映画を観る前に知っておきたいこと

しあわせな人生の選択
死と向かい合う感情

投稿日:2017年6月21日 更新日:

しあわせな人生の選択

きみから教えてもらった事、
それは、決して逃げ出さない勇気 ──

 人生の残り時間が急速にカウントダウンを始めた時、しばらく会っていなかった友人が目の前に現れた。これは末期がんで死に逝く男とその友人による4日間の記録である。

 かつて『オール・アバウト・マイ・マザー』(99)など多くの名作スペイン映画を輩出したゴヤ賞(スペイン・アカデミー賞)で、2016年に作品賞を含む最多5部門受賞したエモーショナルな人間ドラマ。スペインの秀英セスク・ゲイが自身で経験した母親の闘病生活をベースに、時折ユーモアも交えながら死と向かい合う感情を描き出す。

 主人公フリアンを『人生スイッチ』(14)のリカルド・ダリン、親友トマスを『トーク・トゥ・ハー』(02)のハビエル・カマラがそれぞれ演じ、誰もが羨むような友人関係を自然な芝居でみせる。そして、映画の原題にもなっているフリアンの愛犬トルーマンを演じたブルマスティフのトロイロ。彼の名演なくしてこの映画は生まれなかっただろう。


予告

あらすじ

 スペインで俳優として活躍するフリアン(リカルド・ダリン)は愛犬トルーマンと二人、マドリードで暮らしていた。ある日、そんな彼のもとに古い友人トマス(ハビエル・カマラ)が突然現れる。遠く離れたカナダで暮らすトマスの来訪は、フリアンが末期がんに侵され余命いくばくもないと知らされてのことだった。

しあわせな人生の選択

© IMPOSIBLE FILMS, S.L. /TRUMANFILM A.I.E./BD CINE S.R.L. 2015

 すでに治療を諦め身辺整理を始めていたフリアンは、トマスに説教されることを嫌がり彼を追い返そうとした。しかし、そんなフリアンに構わずトマスは4日間の滞在を決める。渋々トマスの勝手を受け入れたフリアンだったが、二人は次第に昔の遠慮のない関係に戻っていく。

しあわせな人生の選択

© IMPOSIBLE FILMS, S.L. /TRUMANFILM A.I.E./BD CINE S.R.L. 2015

 二人はこの4日間をフリアンの気掛かりを片付けることに費やした。まずは、フリアンがいなくなった後に残されるトルーマンの里親探し。そして、しばらく会っていないフリアンの息子に会いに行くことを決め、二人はトルーマンを連れてアムステルダムを訪れる。それは彼らが一緒に過ごせる最後の日々でもあった……


映画を観る前に知っておきたいこと

 ありがちな邦題とどこかで聞いたようなキャッチコピー。しかしこの映画、いわゆる“余命もの”とは違う。劇中でフリアンが死ぬこともなければ、闘病する姿を映したりもしない。監督のセスク・ゲイは、あくまでフリアンとトマスが共に過ごす最後の4日間だけを切り取っていく。扇情的になり過ぎないように、時折ユーモアも交えながら綴られる男同士の友情には心地よささえ覚える。ただ、それでも彼らの感情を掬い取ることは、観る者に死と向かい合うきっかけを与えることになるだろう。

 これは誰かにとっての最高傑作であって、僕にとっての最高傑作ではない。しかし、僕にはそれがとても重要なことのように思える。幸せな人生の幕引きとはどうあるべきか。そんな問いかけを必要とする局面、観る者の立場や感情次第ではいつまでも心に残る1本になり得るから。それほどこの映画は色々と考えらされる。

死と向かい合う感情

しあわせな人生の選択

© IMPOSIBLE FILMS, S.L. /TRUMANFILM A.I.E./BD CINE S.R.L. 2015

 主演のリカルド・ダリンが最優秀男優賞を受賞した2015年のサン・セバスティアン国際映画祭。彼は受賞後のスピーチの中で、老犬トルーマンを演じたトロイロを2ヶ月前に亡くした悲しみを口にした。トロイロの演技指導をしたのは他でもないダリン自身だったという。皮肉にも、映画の外では彼の方が見送る立場になってしまったのだ。

 死に逝く者とそれを見送る者。この映画はそれぞれの視点から死と向かい合う感情が描かれる。末期がんに侵され余命宣告を受けたフリアンはもちろん、彼に会うためにカナダからスペインに戻ってきたトマスにも葛藤がある。終末医療を拒むフリアンを前に、トマスも簡単にはその覚悟を否定できない。どこまで踏み込んでいいものか。かつての親友同士、滅多に会うことがない二人が隔てた時間以上にその壁は大きい。

 ましてやトマスにはカナダに仕事もあれば家族もいる。4日間を共に過ごせば別れが訪れることも分かっている。当然そこには後悔を残したくない想いもあるだろうが、自分の感情だけを押し付けるわけにもいかない。しかし、そんな言葉にできない精一杯の気遣いがフリアンに心境の変化をもたらす。

 とにかくトルーマンの里親だけは見つけたいと始まった4日間。気まずくなった知人との関係修復、離れて暮らす息子との再会、結局二人はこのわずかな期間に様々な案件を片付けることになる。家族や恋人ではないトマスが相手だからこそ、フリアンもわがままでいられるのだ。しかし、観ているこっちが羨ましくなるような二人の関係性が、どうしようもなく死と向かい合う感情を意識させる。そこにはフリアンなりの覚悟があり、またそれを見守る側の想いもあるから。

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