映画を観る前に知っておきたいこと

ボヤージュ・オブ・タイム
テレンス・マリックが描く科学と芸術の交点

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ボヤージュ・オブ・タイム

本能と、出会う。90分 未踏の映画体験

『ツリー・オブ・ライフ』(11)のテレンス・マリック、キャリア40年の現在地は科学と芸術の交点。過去から現在、そして未来への生命の歩みの本質を探るかのように、革新的な映像効果を用いて描き出される究極のドキュメンタリー。

これが彼の最高傑作にして映画の未来なのか、森羅万象から問いかけられる、いま我々がここにいる意味とは ──

予告

あらすじ

爆発によって宇宙が誕生し、惑星が変化を遂げていく中で命が宿り、育まれてきた。自然科学から見たその年代記を映像で辿りながら、過去から現在、そして未来へと生命の歩みの本質を探る。

ボヤージュ・オブ・タイム

© 2016 Voyage of Time UG (haftungsbeschränkt).

ダン・グラス率いる視覚効果アーティストチームと科学アドバイザーチームの10年に渡る試行錯誤の末、地球上と天空の自然現象、またマクロとミクロの世界は天体物理学的、地質学的、生物学的に正しいものとしてスクリーンに映し出されていく。

ボヤージュ・オブ・タイム

© 2016 Voyage of Time UG (haftungsbeschränkt).

研ぎ澄まされたあらゆる感覚と心、そして魂で体感する宇宙の神秘。オスカー女優ケイト・ブランシェットの語りによって、いま我々がここにいる意味が問いかけられる ──

映画を観る前に知っておきたいこと

本作には90分の35mm版と40分のIMAX版が存在するようだ。2016年のベネチア国際映画祭コンペティション部門に正式出品されると、金獅子賞を争うほど好評を博したが、日本でもベネチアで上映された35mm版が公開されることになっている。

その一方で、批評家たちの間では40分に短縮されたIMAX版の方が評価が高いのも気になるところだ。

常軌を逸したリアリティの追求

35mm版ではケイト・ブランシェット、IMAX版ではプロデューサーとしても参加しているブラッド・ピットが語りを務めたが、さすがにそこが評価の分かれ目ではないだろう。

IMAX方式で使われる70mmのフィルムは通常の35mmに比べ4倍の面積を持つため、そこに記録される情報量が圧倒的に多い。つまり、より解像度の高い映像となるわけだ。また、単純にスクリーンも大きいため広い視野角で映画を楽しむことができる。

本作は神秘的な映像の連続であるがゆえ、IMAX版のほうがより圧倒されるのは想像がつく。しかし、寡作な映画監督であるテレンス・マリックがわざわざ2つのバージョンを用意したことには何か意味があるはずだ。

ここで、視覚効果を監修したダン・グラスの「コンピューターでどれだけ本物に近いイメージのものが創りだせたとしても、本物でないことは人にはわかってしまう」という言葉を思い出す。

マリック監督から確かなリアリティに基づく映像を求められた彼は、デジタル処理によって物事を取り繕うようなことはしなかった。すべての有機体の表現が科学的に正しいものであることを根底に置いた上で、映画は彼らの直感によって支えられているのだ。

もはや解像度では計ることができない生々しさの裏には、作家たちによる常軌を逸したリアリティの追求がある。そう、これはドキュメンタリーでありながら、映画としての芸術性を追い求めたロマンある作品なのだ。

北米では批評家たちの間でより評価の高かったIMAX版が公開されたようだが、僕は日本にやってくる35mm版への興味が尽きない。

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