映画を観る前に知っておきたいこと

【提報者~ES細胞捏造事件~】世界を揺るがせた科学スキャンダル

投稿日:2015年9月21日 更新日:

提報者~ES細胞捏造事件~

2005年に韓国で実際にあったES細胞捏造事件をもとに描かれる実録サスペンス。本国・韓国で170万人を動員し大ヒットとなった。韓国の生物学者・イ博士が、世界で初めてヒトのES細胞抽出に成功したことを発表した。しかし、ある告発が全世界を揺るがせた科学スキャンダル。監督は『飛べ、ペンギン』のイム・スルレが務め、名声のためにねつ造する科学者、国益のために真実から目を背ける国民、真実を求めて奔走するジャーナリストの姿を描く。

主演は『殺人の追憶』のパク・ヘイル。共演は『群盗』のイ・ギョンヨン、『私のオオカミ少年』のユ・ヨンソク。

  • 製作:2014年,韓国
  • 日本公開:2015年10月3日
  • 上映時間:114分
  • 原題:『Whistle Blower』

予告

あらすじ

世界で初めてヒトのES細胞抽出に成功したというイ教授の発表に沸き立つ韓国。提報者~ES細胞捏造事件~だがその頃、テレビ局のディレクター・ユン(パク・ヘイル)は、教授の研究成果は捏造されたものだという匿名の告発電話を受ける。電話の主は、イ博士と共に研究を行なっていた若手研究者シム。彼は科学者としての良心の呵責に苛まれ、告発を決意したのだ。その証言を信じたユンは、真実を明らかにするために取材を開始。だがその頃、テレビ局のディレクター・ユン(パク・ヘイル)は、教授の研究成果は捏造されたものだという匿名の告発電話を受ける。しかし、イ教授への批判は国益に反するとタブー視する世論やマスコミ、さらには政府からの激しい圧力や抗議がその前に立ちはだかる……

映画を見る前に知っておきたいこと

ES細胞とは?ES細胞捏造事件とは?

ES細胞とは臓器や組織に分化する能力があるとされ、万能細胞とも呼ばれる。理論上はほぼ無限に増殖させる事ができることから、傷んだ臓器や組織の修復など再生医療への応用が期待されている。

ES細胞捏造事件とは、元ソウル大学の生物学者・黄博士が科学雑誌「サイエンス」に発表した“世界で初めて人間の体細胞からES細胞作製に成功した”とする2本の論文が、ねつ造されたものだったと2005年に発覚した実際の事件である。黄博士はノーベル賞受賞まで期待され、「韓国の誇り」として英雄に祭り上げられていたため、ねつ造を指摘したテレビ局に対して、国民や他のメディアから激しい抗議が殺到した。ES細胞は、第三者の受精卵からつくることもできるが、移植の際に拒絶反応が起きる可能性があるため、本人の体細胞からクローン胚をつくってES細胞を取り出す技術を発表した黄博士の論文が世界的に注目された。このことが本作の基となっている。

韓国のねつ造ES細胞と日本のねつ造iPS細胞

ES細胞とは異なるが、これとよく似た万能細胞であるiPS細胞(人工多能性幹細胞)が日本でも注目されたのは記憶に新しい。こちらもねつ造疑惑が持ち上がり、未だに真の決着は見ていない。日本人としてそうした観点からこの映画を見てみるのもおもしろいと思う。

そこで簡単にES細胞とiPS細胞の違いを説明しておく。どちらも多能性を持つ幹細胞であり、様々な臓器・組織の細胞に分化する能力を持っており、再生医療への応用が期待されている細胞という意味では同じである。

違う部分としては、ES細胞は着床寸前の段階の胚から、胎児の体のすべての元になる細胞を取り出し、多能性を保たせたまま培養して増やしたものであり、もしES細胞から臓器を作って移植するとなると、それは他人の細胞から作られた臓器なので通常の臓器移植と同じく拒絶反応が起こってしまう。ES細胞で臓器移植など、再生医療を行う場合はクローン技術を応用することが必要となってくる。患者本人の細胞の核を受精卵に注入し胚盤胞まで培養、そこからES細胞を作ることは可能だが、キリスト教では「受精した時点から人間である(から殺してはならない)」という考えもあり、倫理的な問題が生じてくる。

対してiPS細胞は既にできあがった体の分化した細胞を取り出し、そこに数個の遺伝子を人工的に組み込むことでES細胞と同じような多能性を再び獲得させたものである。これは本人の細胞から作るので、臓器移植の場合に拒絶反応は起きない。よって倫理的な問題も発生しない。しかし、iPS細胞による再生医療も問題がないわけではない。人工的に遺伝子を組み込むことによってなにが起こるかはまだ研究段階であり、実際の再生医療に応用されるためにはまだ検証が必要であるということ。しかし、研究が進んで実際に問題がないと証明されればiPS細胞のほうがより夢の技術であるだろう。

-ミステリー・サスペンス, 洋画
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