映画を観る前に知っておきたいこと

スモーク
最高のクリスマス映画!

投稿日:2016年11月20日 更新日:

スモーク

本当に大切なものは煙のようなもの。
心が乾いた時に何度でも味わいたくなる。

小さな煙草屋を取り巻く人々をどこか淡々と綴ったこの群像劇を、多くの映画ファンが人生の1本に挙げる。

現代アメリカを代表する作家ポール・オースターの短編「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」を基に撮られた、ウェイン・ワン監督の最高傑作。

幅広い演技を披露する米映画界きってのいぶし銀俳優ハーヴェイ・カイテルと個性派のオスカー俳優ウィリアム・ハートが、劇中台詞のほとんどをアドリブでこなし、まるで日常を切り取ったかのような自然な空気を演出する。

1995年ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員特別賞)受賞作品。21年前に日本でもロングランを記録した不朽の名作が、この冬、デジタルリマスター版でリバイバル上映される。

クリスマスが近づく度にこの映画を思い出す。


予告

あらすじ

1990年ブルックリン。街角にある小さな煙草屋の店主オーギー・レン(ハーヴェイ・カイテル)は14年間、毎日、同じ時間に同じ場所で写真を撮り続けている……

常連客の一人、作家のポール・ベンジャミン(ウィリアム・ハート)は数年前に強盗の流れ弾で妻を亡くして以来、執筆することができない。

毎日をぼんやりと過ごしていたポールは、ふらふらと道路に飛び出したところをラシードと名乗る少年(ハロルド・ペリノー・ジュニア)に助けられる。彼は感謝の印にレモネードを奢ってやった。

その日、ポールはいつもの様にオーギーの店に寄った。そこでオーギーが趣味で撮り続けている写真の中に生前の妻の姿を発見する……

スモーク

© 1995 Miramax/N.D.F./Euro Space

数日後、ポールの家にラシードの叔母が訪ねてきた。ポールは彼女からラシードのことを聞かされる。

本名はトーマス・コール。彼の母親は交通事故で既に亡くなり、父親は12年前に蒸発したきりだった。ラシードは、生き別れになった父サイラス(フォレスト・ウィテカー)を郊外のガソリンスタンドで見かけたという話を聞いて家を飛び出していた。

スモーク

© 1995 Miramax/N.D.F./Euro Space

ラシードは父の働くガソリンスタンドに現れ、自身をポール・ベンジャミンと名乗ってアルバイトをはじめる。その夜、ラシードは再びポールのもとを訪ね、実は強盗から大金を奪って逃げていることを告白する。

一方、オーギーのもとにはかつての恋人が突然訪ねてきて、自分に娘が生まれていたことを知らされる。半信半疑のまま、娘に会いに行くオーギーだが……


映画を見る前に知っておきたいこと

現代アメリカを代表する作家ポール・オースター。彼の作品には、しばしば孤独を抱える人間が登場し、必ずしもハッピーエンドにならないその物語は読み手に大きな悲しみを与える。しかし彼は、いつでもその悲しみ以上の大切な何かを残してくれるのだ。それはこの映画でも例外ではない。

ポール・オースター

映画の脚本はオースターが自ら書き下ろしている。そして、劇中に登場するポール・ベンジャミンは原作者ポール・オースターの若かりし日の筆名である。映画を鑑賞する上でこの事実はとても重要になってくる。

物語の中で、これからポールが「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」(本映画の原作)の執筆に取り掛かる様子が描かれている。映画の中には作者自身が登場しているのだ。

作者そのものとなる人物が物語の渦中にいることで、俯瞰した目線は取り払われ、他の登場人物も映画のために生み出された駒ではなくなる。自身も含めたそれぞれの人生が交錯する様子をただ切り取っているのだ。そこに生まれるリアリティこそがこの映画の肝である。

いかにもフィクションなハッピーエンドでごまかすことも、大げさな演出で涙を誘うこともしない。シリアスでもドラマチックでもない。本当の人生とはそういうものだ。

抑揚の少ない小説のようなこの映画の中に、オースター文学における悲しみ以上の大切な何かを見つけた時、すでに心地よい余韻の中にいるだろう。

この映画に「人生は捨てたものじゃない」と思わされるのはそういうことだ。

『ブルー・イン・ザ・フェイス』

『ブルー・イン・ザ・フェイス』(96)は再びポール・オースター×ウェイン・ワンで撮られた、『スモーク』の姉妹的な作品だ。オーギー・レンの煙草屋が無くなるかもしれないという話がこの映画のプロットになっている。

また映画の見どころとなるのが、オーギーの煙草屋に訪れる面々だ。ルー・リードが煙草とブルックリンへの愛着を語り、ジム・ジャームッシュは常連客として人生最後の煙草をふかす。そしてマドンナが歌って踊る電報配達人となって登場する。

変わらずユーモラスな会話劇や俳優たちの即興演技は健在ながら、コメディタッチになっている点や、ブルックリンの街を映したドキュメンタリー映像が挿入されるなど、少し趣向を変えた『スモーク』が堪能できる作品になっている。

『ブルー・イン・ザ・フェイス』にオースターの原作は存在しないが、ファンにとっておもしろい本がある。『スモーク』と『ブルー・イン・ザ・フェイス』の脚本を一冊にまとめたものだ。もちろん著者はポール・オースター。

あくまで脚本なので、カメラアングルが記載されていたりと多少読みづらいかもしれないが、映画ファンにはむしろ興味深いはずだ。

またこの本にはオースターとウェイン監督のインタビューに加え、『スモーク』の原作となった短編「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」まで収録されているのが何とも嬉しい。

感想・評価

特定の主人公が用意されているわけでもなく、これといった見せ場があるわけでもないこの映画を退屈と感じる人もいるかもしれない。

しかし、淡々とした中にある会話劇すべてがユーモラスで魅力的なのだ。

煙草の煙の重さを量る話、雪山で遭難した男の話、10年がかりで書いた原稿をすべて煙草にして吸ってしまった作家の話、神様に左手を奪われた男の話、最後のクリスマスを幸せに過ごした老婆の話、登場人物たちが語ってみせるエピソードはどれも観客の心を刺激する。しかも観るたびに心奪われるエピソードが異なるはずだ。

会話こそ最も身近なドラマであり、その感覚こそが映画の本質なのではないだろうか。最高だ。

-ヒューマンドラマ, 洋画
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執筆者:


  1. 匿名 より:

    心に残る、大好きな映画のひとつです。
    人はそれぞれ、孤独を抱え、様々のもんだいに悩み、いまを生きている。私はタバコの煙や
    匂いと好きではないが、映画の中の、人物像にスモークの意味が分かった。

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