映画を観る前に知っておきたいこと

【ベルファスト71】人間同士の戦い、“戦争”を体験せよ

投稿日:2015年7月10日 更新日:

ベルファスト71

IRA(アイルランド共和国群)や北アイルランド問題を背景に、敵地に一人取り残された若い兵士のサバイバルを描いたドラマ。この映画の面白いところは、背景説明や無駄な語りのない体験的な作りになっているところ。頭で分かっていても仕方のない事を強制的に体に分からせるリアリティに満ちている。

監督は、これが初監督作品となるフランス出身、イギリス育ちのヤン・ドマンジュ。主演は「300 スリーハンドレッド 帝国の進撃」でハリウッド映画デビューを果たしたジャック・オコンネル。

  • 製作:2014年,イギリス
  • 日本公開:2015年8月1日
  • 上映時間:99分
  • 原題:『’71』

予告

あらすじ

ベルファスト71
1971年、紛争が激化する北アイルランドのベルファストに、イギリス軍の新兵ゲイリーが着任する。町は、複雑に絡み合う活動家たちの思惑が交差し、それぞれの側で主導権を握ろうと暗躍していた。

ゲイリーは、パトロールの最中に争いに巻き込まれ、敵対派の少年に銃を盗まれてしまう。群集の中に逃げ込んだ少年を追っていくうちに、たった一人で敵のテリトリーに入り込んでしまっていることに気づくゲイリー。
ベルファスト71
そうして、若き新兵の悪夢の一夜は始まった・・・。

映画を見る前に知っておきたいこと

現代の縮図

予告動画の一番最後「これはもはや避けられぬ現代の縮図なのだ」という一文は一体どういうことなのか。この映画の舞台は1971年のアイルランドである。1972年1月30日の血の日曜日事件の前夜という設定で描かれるこの物語は、過去の出来事を見ているようで、実はそれは現代の縮図だという。

グローバル化が進む現代、民族紛争の問題は我々にとって身近な問題となりつつある。思想的、宗教的対立は何もなく、イギリス軍兵士というだけで敵対勢力に命を狙われるゲイリーが見る現実は、そのまま現代の問題の縮図として体験的にリアリティを持ってくる。

この映画の持つそういうリアリティが、僕らを問題とは“関係のない他人”では居させない。この映画はそういう風に作られているのだ。

1972年、血の日曜日事件

1972年1月30日の血の日曜日事件の前夜という設定を聞いて、どんな事件だったのかが気になっている人もいると思うので、簡単に説明する。

事件の内容は、北アイルランド、ロンドンデリーでデモ行進をしていた市民27名がイギリス陸軍落下傘連隊に銃撃されたというもの。銃撃された27名のうち14名死亡、13名負傷という痛ましい結果となった。

市民は全員非武装で、銃撃を受けた27人のうち、5人は背後から撃たれたと言われている。“言われている”というのは、この事件については今でもイギリス陸軍側の主張と被害者を出した市民側の主張が割れており、議論が続けられている。

街には、犠牲者を弔った壁画が残されている。

血の日曜日事件 1972

この事件については、過去にいくつもの作品の題材として取り上げられており、ジョン・レノンやポール・マッカートニーの曲も残っている。マッカートニーの曲「アイルランドに平和を」はイギリスではBBCをはじめとする多くのメディアで放送禁止処分によって放送禁止にされていた。

タイトルを直訳すると「アイルランドをアイルランド人に返せ」となる。

戦いを体験せよ

ベルファスト71
『ブラッディー・サンデー』『麦の穂を揺らす風』『シャドー・ダンサー』など、アイルランドの問題をテーマにした映画はたくさんある。『ベルファスト71』がこの名作群の中に名を連ねるかどうかは分からないが、過去のどの作品とも毛色の違うことは確かだ。

この中で僕が見た事があるのはケン・ローチの『麦の穂を揺らす風』のみ。「人間って、どうしようもねえな・・・」なんて感想が漏れてしまう程、救いようのない話なのだが、見た後は何となく暖かさが残る不思議な映画だ。パルムドールを受賞した作品で大体のレンタル屋に置いてあるので、気になる人は手にとって見て欲しい。大好きな作品のひとつだ。

『ベルファスト71』の面白そうなところは、心に訴えるよりも、強制的に体験に訴えてくる手法。手持ちカメラの映像を多用し、キャストは全員ほぼ無名。戦争、民族紛争という大きなテーマを扱いながら、それをただ一人の男の一夜のサバイバルに押し込んだ。

戦争という大きなくくりで見ると、自分とは何の関係もない他人事のように思えてしまうが、この映画には単純な人間と人間の戦いを体験させようとする工夫に溢れている。個人的に、楽しみな一本である。

-サバイバル, 戦争, 洋画

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