映画を観る前に知っておきたいこと

海の上のピアニスト
存在しないピアニストの伝説を語る寓話ファンタジー

投稿日:2016年3月1日 更新日:

海の上のピアニスト

一生を船の上で暮らした、“世間的には存在しない”ピアニストの伝説を描いたファンタジー。物語はピアニストの唯一の友人であるトランペッターの目線で語られる。

『ニューシネマパラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレ監督の代表作であり、彼のキャリアの中でも最も親しみ易い映画である。自身でも、この作品は教訓を含んだ現代の寓話だと語る。

主演は『レザボア・ドッグス』『パルプ・フィクション』で注目され、出世街道をひた走ったティム・ロス。語り手であるプルイット・テイラー・ヴィンスの無駄に目が泳ぐ演技(実際は演技ではなく眼球振盪という病気)もハマっている。

そして、2000年のゴールデングローブ賞最優秀作曲賞を受賞したエンニオ・モリコーネの音楽は何よりも美しい。

予告

あらすじ

第二次世界大戦が終戦してまもなく、マックス・トゥーニーはある楽器屋を訪れた。自分が長年愛用してきたトランペットを金に換えるためだ。

彼はトランペットを売った後になって、店主に「もう一度吹かせて欲しい」と頼んだ。しぶしぶ演奏を許した店主は、マックスが吹いた曲を聴いて驚いた。それは、偶然手に入れた美しいピアノが刻まれたレコードと同じ曲だったのだ。

店主はレコードを持ち出して、曲と演奏者の名前をマックスに尋ねた。

「どうせ信じない。」

マックスはそう前置きをして、1900 (ナインティーン・ハンドレッド)と呼ばれたピアニストの物語を語り始める……

大西洋を往復している豪華客船ヴァージニアン号。そこで働く機関師ダニー・ブートマンは、ピアノの上に捨てられた赤ん坊を発見した。

ダニーはその子を拾って大切に育てた。名前は「ダニー・ブードマン・T.D.(Thanks Danny)レモン・1900」。ダニーのもとですくすくと育つ1900だったが、ダニーは事故で帰らぬ人となってしまう。

1900はダニーの葬儀で流れていた音楽に惹かれ、以来ピアノを弾くようになる。

海の上のピアニスト

1927年、船にトランペッターとして就職したマックスは嵐の夜に1900と出会った。そして2人は唯一無二の友人となった。

成長した1900は誰も聞いたことのない音楽を奏でるピアニストとして、ヴァージニア号の顔になっていった。

海の上のピアニスト

click! ※ネタバレ

1900の噂は海の上に留まらなかった。ジャズを生んだというピアニストのジェリー・ロール・モートンも噂を聞きつけ、ピアノ演奏による決闘を申し込んでくるが、奇跡のようなピアノ演奏で1900は見事にモートンを打ち負かす。

海の上のピアニスト

ある日、レコード会社が1900の音楽を世間に広めようと船にやってきた。1900はろくに話も聴かず演奏を始める。

この時、何気なく窓に目をやると美しい女がそこに見えた。彼はすぐに恋に落ちてしまい、演奏した音楽には愛が溢れていた。録音が終わると、1900は契約を破棄してレコードを持ち去った。

1900は彼女に対して何もできなかった。彼女が船を降りる時、1900は勇気を出してレコードを渡そうとするが、人ごみに遮られてしまった。1900はレコードを割り、ゴミ箱に捨てた。

彼女に再び会うため一度は船を降りることを決意した1900だったが、結局戻って来てしまう。

「船を降りて自由に生きろ、お前ならすぐに成功する。」

マックスは友人として、1900に船を降りるよう促した。しかし、1900は頑なに応じようとはしなかった。生まれてから一生を船で過ごしてきた男にとって、陸は未知の世界だった。

それから月日が経ち、1900だけを残してマックスも船を降りた……

1946年、マックスは戦争で朽ち果てたヴァージニアン号が解体されるという話を知らされる。船には既にダイナマイトが仕掛けられていた。

マックスは船内にまだ1900が残っていることを必死で訴え、半ば強引に船の中に探しに入る。手にはゴミ箱から拾い上げたレコードを持っていた。そして暗い船底に1900の姿を見つける。

マックスは船を降りてまた一緒に音楽をしようと説得したが、1900は船を降りられない理由を語り出す。その1900の言葉に、マックスは何も言えなかった。こうして船は爆音と共に海に沈んでいった……

話を聞き終えた楽器屋の店主は、去り行くマックスにトランペットを返して見送るのだった。

映画を見る前に知っておきたいこと

ジュゼッペ・トルナトーレ監督による「現代の寓話」

ジュゼッペ・トルナトーレ

『ニューシネマパラダイス』で世界を席巻したイタリアの名匠ジュゼッペ・トルナトーレ初の英語作品。この映画は彼の代表作として必ずその名が挙がる。

表現による暗喩で哲学的なテーマを掘り下げることを得意とするトルナトーレ監督だが、この作品は自身が「これは現代の寓話である」と語るほど親しみ易い。トルナトーレ監督作品にしては珍しいこの作風は、初めて英語で撮ったことも関係しているかもしれない。

寓話とは、比喩的に教訓を伝えることを意図した物語で、その解釈は道徳的な方向へと向かうのが常である。「イソップ物語」は最も有名な寓話である。

この映画が現代の寓話であるなら、誰からも愛される。

この物語は実話ではない

この映画はよく実話と勘違いされる。それはポーランドの巨匠ロマン・ポランスキーの『戦場のピアニスト』(02)が実話であることも影響しているかもしれない。

物語はあくまで、伝説であり寓話である。それでも1900は実在したかもしれないというロマンを感じさせるのは、劇中の登場人物であるジェリー・ロール・モートンが実在のピアニストだからだ。

彼がジャズとスウィングの創始者だという人もいる。映画ではそんなピアニストと1900の演奏勝負が描かれている。

また、劇中のヴァージニアン号は1904年から1954年まで実在した船だった。

エンニオ・モリコーネのためにある映画

海の上のピアニスト

イタリアの作曲家であるエンニオ・モリコーネは、ジュゼッペ・トルナトーレ監督同様に『ニュー・シネマ・パラダイス』で世界的な名声を手にした。以来、トルナトーレ監督作品では常に彼が音楽を手掛ける。

また、マカロニ・ウェスタンブームを巻き起こしたセルジオ・レオーネ監督とのコンビも有名で、映画音楽を語る上で彼の存在は外せない。クエンティン・タランティーノ監督の最新作『ヘイトフル・エイト』(15)で2016年アカデミー賞作曲賞を受賞したのは記憶に新しい。

『海の上のピアニスト』は、そんな彼の音楽が最も素晴らしい映画だと言っても決して大袈裟ではない。

日本未公開の完全版が存在する

実はイタリアで公開された当時は160分の映画だった。日本版では子供時代のエピソードがいくつかカットされている。完全版のDVDは発売されておらず、未だにイタリア語の輸入版を手に入れるしか観賞する術はない。(2016年2月現在)

意図としては作品をより親しみ易いものにするためと思われるが、『ニューシネマパラダイス』の例をとっても、作品のテーマが違って見えるほど大胆にシーンをカットする傾向がある。完全版でなければ伝わってこない感動もありそうだ。

-ヒューマンドラマ, ファンタジー, 洋画
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