映画を観る前に知っておきたいこと

【シーヴァス】王子さまになりたかった少年と負け犬だった闘犬の物語

投稿日:2015年10月3日 更新日:

シーヴァス 王子さまになりたかった少年と負け犬だった闘犬の物語

2014年・第71回ベネチア国際映画祭で審査員特別賞を獲得、トルコ映画のヌーヴェルヴァーグ、その流れの中に現れた、新鋭カアン・ミュジデジ監督による初の長編作品。トルコ東部・アナトリア地方の美しく広大な自然を背景に描かれる、少年と闘犬の物語。

監督カアン・ミュジデジによる研ぎ澄まされた映像美と、主演ドアン・イズジ少年の奇跡的とも思える自然体の演技は、「ミツバチのささやき」「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」「友だちのうちはどこ?」といった名作を思い出させ、映画ファンの心をきっと捉えることだろう。

闘犬シーヴァスの壮絶な生き様が、アスランの幼い眼差しに深く刻まれていく——

    • 製作:2014年,トルコ・ドイツ合作
    • 日本公開:2015年10月24日
    • 上映時間:97分
    • 原題:『Sivas』

予告

あらすじ

トルコ東部・アナトリア地方で暮らす11歳の少年アスラン。彼はある日、傷つき瀕死の状態だった闘犬シーヴァスと出会う。シーヴァスは村長の息子オスマンが飼う闘犬ボゾとの闘いに敗れ、打ち捨てられていたのだった。
シーヴァス 王子さまになりたかった少年と負け犬だった闘犬の物語
同じ頃、学校では学芸会で発表する「白雪姫」の準備が進んでいた。彼が演じたかった王子様にはオスマンが選ばれ、更に白雪姫には密かに想いを寄せていたアイシェが抜擢されてしまう。
シーヴァス 王子さまになりたかった少年と負け犬だった闘犬の物語
小柄なため、いつもクラスメートたちから軽く扱われてしまうアスラン。彼はシーヴァスが強くなれば自分も強くなれると信じ、学校に通うことも止め、シーヴァスとの時間に没頭していく。周囲に自分を認めさせ、アイシェさえ無視できない存在になるために。
シーヴァス 王子さまになりたかった少年と負け犬だった闘犬の物語
そして遂に、シーヴァスとボゾの再戦の時が訪れるーー

映画を見る前に知っておきたいこと

アスランを演じる村の少年、ドアン・イズジ

監督のカアン・ミュジデジが、100人以上の地元の子供たちの中から見つけ出した、主人公アスランを演じるドアン・イズジ。

撮影地となったヨズガト県の小さな村で大家族と共に暮らし、村の小学校に通う11歳の普通の少年は、本作が初めての映画体験。犬を非常に怖がっての撮影だったそうだ。

しかし、その存在感、そして奇跡的とも思える自然体の演技は、ヴェネツィア国際映画祭で金のビサト賞、フランス・アンジェフィルムフェステバルでは主演男優賞を獲得するほど大きな話題を集めている。

日本とトルコの友好関係

第67回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の『雪の轍』や、第66回ヴェネツィア国際映画祭で審査員特別賞を受賞したトルコ系ドイツ人であるファティ・アキン監督の『ソウル・キッチン』、世界各国の映画賞を受賞したセミフ・カプランオール監督のユスフ3部作『卵』『ミルク』『蜂蜜』など、近年、台頭が目覚ましいトルコ映画。その評判はここ日本の映画ファンの耳にも届く機会が増えている。

そして、この12月には日本・トルコ合作、両国の友好125周年を記念して製作された映画「海難1890」も公開される。タイトルにもなっている1890年の9月、和歌山県串本町大島の沖合で沈没したトルコの軍艦エルトゥールル号の救助活動から始まった、両国の友好関係を描いた物語だ。この事故はトルコの小学校の教科書にも掲載されているそうで、嬉しいことにトルコの人々は、我々日本人に対してとても高い友好意識を持ってくれているようだ。逆に我々日本人は、この事故を含め、トルコへの見識があまり高くないのが現状だろう。両国首脳からのメッセージも届けられ、国家級のプロジェクトという映画「海難1890」は、日本人にとってトルコを知る大きな機会となるはずだ。

そして、今回紹介させていただいた『シーヴァス』で鮮烈なデビューを飾ったカアン・ミュジデジ監督。トルコ映画界注目の新鋭である彼の次回作は、なんと東京で撮影されるそうだ。タイトルもズバリ『イグアナトーキョー』。実写とアニメを融合した斬新な映画になるようで、トルコの広大な自然を背景に、研ぎ澄まされた映像美を見せてくれた『シーヴァス』からは大きくかけ離れた次の一手となっている。こちらも楽しみに待ちたいところだ。

映画がその国を知るきっかけになる、僕ら映画ファンには何度ももたらされた素晴らしい出来事だ。台頭するトルコ映画たちが、またそれをやってのけるだろう。

-洋画

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