ノンフィクション小説を原作にしたルイス・ザンペリーニという男の体験を描いた伝記ドラマ。アンジェリーナ・ジョリーの2本目の監督作としても話題の一本。
ルイス・ザンペリーニは1936年のベルリンオリンピックで活躍し、トーランドの竜巻と呼ばれたアメリカの伝説的なランナーである。
第二次世界大戦では陸軍航空部隊に所属していたが、日本軍の捕虜として終戦を迎えることとなった。その後の人生では捕虜生活のトラウマからPTSDに長く苦しみ、2014年7月2日に満97歳で他界した。
ルイス役には『ユナイテッド -ミュンヘンの悲劇-』『300 帝国の進撃』のイギリス俳優のジャック・オコンネル。ギャレット・ヘドランド、ジェイ・コートニー、ドーナル・グリーソンらが共演した他、捕虜を虐待していたことで知られる渡辺睦裕を日本人ギタリストのMIYAVIが演じている。
- 製作:2014年,アメリカ
- 日本公開:2016年2月16日
- 上映時間:137分
- 原題:『Unbroken』
- 原作:ノンフィクション「Unbroken(未訳)」ローラ・ヒレンブランド著
Contents
- 1 予告
- 2 あらすじ
- 3
映画を見る前に知っておきたいこと
- 3.1 ルイス・ザンペリーニ
- 3.2 苦痛に重きが置かれている
- 3.3 本作にまつわる反日問題について
予告
あらすじ
栄光
ルイスの少年時代は、あまり恵まれているとは言えなかった。イタリア移民の子で両親は英語を喋れず、学校ではイジメに合う日々。その境遇からか、あちらこちらで盗みは働くし、誰とでもケンカをするような手のつけられない不良少年だった。
しかしそんなある日、見兼ねた兄のピートに強く諭される。
「このままではただの惨めな不良だ」
「出来ないことは何もない」
この言葉に励まされたルイスは、鬱屈としたエネルギーを陸上に向けるようになっていく。才能に恵まれた彼の人生は一変し、次々とアメリカの記録を更新していく。
“トーランスの竜巻”と呼ばれた彼は1936年のベルリンオリンピック5000mに出場するまでになり、最後の一周で次々とライバルを抜き去る姿は人々に大きな感動を与え、一躍アメリカの英雄となった。
漂流
その後、第二次世界大戦が勃発。ルイスはアメリカ陸軍航空隊に入隊し爆撃手となった。しかし、ルイスの乗った機体は南太平洋上カントン島での救助活動に向かう途中にエンジントラブルに見舞われ墜落してしまう。
終戦間近の1943年4月のことであった。
11人のクルーの内、生き残ったのはルイスとキャプテンのフィル、そして後部砲手のマックの3人だけだった。3人は簡素な救命ボートで無限に広がる太平洋を漂流することになる。照りつける太陽と荒れ狂う嵐に襲われ、さらにはサメの襲撃や日本の爆撃機による機銃掃射に合いながらも何とか生き延びてきた3人だったが、飢えと脱水によって疲弊し、33日目にしてついにマックが絶命した。
ルイスとフィルの二人もすでに限界を超えていた。しかし二人は47日を生き延び、墜落地点から2000マイル(約3200km)離れたマーシャル諸島に流れ着いたのだった。
捕虜
二人は日本海軍に捕らわれ、別々の場所へ送られた。フィルと別れて大森収容所に収容されたルイスは、捕虜への残酷な仕打ちで“鳥(バード)”とあだ名される渡辺伍長に目をつけられることになる。いつ死んでもおかしくない絶望的な状況の中、「生き延びることが復讐だ」と己を奮い立たせ、なんとか生き延びようとする捕虜たち。
理不尽な罰を受けながらも「耐え抜けばやれる。自分から挫けるな」という兄の言葉を胸にルイスは決して折れなかった。
そんな中、アメリカ本国では自分が戦死した事になっていると告げられたルイス。オリンピック選手としての彼の知名度を利用しようと考えた上層部は、ラジオ・トーキョーでアメリカの卑下し、日本軍を持ち上げるプロパガンダを持ちかける。
おいしい食事や甘い条件で釣ろうと説得を試みるが、ルイスは拒否。大森収容所に戻った彼を待っていたのは、“バード”による非道な暴力だった。
「お前は日本の敵だ」
そう言い放ち、捕虜全員に一発ずつルイスの頬を殴れと命令を下す。
Sponsored Link
映画を見る前に知っておきたいこと
ルイス・ザンペリーニ
この映画はルイス・ザンペリーニという人物の証言が基になったノンフィクション「Unbroken(未訳)」を原作にしている。ルイス・ザンペリーニとはどういった人物なのか。
簡単なプロフィールはwikipediaに丸投げするとして、彼のその後の人生について詳しく触れている記事が毎日新聞のサイトにある。映画を見ようと思う人、もしくは既に見た人はそちらの方が興味深い内容だと思う。
毎日新聞 – ハリウッド万華鏡(9)映画よりドラマチックなザンペリーニの生涯
毎日新聞の記事は結構長いので、「読むのめんどくさい!」という人のために簡潔にまとめるとこんなところ。
- PTSDで開放された後の生活の方が辛かった
- キリスト教の「敵を愛せ」という教えに救われた
- その後の人生では日米和解へ向けて大きく貢献した
- 渡辺睦裕は米CBSのインタビューに応じ、個人的に謝罪
- ザンペリーニは渡辺睦裕に面会を求めたが、家族を通じて拒否
- ザンペリーニ「私は彼に土下座してほしかったわけではない。ただ、ランチでも食べながら長野五輪や家族の将来について語りたかった」
苦痛に重きが置かれている
紹介した毎日新聞の記事でも触れているが、映画は主にルイス・ザンペリーニの捕虜生活に重点を置いており、その後についてはあまり描かれていないようだ。その点についてロサンゼルス・タイム誌は「苦痛の部分に重きを置きすぎ、贖罪の部分が少なすぎる」と批判している。
確かに、彼の生涯を知ると個人的にもその後の再生ドラマの方に興味がそそられるものの、そっちを中心に添えるとハリウッド映画としては少し地味になってしまうかも知れない。
しかし、2時間の尺で全てをドラマチックに描くのはさすがに難しいのも理解できる。それぐらいルイス・ザンペリーニの人生は壮絶だった。
見方によっては、苦痛の方を描くことに吹っ切れてしまったのは逆に良かったのかも知れない。
本作にまつわる反日問題について
さてこの映画、ルイス・ザンペリーニのどんな境遇に置かれても折れない心を描いた感動作なのだが、その内容とは全く関係のないところで火がついている。
日本兵による捕虜暴行が凄惨に描かれるため、少なからず反日感情を煽っていると見られている点で、「反日映画」として語られることが多いようだ。
これについて、日本を悪者にしたい国の話だとか、日本人が哀れだとか、ルイス・ザンペリーニが虚言壁があるとか、ローラ・ヒレンブランドは反日だとか、さらにはアンジェリーナ・ジョリーと創価学会の繋がりや、福音派キリスト牧師のビリー・グラハムまで引っ張り出されて、まぁ色々とあちらこちらで燃え上がっている。
しかし僕らは一映画ファンであり、右翼でも左翼でもないので、その辺のことはどうだって良いというのが正直なところ。
彼女らが「日本は悪い国だからこんな映画や本を作って世界に思い知らせてやる!」というつもりで本作を作ったなんて考えるのは映画ファンの一線を越えているし、そんな悪意を映画文化に持ち込みたくないというのが一映画ファンとしての思いである。
しかしながら芸術は歴史的に見てもプロパガンダに利用され易く、且つ権威と人気があるものなので、やはりそれなりの注意は必要であるとは思うものの、それでもやっぱり「反日映画」という争いの火種になりかねない物騒な視点で映画を見るのは、あまりにもったいない。
ちなみにアンジー自身は、「日本とアメリカだけでなく、対立してきた国々の橋になるような意味のあるものを想像したかった」と語り、ギタリストのMIYAVIはそれに心を打たれた形でプレッシャーをはねのけて出演を決めたと語っている。
映画「アンブロークン 」の中では、不思議なことに、日本人に対して「jap」という言葉は出てこない。反日映画だったら必ず「jap」と吐き捨てる描写が出てくる。この映画にそれがないのはアンジー監督が日本人に敬意を払っている証だと言える。