映画を観る前に知っておきたいこと

【ヴィクトリア】全編140分をワンカットで撮影したクライム・サスペンス

ヴィクトリア

スペインからドイツにやって来た少女ヴィクトリアがベルリンの街を失踪する140分をワンカットで撮影したクライム・サスペンス。たった一夜で一変する彼女の人生を観客はリアルタイムで体感することになる。

ドイツ製青春映画『ギガンティック』(1999)のゼバスティアン・シッパーが監督を務め、脚本がわずか12ページしかないため、俳優は即興の演技とセリフを要し、撮影中に発生したハプニングすらも映画の一部となっている。

ベルリン国際映画祭、銀熊賞(最優秀芸術貢献賞)をはじめとする3冠を達成。ドイツ映画祭でも6冠(作品賞・監督賞・主演女優賞・主演男優賞・撮影賞・作曲賞)を達成。


  • 製作:2015年,ドイツ
  • 日本公開:2016年5月7日
  • 上映時間:140分
  • 原題:『Victoria』
  • 映倫区分:PG12

予告

あらすじ

3カ月前に母国スペインからドイツにやって来た少女ヴィクトリアは早朝4時半、踊り疲れてクラブから外に出たところで4人の青年に声を掛けられる。まだドイツ語がうまく喋れず寂しい思いをしていた彼女は4人と楽しい時間を共有することに……ヴィクトリアしかし、彼らにはギャングの命令で銀行を襲撃する計画があった。ヴィクトリア運転手役の青年が泥酔してしまい、ヴィクトリアがその代わりを務めることとなる。ヴィクトリア計画は成功し、彼らはクラブに戻って勝利を祝うのだが……


映画を見る前に知っておきたいこと

ジャズやブルースのインプロビゼーションによる名盤のような映画

本作最大の見所は、140分という全編に渡ってワンカットで撮影した手法だ。予告編ではカットが入っているが、本編は正真正銘ワンカットの超長回しで撮られている。カメラは建物の中と外を行き来し、緊迫した様子が立て続けに映し出される。これはかなり実験的な試みとも言えるが、この手法における問題さえ解決してしまえばそれは圧倒的な臨場感を作品にもたらしてくれる。それがクライム・サスペンスとなればことさら威力を発揮する。

その問題とは、撮影におけるNGである。普通はこんなに長いワンカットではセリフを覚えることすらままならないだろう。しかし、監督・脚本を務めるゼバスティアン・シッパーはあえて12ページしかない脚本を用意することで作品に自由な余白を残し、撮影中に発生したハプニングすらも映画の一部であるように仕向けている。

撮り直しがない緊張感の中で俳優がとっさに見せる演技や、人間の視界のように途切れることのないカメラワークは、観客に映画が今その場で起こっていることのような錯覚を起こさせることに見事に成功している。その証拠がドイツ映画祭での主演女優賞・主演男優賞の受賞である。こんな挑戦的な手法をとって演技も素晴らしいとなれば、この映画にもはや隙はない。完璧主義な監督が撮る完璧な映画とは別の意味で、奇跡的に完璧な仕上がりとなった映画だ。音楽で言えば、ジャズやブルースのインプロビゼーションによる名盤のようなものだ。

この撮影方法はドイツでかなり高い評価を受けることとなった。ベルリン国際映画祭の最優秀芸術貢献賞とは、2008年から撮影、編集、音楽、衣装、セットデザインなどに与えられる賞だが、本作の受賞においては間違いなく撮影に与えられている。

しかし、こうした評価も俳優が素晴らしい演技を見せなければ、ただの色物のように見られたかもしれない。ゼバスティアン・シッパー監督が脚本の段階から、名演を引き出すことを想定して撮影に臨んだのは明白であるから感心する。

もし、本作の全編ワンカットで撮影する手法を観客が気に入るのであれば、これから世界でこの手法を用いた作品がどんどん生み出されることになるかもしれない。そうなれば本作が映画史に一石を投じた作品になることは間違いない。ぜひ劇場でこの手法の是非を判断してほしい。

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