家を作ろうとする。疲れ果てて眠る姉妹の記憶を、家族の思い出がやさしく包み込む。目の前に広がる海は、家族と過ごした思い出のいとおいしい海。家族の命を奪った憎しみの海。
少女達の心は、死と生の境界線で、絶望と虚無の中で、幻想と思い出の中で、ひとすじの希望を求めて旅をする。
全てが失われた場所に散らばる思い出の欠片を拾い集め、その場所で姉妹は家を作る。もう一度、二人だけで、かつてシロナガスクジラが姿を見せた村の面影を追って。
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映画を見る前に知っておきたいこと
監督・坂口香津美
若者や家族をテーマにしたTVドキュメンタリー番組の企画演出を多く手がける映画監督。その数はなんと200本にも及ぶ。映画監督としては劇映画を3本、ドキュメンタリー映画を2本、この作品を含めて計6本の作品を発表している。
彼の作品群については、公式サイトやwikipediaにもあるのでそちらを参考にしていただくとして、ドキュメンタリーと映画の関係を考えてみよう。
『赤い玉、』の監督・高橋伴明の言葉を思い出す。
映画づくりをやっていて良かったと思うことは、必然的にいろんな物事を覚えること。
今まで興味なかったこととも向き合わなきゃいけない。
想像力、創造力、コミュニケーション能力、あと共同作業だから忍耐力だったりね。映画に携わると、何でもかんでも力にしなきゃいけない。その力は映画業界のみならず、他のどんな仕事に就いたとしても、万能の力だよね。例えば、魚屋さんでもね。
坂口香津美が人生を通して見つめてきた若者や家族の苦悩と葛藤は、それこそ自分が体験する何倍もの歯がゆさ、苦しみの体験だったと思う。それは多くの人が真正面から見つめることを避ける苦しみの記憶である。
映画のみならず、芸術作品と呼ばれるのもにはその人の全てが出る。意図によるものではなく、ありのままの人間としての全てが出る。そう考えたとき、坂口香津美が見つめてきたたくさんの苦悩は、彼の中に、この映画の中にどの様に生きているのか、その一点にとても興味がそそられる。
この映画のテーマ
東日本大震災が発生して間もなく、一人の少女がテレビに映し出された。津波に流される母親の手を放してしまった、と涙声ながら、「私は母の分まで強く生きていきます」と話す少女の姿を見て、監督の坂口香津美は映画制作を決意したという。
公式サイトも監督自身もこの映画のテーマを言及していないが、大きくは死生観に大別される何かだと思われる。人の死生観には“常識”といわれるものが存在せず、死をどう受け止めるか、生を何とするかという考え方には、人それぞれのテーマがある。
こんなマニアックな映画、もしも興味を惹かれる機会や見る機会があったとすれば、それはもはや出会いだ。こういう映画こそ、ボブ・マーリーのあの有名な言葉を胸に刻んで見たいものである。
雨を感じることのできる人もいれば、ただ濡れるだけの人もいる
Some people feel the rain. Others just get wet