映画を観る前に知っておきたいこと

【ドリームホーム 99%を操る男たち】人口の1%が富を独占し、99%を貧困化させている

投稿日:2015年12月28日 更新日:

ドリームホーム 99%を操る男たち

方舟に乗れるのは1%、99%は溺れ死ぬ。格差が広がる現代において、人口の1%が富を独占し、99%を貧困化させている。リーマンショック後、経済危機に瀕したアメリカで多くの人間が住宅ローンを払えず自宅を差し押さえられたという事実をもとに描かれる緊迫のサスペンス。

自宅を差し押さえられた男は、かつて自宅を差し押さえた冷酷な不動産ブローカーと手を組み、法の穴を抜け、銀行や政府、自分と同じ境遇の人々を巧みに操り、家を差し押さえて大金を稼ぐ。家族に真実を隠したまま、男の欲望とモラルが交錯する。

『ソーシャル・ネットワーク』『アメイジング・スパイダーマン』で世界的スターとなったアンドリュー・ガーフィールド主演。『レボリューショナリー・ロード』でアカデミー賞にノミネートされた個性派俳優マイケル・シャノンを迎え、ラミン・バラーニ監督が、敵対する二人がやがて共謀関係に転じ、一線を踏み越えていく危うさをスリリングに描く。

ベネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品作品。トロント国際映画祭正式出品作品。サンダンス国際映画祭正式出品作品。

  • 製作:2014年,アメリカ
  • 日本公開:2016年1月30日
  • 上映時間:112分
  • 原題:『99 Homes』

予告

あらすじ

無職のシングルファザー、デニス・ナッシュは、ある日突然、長年暮らしてきた家から強制退去させられる。たった2分間の猶予しか与えられず、なにもできないまま家族の思い出が詰まった家を失ってしまう。ドリームホーム 99%を操る男たち何としてでも家を取り戻そうとするナッシュは、自分たちを追い出した冷酷な不動産ブローカー、リック・カーバーに金で釣られ、彼の儲け話に手を染めていく。それは法の穴を抜け、銀行や政府、そしてかつての自分と同じ境遇の人々を巧みに操り、家を差し押さえて大儲けするというビジネスだった。ドリームホーム 99%を操る男たち母親と息子に真実を言えないまま、人々を破綻させ大金を稼いでいくナッシュ。しかし、それによってやがて自らも大きな代償を払うこととなるのだった……

映画を見る前に知っておきたいこと

リーマン・ショックとは?

映画を見る前に本作の背景となっているリーマン・ショックというものを簡単に説明しておきたい。2008年にリーマン・ブラザーズというアメリカの大手投資銀行が破綻したことによる世界的な経済危機なのだが、その原因となったのがサブプライムローンという住宅ローンシステムだった。サブプライムローンが本作の重要な背景となってくる。

サブプライムローンは、リーマン・ブラザーズが貧困層向けに作ったローン商品であり、回収できないリスクが高いことから利子は高く設定されていた。しかし、その分審査には通りやすく、多くの貧困層の人がマイホームを手に入れることができたという代物だ。ここまではリーマン・ブラザーズにとっても顧客にとってもメリットがあった。

しかし、2001年から2006年まで上昇傾向にあった地価が2007年に暴落してしまう。これによって当時の住宅バブルは崩壊した。ここで重要なのが、アメリカと日本での制度の違いだ。日本では住宅を手放した後も残りのローンを支払わなくてはならないが、アメリカでは担保となる家を手放してしまえばその後のローン返済の義務はなくなってしまう。これにより貧困層を相手にしたサブプライムローンは多くの債務不履行を生んでしまった。結局まったくローンを回収できなかったリーマン・ブラザーズは破綻してしまった。

リーマン・ショックとはこれに連動する形で起きてしまった世界経済の悪化である。損失はサブプライムローン全体1兆3000億ドルの15%程度と言われているが、これはさらに拡大するとされている。世界に与えた影響という意味では全体の損失は計り知れない。

映画の話に戻れば、リーマン・ショックというよりはサブプライムローンが実際の背景となっている。本作の主人公・ナッシュはこれによりマイホームを失い、これによって大金を稼いだというわけだ。少しだけこの問題を頭に置いてから、時代に翻弄される男の姿を楽しんでもらいたい。

今後のアメリカ映画界を担う監督の一人ラミン・バラーニ

本作のタイトルは原題、邦題ともに、「世界中の富の4分の1をたった1%の最富裕層が所有しており、残り99%は貧困である」というノーベル賞経済学者ジョセフ・E・スティグリッツの説がもととなっている。それだけ現代において格差社会というのは大きな問題となっている。しかも資本主義の加速していく世界においてこれを止めるための具体的な術はない。むしろ問題は巨大化するばかりである。

本作では、そんな格差問題の最たる出来事でもあったリーマンショック後の経済危機に陥ったアメリカが舞台となっている。手掛けたラミン・バラーニ監督は常にこうした社会問題を作品に織り込んでくるが、事実をもとに描くことによって、よりリアルな作品へと昇華させている。サスペンスである本作においては、よりスリリングで緊迫した空気を持たせることに見事に成功している。過去の作品『チェイス・ザ・ドリーム』(2012)でも農業経営の多角化を背景に家族崩壊の危機を描いた他、アメリカンドリームを題材とした三部作もある。人間ドラマと社会派の両面を切り口とすることが多い監督だ。

本作は、そのスリリングな展開からエンターテイメントなサスペンス映画としても十分魅力的な作品だが、それと同時に家とは何なのか?と考えらされるように作られている。それは家族との絆であり、還るべき場所であり、そしてただの儚い夢でもある。家によって守られるものもあれば、固執しすぎることでさらに大切なものを失うこともある。ジャンルは何であれ、ラミン・バラーニ監督が最後に描こうとするものは常に人間そのものである。

西島秀俊主演の『cut』で監督・脚本を務めたアミール・ナデリ

西島秀俊主演の映画『cut』(2011)を知っている人は多いと思うが、本作で脚本を手掛けているのは『cut』で監督・脚本を務めたアミール・ナデリである。ちょっと意外なつながりではあるが、日本人としては本作に興味をそそられるポイントでもある。アミール・ナデリは1970年代から活躍するイランを代表する監督の一人であり、世界にイラン映画を広めた。イランの監督として真っ先に思い浮かぶのが『桜桃の味』(1997)のアッバス・キアロスタミだが、人間の内面を深く掘り下げるような脚本には共通点を感じる。

本作のラミン・バラーニ監督も、両親はイランからの移民であることから出自はイランにある。そうした要素は本作をイラン映画の空気に近いものにしているように思う。

-ミステリー・サスペンス, 洋画
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