映画を観る前に知っておきたいこと

ストーンウォール
ローランド・エメリッヒの失敗

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ストーンウォール

ありのままの自分で、誰かを愛したい

『インデペンデンス・デイ』(96)のローランド・エメリッヒ監督が、現在のセクシュアル・マイノリティの社会運動の原点となった事件“ストーンウォ-ルの反乱”をベースに描く、1960年代の若者たちの愛と反乱の物語。

それはゲイ、レズビアン、トランスジェンダー、N.Y.グリニッジ・ビレッジに集った彼らのアイデンティティがとことんまで否定された時代。存在すら法律で禁じられ、行き場のなかい苦悩と恋、自由を求めるパワーと暴動、理不尽に押さえつけられていた彼らの感情の爆発がスクリーンに映し出される。

予告

あらすじ

インディアナ州から、N.Y.グリニッジ・ビレッジのクリストファー・ストリートへやってきたダニー(ジェレミー・アーヴァイン)。ゲイであることがバレた彼は両親に見放され、恋人のジョーにも裏切られ、追われるように故郷を出た……

ストーンウォール

© 2015 STONEWALL USA PRODUCTIONS, LLC

孤独なダニーを迎え入れたのは、この街で美しさを武器に体を売って暮らすゲイのギャングを率いるレイ(ジョニー・ボーシャン)だった。ダニーは彼らと生活を共にし、この街で身を寄せ合い暮らすゲイ、レズビアン、トランスジェンダーといった様々なセクシュアル・マイノリティの人々に出会う。

ストーンウォール

© 2015 STONEWALL USA PRODUCTIONS, LLC

しかし、彼らに対する迫害と差別、警察の不当な捜査はますます激化していく。警官による理不尽な暴力は日常化し、客にはレイプされ暴行を受ける。そんな過酷な日々が、彼らの現実だった。

ストーンウォール

© 2015 STONEWALL USA PRODUCTIONS, LLC

そんなある日、彼らが常連として通うゲイバー“ストーンウォール・イン”に再び警察の捜査が入り、ダニーやレイたちの怒りと不満がついに爆発する。彼らに失うものはない。社会からの不当な扱いを受け入れるだけだった彼らが、初めて立ち上がり、そして石を投げた。それは歴史を変える暴動へのはじまりだった……

映画を観る前に知っておきたいこと

今年、日本でも『インデペンデンス・デイ: リサージェンス』(16)が大きな話題となったローランド・エメリッヒ監督の最新作。本作は日本とアメリカで公開順が前後しており、実際は『インデペンデンス・デイ: リサージェンス』の前の作品となる。

今や、ディザスタームービー(パニック映画)の巨匠としてその名を知られる監督だが、本作のような社会派映画においてもその手腕は活きるのか?

近年稀に見る酷評

あのローランド・エメリッヒ監督が、1969年に起こったセクシュアル・マイノリティの社会運動の原点となった事件“ストーンウォ-ルの反乱”を題材に撮るということで大いに興味をそそられたわけだが、この映画にはあまりにも致命的な欠点がある……

それは、社会がセクシュアル・マイノリティへの理解を深める重要な転機となった事件を、あたかも白人ゲイ男性の功績だったかのようにすり替えてしまったことだ。

実際の事件をモチーフにそれを脚色することはよくあるが、“ストーンウォ-ルの反乱”の最も重要な部分に脚色を加えたことで、史実を捻じ曲げた映画として近年稀に見る酷評にさらされているのだ。

“ストーンウォ-ルの反乱”を描くということは、差別や偏見に対して否定的な作品である必要がある。しかし、こうした白人にヒーロー像を重ね合せる手法はまったく逆の結果を招いている。

ある意味、ディザスタームービーの巨匠がその手腕を発揮した証拠なのかもしれない。エメリッヒ監督は“ストーンウォール・イン”に立ち入るべきではなかったと言わざるを得ない。

あとがき

多くの映画を紹介していると、作品そのものの評価と興行的成功がいかに相容れないかがよくわかる。

インデペンデンス・デイ』シリーズに然り、ローランド・エメリッヒ監督を巨匠と呼ぶことには少し違和感を感じている。彼の場合、ヒットメーカーという表現が最もしっくりくる。

ただそれでも、作品をこき下ろすようなことはあまり書きたくない。それは、映画を観て感動した人や作り手に対しての敬意が欠けていると自身で感じてしまうからだ。

しかし、社会的影響がある作品においてはそこを濁すことはできないのである。

-ヒューマンドラマ, 洋画
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